「失敗してもいい」YouTuberから映画監督へ!A24のホラー興収記録更新『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』破天荒兄弟監督インタビュー

ダニー・フィリッポウ&マイケル・フィリッポウ 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

破天荒兄弟、YouTuberから映画監督へ

インタビューが行われたホテルの一室。机の上に“あの手”が目の前に置いてあった。

「これ、握ってみてもいいですか?」
「いいですよ(笑)」

宣伝担当さんのお言葉に甘え、おもむろに握り「Talk to me…」と言ってみたが、当然、目の前に幽霊は現れず、代わりに登場したのは映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の監督、ダニー・フィリッポウマイケル・フィリッポウの兄弟。1週間前から日本に滞在していたという二人は時差ボケもなく、朝からハイテンションだった。

「今日は緊張してまして……劇中で流れるシーアの『シャンデリア』を聴きながらここに来たんですよ!」

本当に緊張していたので、彼らが着席する前に口走ってしまう。すると、

「え、ホント? じゃあ歌うしかないね!」

え、ちょっと……こうなったら歌うしかないじゃないか……。

「ああぁぁぁぁぁいむ、ごなとぅりぃぃぃぃ‼」

恥を忍んで仕方なしに大声を張り上げて歌う(だって、背後にスタッフの方々が10人以上いらっしゃるんですよ!)。

「いいね!」

そんな体を張ったアイスブレイクが終わり、インタビューが始まった。以下、ダニーとマイケルの双方が語っているので、二人の見解として読んでいただきたい。

「一見シンプルな映画だけど、見返すたびに発見があってエキサイトできる」

―はじめに、これまでたくさんのインタビューを受けてこられたと思います。なので、極力ユニークな質問を心がけたいと思います。

そりゃいいね! 期待してるよ!

―(机の上の手を持ちながら)『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』に登場する降霊術師の“手”、これは左手ですが、なぜ左手なんでしょうか?

うん、確かに初めて聞かれたかな……答えは「たまたま見つけちゃったのが左手だった」さ(笑)。でも、歴史的に左手というのは“悪”を表しているよね。そういう意味も込めているよ。

―“悪”の手……しかし、劇中降霊される“霊”は善なのか悪なのかわかりません。

握った本人の中に何があるかによって、何が引き寄せられてくるか変わるんだ。お酒とかドラッグもそうだよね、心の調子が悪い時にやってしまうとなんだかダウナーになってしまう。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の降霊術も同じで、精神的に参っていると良くないものが現れるんだ。

―脚本が相当練られていると思います。聞くところによると100ページ以上のドラフトを凝縮した結果だそうですね。作品を観ていて思ったのですが、前半と後半で完全な対となる描写が散見されます。

そう。意図的に対になるように構成したんだよ。エピソードをパラレルにすることによって、テーマが浮き彫りになるからね。それによって連想されるイメージも階層的になるんだ。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は視覚的にも聴覚的にも何層にも折り重なって構成されている作品だよ。だから一見、シンプルに見える映画だけど、見返すたびに発見があってエキサイトできる。どうやら君は何回も観てくれたようだね。僕らの目論見通りさ! 嬉しいよ!

―恐縮です……。キャストについて伺いたいのですが、90秒憑依チャレンジパーティを主催しているヘイリー役のゾーイ・テラケスさんはトランスジェンダーの俳優さんです。彼女を抜擢した理由はありますか? 失礼な質問でしたら、すみません。

何を聞かれたって怒らないよ(笑)。えっとね、脚本の段階では誰がどんなジェンダーであるか? は考えてなかった。オーディション中は女性がいいのかな? と思ったんだけど、ゾーイの芝居の強さにやられてしまってね。本人とも会話して、ノンバイナリーでも全然構わないとなったんだ。脚本もゾーイに合わせて少し強いキャラクターに変更したよ(後で聞いたところ、キャスティングには2年を要したとのこと)。

「最初と最後は観客をスクリーンに釘付けにしたかった」

―バイオレンス描写に対してはどのような姿勢で望まれたのでしょうか? 私は(実際に頭を机にぶつけながら)こうやってヘイリーが机に頭をぶつけるシーンがショッキングで気に入っているのですが……。

(笑)。君はおかしな人だね。確かに、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』はバイオレントなシーンはあるけれど、暴力の映画ではないことはご覧の通りさ。でも、やる時はしっかりやりたいと思った。メリハリをつけるため腑に響くようなものをね。だから、メイクアップには凄くこだわった。予告編(海外版)にもある、ヘイリーが暴力に晒されるシーンは本当に手間をかけたよ。とにかく現場で実際にあの描写をやりたかったんだ。だから彼が自分の目を抉り取ろうとする場面は、特殊メイクを使って実際に抉ってもらったんだ。

―今どきプラクティカル(・エフェクト)とは……素晴らしいですね!

