業界初取材。シュトーレン日本チャンピオンが作るシュトーレンは何が違うのか?「ブーランジェリー スドウ」(松陰神社前)日本最高の美味しさの秘密

クリスマスも近くなり、お菓子界ではとりわけシュトーレンが大注目されている。今回取材の舞台となるのは筆者・編集長が“本当に美味しいシュトーレン”と感動し、この師走の忙しい時期にも関わらず、取材を懇願させていただいた「ブーランジェリー スドウ」だ。

連日行列が絶えない「ブーランジェリー スドウ」があるのは、東急世田谷線の松陰神社前駅を降りてすぐ目の前。「世田谷食パン」「世田山食パン」は今ではなかなか手に入らないほどの人気ぶり。さらにパティシエ出身の須藤さんご夫婦がつくるパンは目移りするほど種類豊富。幾重にも重ねられた層が美しいデニッシュ、そして厚切りクッキーをはじめとした焼き菓子も絶品である。

そして、数多くある人気商品の中でも、一年に1回のお楽しみがシュトーレンだ。須藤さんは2018年に、シュトーレンコンテストで優勝した実績を持っている。

真っ白なフォルムがまぶしいシュトーレン(写真下)と、「和み」(写真上)の2種類を販売。地元民のみならず、日本全国にいるファンが毎年待ち遠しくする「ブーランジェリー スドウ」のシュトーレンは、もはや世田谷の冬を彩る風物詩ともいえる。

この2つのシュトーレンの中でも、この「和み」がもつ圧倒的な美味しさは、今まで食べたシュトーレンの記憶を大きく覆してくれる。なぜこんなにも美味しいのか? なぜここまで心を躍らせてくれるのだろうか?

丁寧な仕事が生み出す“クラスト感”と“口どけ”。口に入れた瞬間に感じる“食感のコントラスト”の衝撃

まず、初めて食べたときのファーストインパクトは“食感”だ。何度食べても驚くそのクラスト感と、口どけの良さ。相反する言葉であるこのワード。その2つが成立するのは、下記に挙げる2つの仕事ぶりにある。

1つ目は、“手間暇かける丁寧さ”

2つ目は、“口どけを生み出す発酵”

まず「和み」のシュトーレンを構成するのは、2種類の豆(大納言など)とアーモンドやクルミなどを含めた3種類のナッツ、そしてよもぎともち米のパフ。

須藤さんらしい、モノづくりへのこだわりがここで発揮される。ナッツ類はすべて、直前にローストしたものを用意。ローストしなかったり、ローストして時間が経ってしまったものを使うものとは、香りのたち方や美味しさが全然違うんだとか。これが食べたときの“あのクラスト感”と香ばしさにつながってくる。

またよもぎは温度管理し温めながら、適温になった状態で生地に混ぜ合わせるなど、本当に美味しいものを作るために手を抜くことは一切なく、“美味しいものを作りたい”という須藤さんの徹底したフィロソフィーを感じることができる。

そして、2つ目のポイントは、須藤さんが最も大事にしているという「口どけに」につながる発酵だ。基本はイースト菌を使い、ふくらまして作る観点ではパン作りと全く同じと話す須藤さん。

異なる点は、他のパンに比べて副材料が多いところ。例えば尖った香りのするお酒を入れたり、酵素を壊してしまうようなフルーツを使用したり……。そこに気を付けないと、膨らまなかったり、ボリュームが出なかったり、びちゃついてしまったりと、口どけや風味が悪いものになってしまうそうだ。

この発酵がなぜ大切か。それは生地が発酵する過程で生まれる“香り”が美味しさに大きく左右するから。生地の温度帯をこまめに管理し、しっかり発酵させ小麦の力を引き出し、水分量をコントロールし、バターをいい塩梅で吸わせ……一連の細かい仕事ぶりが口どけに大きく左右していく。

添加するイースト菌で、発酵力を引き出し美味しくするのがパン屋の仕事。「これこそ、パン屋のパンづくりの醍醐味です」そう話すのは奥様。

取材時はシュトーレン作りの作業を奥様が担当していた。厨房はややピリリと張り詰める現場の空気感にすぐ気づくことができた。

“少しの集中でさえ、切らさない”

