社説:北新地放火2年 惨事防ぐ手だて着実に

 26人が犠牲になった大阪市・北新地のビル放火殺人事件から2年がたった。

 テナントの心療内科クリニックで、職場復帰を支援するプログラム参加者らが襲われ、逃げ場のない中での火煙の恐ろしさを改めて思い知らされた。

 ガソリンを使った放火と殺人の容疑者の男=当時(61)=は事件で死亡し、不起訴となった。

 なぜクリニックを襲撃したのか。本人の口から語られず、真相を解明できなくなったことが、遺族や他の通院者らの喪失感とやり場のない痛みを深くしている。

 関係者への継続的な支援とともに、惨事を繰り返さないための教訓と手だてを社会で備えていかねばならない。

 事件後の遺族らをさらに傷つけているのが、犯罪被害者への補償の不公平さである。

 被害者や遺族に対する国の給付金は、事件前の3カ月間の収入を基準に算定される。このため復職に向けて準備中だった犠牲者らは、無職の扱いにされるなどして少額にとどまっているという。

 他方で、交通死亡事故で支払われる自動車損害賠償責任(自賠責)保険は、将来に得られたであろう「逸失利益」に基づく。

 内閣府と警察庁によると、死亡事故で2021年度の自賠責の平均額は約2514万円なのに対し、事件の給付金は22年度平均で約743万円と3割に満たない。

 加えて加害者から賠償金を受け取れるケースはまれで、殺人などの死亡事件で7割超が全く支払われていないとの調査結果もある。

 理不尽と言わざるをえない。

 政府は今年6月、給付金の引き上げに向け有識者会議で検討を始め、1年以内に見直し策をまとめるという。被害者側への見舞金や生活支援策を条例化する自治体も3割超に増えつつあるが、全国一律の給付制度の拡充が不可欠だ。

 一方、甚大な被害を防ぐ火災対策は広がりを欠く。国は本年度から避難経路などの改修補助制度を設けたが、全国の自治体で始めたのは大阪市と、京都アニメーション事件のあった京都市のみ。補助の活用事例は京都市内の1件という。

 持ち主のニーズの把握や、テナント休業に伴う経済的負担などが課題となっているようだ。

 北新地のビルと同様に、階段が一つで被害の拡大しやすい建物は全国で約3万棟にも上る。防火・防煙設備や退避スペースの確保など、可能な手だてから被害を抑える対策を積み上げたい。

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