だろう? プロデューサーは「ほんとに現場でやらなきゃダメ? CGじゃダメ? 時間もかかるし」なんて言ってきたんだけれど、断固お断りした。実際にやった方がスクリーンで迫力が出るのは間違いないからね!

―こだわりといえば、オープニングのパーティーシーンはワンショットでした。相当な大人数の中、ワンショットを仕上げるのは大変だったと思いますが、いかがでしたか?

あのシーンは一番最後に撮ったんだ。というのは、それだけテクニックを身につけてからじゃないと挑めないと思ったからさ。まず沢山のエキストラが必要だと思って、インスタで募集を掛けたんだよ。そしたら増えすぎちゃって(笑)、バスで何往復したのか覚えてないくらい。結果的には良かったんだけど、撮影の準備が整ったのは午前4時(笑)。それから何テイクも撮ってね、ドアも10枚以上壊したんじゃないかな。鏡もあったし、廊下を曲がらなきゃいけなかったりと、とにかく苦労したよ。

―ラストシーンもワンショットですよね。

うん、最初と最後は観客をスクリーンに釘付けにしたかったから。その点、ワンショットはとても有意義な手法だね。

―逆に、ライリーが霊界に囚われているシーンのようにフラッシュバックもありました。まるで『ヘルレイザー』(1987年)に登場する地獄のような場面で、ホラー雑誌<ファンゴリア>の表紙にも使われましたが、フラッシュバックにした理由は?

本当は2分30秒あったシーンなんだけど、ちょっと酷すぎた(笑)。プロデューサーにも「これ、本当に使いたいの?」と言われたし、実際そのまま使ってしまうとレーティングにも響いてしまうということでフラッシュバックにしたんだ。実際の時間にすると15秒くらいかな?

でも、フレームごとに観てみると本当に酷いことが起こっているんだよ。アイデアとしては「子供に対するあらゆる残酷な責めを行なっている地獄」を描きたかった。そりゃ<ファンゴリア>の表紙にもなるよね(笑)

「とにかく撮れ! 遅いなんてことはない、今からでも撮るんだ!」

―最後の質問になります。YouTubeから長編映画デビューと異例のキャリアアップを果たしたお二人ですが、映画制作を志している人たちに一言お願いします!

今は撮る道具はいくらでもあるよね。「とにかく撮れ!」ってことかな。撮れば撮るほど上達するのは間違いない。失敗したっていいんだ。それは次の糧になるから。僕らは9歳からやってるけど、遅いなんてことはないよ! 今からでも撮るんだ!

―あ、そうだ。私、お二人のYouTubeチャンネル<RackaRacka>の『FBI open up (ORIGINAL)』と『Ronald McDonald』シリーズが大好きです!

君は本当に変なヤツだな(笑)。

――ひょんなことから「90秒憑依チャレンジ」を行なった主人公ミアが遭遇する恐怖を描いた『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』。監督の言う通り、シンプルなプロットだ。

“手”を握り「Talk to me…I let you in」と言うだけで霊に憑依される遊びは、異様な高揚感をもたらす。しかし、行き過ぎた遊びは取り返しのつかない事態を引き起こすのだ。まるで若者が酒の飲み過ぎやドラッグの過剰摂取で振り回されるが如く……。

しかし、人物設定やストーリーテリングの妙は、憑依を酒やドラッグのメタファーとする鑑賞を許さない。母の死を受け入れられない主人公ミア、寂しがる彼女を家族のように慰める友人ジェイド、その弟ライリーに至ってはミアを姉のようにしたっている。そんな彼らの人生が、たった90秒でめちゃくちゃになってしまうのだ。

非常にダークな物語だが、ユーモアも残酷描写もふんだんに盛り込みながら、やりすぎていない。YouTuberである故か、10代の移り気な目を釘付けにする独特のリズムも持ち合わせている。監督いわく「セラピーを受けるかのように、小さな頃に感じた恐怖を脚本に盛り込んでいった」という。誰しもが抱える不安や恐怖、彼らにとっての“恐れ”が本作に盛り込まれているのだ。

ところで、私は冒頭に書いた通り、“手”を握り、監督との90秒憑依チャレンジをしたわけだ。90秒を越えると元に戻れなくなるそうだが、さて……。

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は2023年12月22日(金)より全国ロードショー

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