[社説]代執行訴訟 県敗訴 「自治の尊厳」奪われた

 自分で申請して、自分で承認する。国の専断を可能とする初の司法判断が示された。基地が集中する沖縄にあっては、地方自治に対する死の宣告に等しい。

 名護市辺野古の新基地建設を巡る代執行訴訟で福岡高裁那覇支部は、国の主張を全面的に認め、玉城デニー知事に設計変更申請を承認するよう命じる判決を言い渡した。

 25日の期限までに県から承認が得られなければ、国は自ら設計変更申請を承認し、工事に着手することが可能になる。

 国が自治体事務を代執行したケースはない。そのようにして基地を建設し、米軍に提供した例は全国どこにもない。 

 最大の争点は、代執行の要件である「公益」をどう判断するかだった。

 本来、辺野古新基地の軍事的必要性や膨れ上がる経費、環境に与える影響、沖縄の民意などが問われるべきであった。だが、こうした論点には一切触れていない。

 付言の中で「対話を重ねることを通じて抜本的解決を図る」と希望しながら、判決の中では、県が答弁書で強調した「対話による解決」を退けた。矛盾が甚だしい。

 判決は、最高裁で敗訴が確定したにもかかわらず県が承認しないのは「それ自体社会公共の利益を害するもの」と指摘する。

 その上で、地方自治法にいう「公益」について、次のような解釈を示した。

 「法定受託事務にかかる法令違反等を放置することによって害される公益を念頭に置いたものと解される」

 9月の最高裁判決は、国土交通相の裁決に県が従うのは当然だと、裁決の拘束力を強調した。

 今回の判決も法定受託事務の適正な執行という法律論に終始し、地方の自主性を無視した内容となった。

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 地方分権改革によって機関委任事務が廃止されたのに伴い、公有水面埋め立てに関する事務は法定受託事務とされ、県に承認の権限が与えられた。

 国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」の関係に変わったと高く評価された。

 だが、その裏で進んでいたのは分権改革とは真逆の事態である。

 日米安保絡みの事案については、未契約米軍用地の強制使用手続きの際の知事権限を取り上げ、国の直接執行を可能にした。

 機関委任事務が廃止されたのに伴い職務執行命令訴訟制度がなくなり、代わりに法定受託事務の下での代執行訴訟制度が導入された。

 本来、私人の救済のために制度化された行政不服審査手続きを「窃用(せつよう)」し、自治体の自治権を縛るとともに、国の関与を制度化した。

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 司法の場での敗訴は、分権改革後の制度の仕組みが「安保重視・基地維持」を前提にした立て付けになっているからだ。

 初めから国の勝訴が約束されているようなものである。

 知事が承認しなければ、代執行の名の下に埋め立てが強行される。

 市民団体の中には「再撤回」を求める声が強い。

 知事が期限内に承認すれば、代執行は回避されるが、承認に基づいて工事が始まる。

 知事が承認した場合、これまでの主張が全て水の泡となるだけでなく、法的対抗措置も打ち出せなくなる。公約を実現できなかった責任は大きい。

 県庁内には、司法の判断に従うべきだとの意見が少なくないが、さまざまな点を総合的に判断した場合、知事は承認すべきではない。

 承認をせずに辞職し、知事選に出馬して信を問うことも選択肢の一つだ。

 負担軽減の実質化を図り、安全保障に脅かされるような日常を転換させる。

 島しょ防衛に絡む急激な軍事化や安全保障の在り方を全国規模で議論する。

 来年は各種選挙が集中している。またとない機会に安保を争点に掲げ、日本や沖縄の未来を問うのである。

 歴史的な判断を下す期限は迫っている。

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