博多-釜山 就航1年試乗ツアー 片道3時間40分のゆったり船旅【ルポ】

釜山の街を背に写真に納まる乗客

 青い空と海に、真っ赤な船体がひときわ映えた。福岡市博多港と韓国・釜山港を結ぶ高速船クイーンビートルは先月、就航1年を記念した試乗ツアーを実施。記者も同行取材し、ゆったりとした船旅と、再開発が進む“お隣さん”の街を体感した。

 全長83.5メートル、3階構造のトリマラン(三胴船)。正面から見ると、船体の下半分がM字型で、揺れを抑える効果がある。内外装は西九州新幹線と同様、水戸岡鋭治氏がデザインした。
 私が気に入ったのは座席。ビジネスクラスAシートの前後間隔は140センチと広い。後ろの客に気兼ねせず最大約160度まで傾けられ、同時にフットレストが上がり体を伸ばせた。

ビジネスクラスの座席は前後の間隔が広く、最大160度まで傾けられる

 シートベルトは不要。この日は波高約1.5メートルだったが、さほど揺れは感じない。平日に乗船していたのは定員の約6割の約300人。スタンダードクラス席のラウンジは、売店のサーバーで注いだビールを片手にほろ酔い気分の乗客でにぎやかだった。子どもたちはキッズルームの滑り台を楽しんでいた。
 船首やデッキで海風を浴びながら対馬を眺めた。通り過ぎる頃には、前方に釜山の街並みが見え、本県との近さを感じた。港に入ると写真撮影タイムだ。博多を出て3時間40分。この船のコンセプト「移動そのものを楽しむ旅へ」に納得した。
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 韓国観光公社スタッフの案内で港周辺を散策。中心部のビルや斜面地に密集した住宅は、長崎市に似て親近感を抱いた。
 同港の北側一帯は、老朽化などを理由に2008年から再開発が進む。開発予定の総面積は東京ドーム約80個分の約380万平方メートル。コンテナターミナルなどの物流機能を段階的に近くの新港に移し、跡地に7階建てオペラハウスのほか、コンベンション施設などを建設する。高所から夜景を望むと、61階建て高層ビル2棟が目を引いた。ビジネスと国際観光の拠点として生まれ変わろうとするのも、長崎市とダブって見えた。
 豚肉を焼く「サムギョプサル」や屋台名物「韓国おでん」などのグルメも堪能した。中でも「テジクッパ」は釜山発祥。豚肉を煮込んだスープ、キムチ、えびの塩辛、白米などが小皿に分けて出てきた。食べ方を知らず、全てスープに入れてみたが、本場は少しずつ加え自分なりに味を調節するらしい。あっさり優しい味の後からキムチの刺激が追いかけてくる。おいしかった。

釜山発祥の料理テジクッパ

 1泊2日で十分、気軽に海外を満喫できた。一見、福岡-釜山を約1時間で結ぶ飛行機には到底かなわないが、この船は手荷物の個数制限がなく、港から地下鉄が通る釜山駅まで徒歩10分とアクセスもいい。
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 運航するJR九州高速船(福岡市)によると、就航1年目の利用者数は約9万5千人。目標の15万人には届かず、訪韓需要の回復は途上のよう。同公社によると、釜山の訪問外国人観光客の約2割を日本人が占め、最も多い。特に釜山屈指の繁華街、駅地下の「西面モール」は日本人客に人気、店員にも簡単な日本語であれば通じた。
 「ちょっと釜山へ」。そんな感覚で、またすぐにでも訪れたい、と帰りの船に揺られながら思った。

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