筆者が過去にたくさんの取材をしてきた中でも、異なるその現場の雰囲気。シェフと奥様が、このシュトーレンにづくりにいかに集中して向き合うか、美味しいシュトーレンを作るために本気で向き合うか、その姿を肌で感じることができた。私が仕込み中に少しの質問をすると、シェフが「ミスしないように状態をしっかり見て」と奥様へ。生地の仕込みから一次発酵、二次発酵etc.そのすべての過程は全集中をもって作られていた。

素材選びから始まる“美味しい”ストーリー

「ブーランジェリー スドウ」のシュトーレンが美味しい理由は、丁寧な仕事ぶりだけではない。素材を“当たり前”のようにこだわり、厳選することから始まる。

例えば、一つあげるとしたらバターだ。数々のシュトーレン製造の現場を見てきた中でも、その香りとあまね色の澄ましバターは圧巻である。

シュトーレンを作る工程を知らない方は驚くかもしれないが、焼成後のシュトーレンをバターに漬ける作業が美味しさを担う大事な工程となっており、故にバター選びも大事なポイントに。

国産、外国産etc.と数多く存在するバター。「ブーランジェリー スドウ」がこだわって選んでいるのは一般的にあまり流通のない“冷凍していない”北海道の釧路の牧場で作られる特選バター。冷凍していないと何が違うのか? それは“香り”である。冷凍していない生の状態だと、香りと風味の豊かさは格別である。

バターは乳脂肪や食塩、タンパク質などいろいろなものが乳化し出来上がったもの。それが平温で溶かすことで、写真のように分離していく。下にたまった白い部分は、風味と美味しさの天敵でもある酸化が早く、使うのは上の澄ましバターだけ。厳選されたバターで作られたこの澄ましバターは、バター本来が持つ風味を凝縮させ、最大限贅沢にシュトーレンの美味しさへとリンクしていく。

「ブーランジェリー スドウ」のシュトーレンが時間が経っても風味も食感も損なわないのは丁寧な仕事と、それを支える食材選びが肝である。

よもぎと大納言が感じさせるシュトーレンの新たな世界

ここまで美味しさの秘密を徹底してお伝えしてきたが、そもそもなぜ数多くあるシュトーレンの中で、「ブーランジェリー スドウ」の「和み」はよもぎだったのか? その秘密を伺うと……。

須藤さん「この『和み』は、一般的なシュトーレンがドイツの伝統菓子であったことから、日本らしいものを作りたいということで考えたものです。僕が昔おばあちゃんと毎年、毎年一緒に草餅を作っていました。その時の美味しさやよもぎの香りをこのシュトーレンに詰め込みました。日本らしいものといえば、抹茶がわかりやすいですが、この懐かしい味と記憶の体験もあって、よもぎでシュトーレンを。食感のポイントとなるのは、ナッツ類もそうですが、このもち米パフです。シュトーレンを食べたときに口の中で食感のアクセントになり、日本人が好きなサクッ、カリッとした食感と香ばしさになります。」

年1回のイベントへの「美味しい想い出」に想いを馳せて丹精に、丹精に

この日のシュトーレンづくりは朝5時から始まり、休むことなく製造にいそしむ。お店も製造用に休みの日を作って、丸一日製造に当てるんだとか。

年々シュトーレンへの注目やニーズが集まる中で、「ブーランジェリー スドウ」では約2500本程度のシュトーレンを作っているそうだ。なぜそこまで、休むことなく製造するのか、そこには須藤さんの熱い想いがあった。

須藤さん「シュトーレンとは、本来クリスマスの時期を迎える喜びを楽しむものです。日本でも様々な時期に販売されてはいますが、多くの人が年1回の楽しみとして来て、買って、喜んでいただけています。

だから『昨年も美味しかったから、ブーランジェリー スドウのシュトーレンが今年も食べたいな』と思っていただければ、嬉しいです。何よりも美味しいと思っていただけることが大事なので、作る工程もご説明した通り、手間もかかっていますが最高に美味しいものを用意しています。一つ一つを丁寧に、そして魂を込めて作っているので、シュトーレンを通じて、楽しい年末を過ごしていただければ僕たちも嬉しいです。」

About Shop
Boulangerie Sudo』(ブーランジェリースドウ)
東京都世田谷区世田谷4丁目3-14 共悦ビル
アクセス 世田谷線松陰神社前駅から徒歩1分
営業時間 10:00~19:00
定休日 日・月・火(不定休 SNSにて告知)

Phot&Writing/坂井勇太朗(編集長)

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