インド映画の異才が本気で怖いホラーを作ったらどうなる?『ピザ 死霊館へのデリバリー』 はグロ描写に頼らない“タミル流”心霊ムービー

『ピザ 死霊館へのデリバリー』©Thirukumaran Entertainment

CS映画専門チャンネル ムービープラスで間もなく放映される、タミル語の本格的ホラーの代表作、『ピザ 死霊館へのデリバリー』(2012年)をご紹介します。

タミル・ニューウェーブの異才たちの出発点

2012年公開の本作、監督のカールティク・スッバラージ、主演のヴィジャイ・セードゥパティ、音楽のサントーシュ・ナーラーヤナンと、タミル・ニューウェーブの申し子にして現在のタミル語映画界を背負って立つ3人の異才のデビュー作、または最初期の作品で、彼らはこの低予算大ヒット作から順調にキャリアを展開し、現在の地位に至っています。

チェンナイでピザ店の店員・配達員として働く若者マイケル。同棲相手のアヌはオカルト&ホラー・マニアで、マイケルも付き合いでホラー映画などをよく見ています。ある日、彼女から妊娠を告げられたマイケルは、気楽な同棲生活を卒業して結婚生活に入る覚悟を決めます。同じ頃、用事を言いつけられて訪れた店長宅で、店長の娘で何か問題を抱えているらしいニティヤという少女の凄まじい憑依の相を目の当たりにします。そんな出来事があった後に配達に訪れた一軒家で、彼は怪異に遭遇し、不可思議な力でそこに閉じ込められることに。

そこからの約45分、観客はマイケルと共に死霊館に引きずり込まれ、永遠にも感じられる恐怖と戦慄と無明の時を過ごすことになります。ホラーとはいえ、グロテスクな肉体損壊のゴア描写は無いのですが、その代わりに神経を逆撫でするあれやこれやが次々と襲来し、もう嫌だと思いながらも怪異の由来が明かされてスッキリできるまでは、画面から離れられなくなるのです。一般的に「全然怖くない、膝が崩れるバカバカしさ」のコミック・ホラーが主流のインド映画ホラーで、これは相当に異色のものでした。

タミル語映画界に新風!作家性が先行したジャンル映画

監督のカールティク・スッバラージは、これがデビュー作。実は結果的に第2作目となった『ジガルタンダ』を撮ることを当初望んでいたのですが、資金集めがうまくいかず、ならばより低予算で済むホラーを作ってやろうと本作に取り組んだそうです。確かに本作、ほとんどの場面がチェンナイのアパート、モダンな一戸建て、ピザ店、街路で撮られており、ソングは踊りのないBGM風、俳優たちにもその時点でスターと言える人物はゼロでした。

欧米の古典ホラーをよく研究した上で意表をつくどんでん返しを織り込んだ脚本を書いた監督の才気が横溢しており、まさに理想の監督デビューと言っていいものでした。本作で鮮やかに決められた衝撃的なツイストは、ジャンルは異なってもその後の監督作でも特徴的に見られるカールティク・スペシャルです。つまり本作は、当時のタミル語映画には珍しかった、作家性が先行したジャンル映画だったのです。

テレビ初登場! 大人気俳優ヴィジャイ・セードゥパティ

とはいえ、本作がデビュー後4作目となったヴィジャイ・セードゥパティ(通称VJSまたはVSP)のことにも触れないわけにはいきません。上で4作目と書いたのは、下積みエキストラ時代を経て、クレジットされるような役を演じ始めてから4本目という意味です。

『マスター 先生が来る!』(2021年)の重量級悪役により日本での認知度も爆上がりしたVJS。本国インドではこの『ピザ 死霊館へのデリバリー』と、同年公開の『途中のページが抜けている』で大注目となり、スターへの道を歩み出します。

この2作品での役柄は、どちらもありがちな正義のヒーローからはかけ離れた風変わりなキャラクターで、その後の芸風を予言するかのようです。なぜか両作ともに劇中で同じセリフを幾度も繰り返す役なのですが、恐怖に怯え続ける一人芝居で同じセリフを何度も繰り返しながら、一瞬たりともダレがない本作での演技は絶賛されました。『マスター 先生が来る!』などからVJSを追いかけ始めた方には、本作のウルトラスリムな体形も新鮮でしょう。

ムービープラスで12月25日放映の本作の予習と復習には、東京のキネカ大森で開催の「インディアンムービーウィーク(IMW)2023 パート2」にお出かけください。ヴィジャイ・セードゥパティ特集として出演作7本が上映されるこのタイミングをお見逃しなく。

『ピザ 死霊館へのデリバリー』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる! インド映画」で2023年12月放送

▼今すぐ観られるカールティク・スッバラージ主要作品

(※2023年12月現在)

『ジガルタンダ』(2014年)IMOで配信中

『女神たちよ』(2016年)IMOで配信中

『ペーッタ』(2019年)Netflixで配信中

『トリッキー・ワールド』(2021年)Netflixで配信中

『平安』(2021年:ウェブシリーズ『ナヴァラサ:9つの心』の中の一編)Netflixで配信中

▼今すぐ観られるヴィジャイ・セードゥパティ主要作品

(※2023年12月現在)

『キケンな誘拐』(2013年)IMOで配信中

『ジガルタンダ』(2014年)IMOで配信中

『俺だって極道さ』(2015年)IMOで配信中

『女神たちよ』(2016年)IMOで配信中

『ヴィクラムとヴェーダー』(2017年)「インド大映画祭(IDE)2023」で上映

『まばたかない瞳 バンガロール連続誘拐殺人』(2018年)IMOで配信中

『’96』(2018年)「IMW2023パート2」で上映

『ペーッタ』(2019年)Netflixで配信中

『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者』(2019年)「熱風!! 南インド映画の世界」で上映

『マスター 先生が来る!』(2021年)「IMW2023パート2」で上映

『本当の敵』(ウェブシリーズ『ナヴァラサ:9つの心』の中の一編)Netflixで配信中

『2つの愛が進行中』(2022年)「IMW2023パート2」で上映

『ラスト・ファーマー』(2022)「インド大映画祭(IDE)2023」で上映

© ディスカバリー・ジャパン株式会社