【特集】「急性リンパ性白血病」を乗り越え 新年を彩るオペラの調べ

10万人に1人が発症するとされる「急性リンパ性白血病」を乗り越え、新年にオペラのステージに立つ男性歌手がいます。その奮闘の日々と舞台への決意を取材しました。

2024年1月、新年を祝って広島市内で開かれる演奏会「ニューイヤーオペラ」。後半の「ガラコンサート」では、地元ゆかりの声楽家達が、数々の名曲を披露します。

そして、プログラムの前半に上演されるのが、イタリアのオペラ「リタ」。元の夫と今の夫が、宿屋のおかみ・リタを「取り合う」のではなく、「おしつけ合う」喜劇です。その一方の夫を演じるのが、山岸玲音さんです。

■山岸玲音さん

「去年の12月っていうと年末に退院しましたけど、まだ入院していて術後の症状にも苦しんでいた時期ですよね。」

山岸さんは、2022年5月に「急性リンパ性白血病」と診断され、数々のつらい治療を経て、骨髄移植にこぎ着けます。

■山岸玲音さん

「正直に言いますと、もう歌えなくなってもいいやと思いました。自分の命より先にオペラがあるわけじゃないんですよね。」

それでも、山岸さんの背中を押したのは、オペラの魅力でした。

■山岸玲音さん

「退院してから、頑張ってやれば、もう一回舞台に戻れそうだと分かったときに、ものすごい力になりました。」

両親はともに声楽家。小学5年生から高校卒業までを、広島で過ごしましたが、オペラ歌手になることを考えたことは、全くありませんでした。本格的にその道を志したのは26歳のとき。両親のもとで声楽の修行を始めます。

■山岸玲音さん

「スタートは遅かったですけど、 モチベーションは高かったので、26からスタートして、死ぬ気で勉強した気がします。」

そして、県外からの公演依頼も増えてきたことから、東京に住まいを移した直後。新型コロナウイルスの感染が、急速に拡大します。舞台の仕事は、真っ先になくなりました。そして…

■山岸玲音さん

「コロナの明けかかる2022年の4月に、やっと東京で初舞台が決まった。すごく気合いを入れて準備して、働く方も一日も休まず、舞台もし、本番の次の日も働いて。そういう状況だったんです。」

無理がたたったのか。2022年5月18日、「急性リンパ性白血病」と診断されます。46歳の誕生日でした。

■山岸玲音さん

「いろんなものがガラガラと崩れて、お医者さんの前で泣きました。治る確率はどれくらいなんですかと聞いたら、先生は50%といった。ほぉ、50%かと思って。なぜかそのときポジティブに捉えられたんですよ。」

病名は公にすることにしました。そして入院中も、病室からインターネットでの配信を欠かしませんでした。

■山岸玲音さん

「しんどい時も横になりながらライブ配信とかして、毎日の状態に対して励ましの手紙だったり、コメントだったり、いっぱい下さるので、単純にうれしいですよね。」

2023年5月には、原爆をテーマにした朗読劇「蛍火」に出演。白血病と診断されて、ちょうど1年後の舞台復帰でした。

■山岸玲音さん

「ふだん生活しているのとは、一回りも二回りも違う生きている実感というのを、すごく自分の中で感じる仕事ですね。」

活動は、舞台にとどまりません。そのひとつが、5年余り前から始めた公民館での合唱の指導。東京に拠点を移してからも、可能な限り続けます。

■参加者の男性は…

「(山岸さんは)広い視野で物事を語るのでわかりやすい。」

■参加者女性

「引っ張られる気がする。マイナス思考じゃないから、ああやって生きるべきじゃと思う。」

新年の公演まで1か月。山岸さんが、広島で本格的なオペラを演じるのは、復帰以来初めてとなります。

■広島シティーオペラ推進委員 小林良子さん

「今回の特徴としては、広島出身の、ゆかりのある歌手の方たちに出演していただいています。」

■山岸玲音さん

「オペラ歌手としての自分を、育ててくれた広島という所への恩返しという意味で、広島でやるオペラには関わっていきたいという、強い気持ちがあるんですね。」

2024年が、希望に満ちた年になるように。そんな思いを胸に、新年の幕開けに、「病からの復帰を支えてくれた人たち」。そして「広島」への感謝の思いを込めた歌声を披露します。

【テレビ派 2023年12月13日放送】

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