社説:共同親権 子どもに最善の環境を

 子どもにとって最善な環境を優先に考えた対応が欠かせない。

 離婚後の共同親権の導入に向け、検討を進めてきた法制審議会が要綱案原案を示した。

 どちらか一方の「単独親権」となっている現行民法を改め、父母が協議で共同か単独かを選ぶ。合意できなければ家裁が決めることを柱とする。

 子どもへの虐待などの恐れがある場合は、単独親権と定めると明確化した。共同親権になれば、ドメスティックバイオレンス(DV)を含め加害側の関与が続くとする被害者らの根強い懸念に配慮した形である。

 部会は来月にも要綱案を取りまとめる。政府は来年の通常国会に改正法案の提出を目指すという。

 共同親権は、離婚後も双方が養育に関わることで経済的に安定し、親権争いに起因する子どもの「連れ去り」が避けられるとの考えから、議論されてきた。

 推進する側と慎重派のそれぞれに合理的な理由があるが、虐待など心身被害の恐れの重大さを踏まえ、実効性ある措置や運用を確保することは大前提になろう。

 現場の弁護士らからは、夫婦で合意に至らなかった場合、判断を下すことになる家庭裁判所の対応力を疑問視する声がある。

 的確な家庭状況の把握や親との関係構築など、家裁の判事や調査官の役割はいっそう重くなる。人材確保と質の向上は不可欠だ。

 共同親権になれば、子どもの進学や病気の長期的治療など重要事項は基本的に双方の合意で決め、緊急手術など話し合う時間がなく「急迫の事情」がある時は、単独で決定できるとした。

 さまざまな状況が考えられ、線引きは難しく、学校や医療現場の混乱も想定される。結果的に子どもがしわ寄せを受ける事態は避けなくてはならない。

 離婚後の養育費受給が、約3割にとどまる現状も看過できない。

 原案は、支払いが滞った際に優先的に財産を差し押さえられる「先取特権」を付与。離婚時に養育費の取り決めがなくても一定額を請求できる仕組みも創設するという。単独親権でも確実に受給できるような仕組みを整えたい。

 離婚後の夫婦の関係はそれぞれだが、両親は親権の有無に関係なく、子どもを養育する義務がある。離婚に際し、親が養育に関する理解を深め、責任を自覚する機会を確保してはどうか。

 詳細な制度設計には、当事者を含めた丁寧な議論が求められる。

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