「基本はシャロー。今はちょっと上から」“アプローチ国宝”松山英樹 トークレッスン(前編)

松山英樹 アプローチを語る。左は”松山グラインド”の60度(撮影/服部謙二郎)

松山英樹の生命線といえば、ドライバー?アイアン?それもそうだけど、やっぱり思い浮かぶのはアプローチだろう。北米大陸を中心に広大なエリアを転戦するPGAツアーにあって、どんな芝質にも対応し、第一線で戦い続ける寄せの技術。今までほとんど明かすことがなかった国宝級のアプローチの片りんを語るインタビュー。前後編の前編はPGAツアーの様々な芝への対処法や、克服にかかる年月について。(聞き手・構成/服部謙二郎)

アメリカの芝に慣れるのにかかった歳月は丸2年…

近年若手プロが欧米の舞台に次々と羽ばたいているが、その誰もが壁にぶち当たるのがアプローチだ。海外のコ-スの芝は日本とは全く違い、米国では東海岸から西海岸まで、エリアによって気候も植生もまるで異なる。慣れない芝からいきなりショートサイドのピンに寄せなさいと言われても、無理がある。今やアプローチの名手として認知されている松山ですら、「米国の芝に慣れるのに2年かかった」と言うほどだ。果たして彼は、どうやって克服してきたのか。

2023年「AT&Tバイロンネルソン」練習ラウンド、グリーン周りのチェックに余念がない(撮影/服部謙二郎)

「いろんな芝に対応する中で、『この芝だったらこれ(この打ち方)でしか打てない』というのは、たくさんありました。本当にそれが正解なのかはいまだに分かってないんですが、その中で『この打ち方以外で打てる方法はないかな』というようなものを常に探ってきた。日本だったら(打ち方が)一種類あれば良かったですからね」。松山はアプローチ練習場の滞在時間が長い。時には半日ぐらい、グリーン周りを行ったり来たりして、ずっとウェッジを握っていることもザラにある。

「米国はコースの芝(の種類)が毎週変わるので、やっぱり入念になりますよね。日本だとどのコースも大体同じで、長さが違ったとしてもちょっとした意識の違いだけでうまくいく。でも、米国はちょっとした意識変化だけじゃ難しくて、大幅に打ち方を変えてみないとダメ。それで合うか合わないかを探っていく作業の連続。でも、『やっとわかった!』ってなっても、そのコースはもう次の年(にもう一度確認すること)になるんで…。そうなるとまあ、習得するまで時間はかかりますよね」。慣れるのに2年かかったのもうなずける、気の遠くなるような作業だ。

聞けば、同じロサンゼルス市内にあるリビエラCC(ザ・ジェネシス招待の会場)とロサンゼルスCC(2023年の全米オープン会場)でも、芝質は「全然違う」と言う。2つのコースは直線距離で10㎞も離れていないのだから、西海岸と東海岸の違いとなれば、もはや想像すらできない。

ことしの「全米オープン」のアプローチ練習場で、松山は桂川有人に「バミューダ芝の逆目の打ち方がどうしても分からない」と相談を受けた。答えは「バミューダって難しんですよ。僕もまだ分かっていないですからね。バミューダ芝の中でもいっぱい種類があるし、ドライなところもあればウェットなところもあって、一概に正解がない。結局は、その状況によって正解を自分で見つけていかなきゃいけないんですよね」。やはり近道などないのだ。

2023年「全米オープン」で桂川有人からアプローチの相談を受ける松山(撮影/中野義昌)

松山でも、苦手な芝が今もある。「もうどうにも対応できないと思った」と言うのが、ペブルビーチGLのラフと、ロサンゼルスCCのフェアウェイ。大抵のコースは難しさを感じても、「試合をやっていく中でだいたいはつかめてくる」というが、その2つだけは「最後までつかめずにそのまま終わってしまった」。しかし、フェアウェイの芝が難しいというのはあまり聞いたことがない。「(ロサンゼルスCCの芝は)もう何してもうまくいくイメージができないし、全部ミスになる。距離感も出せないし、方向も出せなかった」とお手上げだったらしい。うーん、奥が深すぎる…。

シャローでも、少し上から入れるように

試行錯誤の2年間で「打ち方を変えました」と、ヘッドの入れ方やクラブの軌道をテコ入れしてきた。「いっぱい変えすぎて、もうどれがベースだったかも分からない。(軌道も入れ方も)全然変わりましたからね。でも、今は昔に戻ってきていて、日本の時みたいに上から入れるイメージです。ショットも含めて一回昔に戻ろうみたいなところがあって」と、“一周回って”過去の打ち方に戻ってきているそうだ。

球を低く出す足を使ったアプローチ(撮影/服部謙二郎)

ただし「上から入れる」といっても、極端にダウンブローにするわけではない。「上からをイメージしているんだけど、上からじゃないというか…。基本的にはシャローに入れたいんですけど、上手くいったりいかなかったりするから」と本人でも説明が難しい様子。シャローにヘッドを入れるベースに“上から入れる”というスパイスを加え始めているところ。「打ち方の変化を加えた時って、やっぱりミスが多くなるんで。その変化を加えた中でどうしていけばいいかとか、いっぱい考えています」とまだ完成形にたどりついていない。

2023年「AT&Tバイロンネルソン」最終日。少しカットに入れて傾斜なりに寄せていった(撮影/服部謙二郎)

アプローチはフェースに球を乗せてつかまえているのだろうか? 「つかまえている意識も、ちょっとだけ意識して切ることも、どっちもある。でも本当に試合の中だったら、ライ次第で何通りもあって、あえてつかまえないように打つ時もあります」。安易に正解を見つけないあたりが、“名手”と呼ばれるゆえんかもしれない。アプローチの旅はまだまだ続きそうだ。

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