【電動バイクのイマ】クルマ免許で乗れる「EM1 e:」からホンダの本気度と狙いを読み解く!

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●文:[クリエイターチャンネル] 増谷茂樹

【モビリティジャーナリスト:増谷茂樹】クルマ、バイク、自転車などタイヤのついた乗り物全般が大好物なライター。特に電動モビリティへの関心が高く、製品紹介や試乗レビューはもちろんのこと、ライフスタイル提案、業界動向の解説まで幅広く手掛けている。

ホンダは先日、2030年までに電動2輪車に合計5000億円を投資することを発表。同年までに30機種の電動モデルを投入することも合わせてアナウンスしました。ホンダはこれまで、電動バイクはリース販売という形式を取ってきましたが、今年からは一般販売をスタート。10月末に開催された全日本モトクロスには電動の「CR ELECTRIC PROTO(シーアール エレクトリック プロト)」を参戦させるなど、電動化を一気に進めてきた印象があります。そこで、今年発売された「EM1 e:(イーエムワン イー)」をもとに同社の電動化戦略の一端を読み解いてみましょう。

EM1 e:が原付一種としてリリースされた理由

「EM1 e:」は、原付一種クラスの電動スクーター。ホンダとしては発売時から一般販売される初めての電動モデルでもあります。同社では、これまで使用済みバッテリーの回収や管理を自社で行うことを理由に電動モデルはリース販売としてきましたが、その回収とリユースのスキームを構築できたことから一般販売が開始されました。

「EM1 e:」の車体とバッテリー、専用充電器をセットにしたメーカー希望小売価格は29万9200円
従来からある「ベンリィe:」「ジャイロe:」「ジャイロキャノピーe:」の電動モデル3車種も一般販売がスタート

近年は、原付一種クラスよりも原付二種のほうが販売台数を伸ばしていますが、原付一種として発売した理由について、このモデルの開発責任者である電動事業開発本部の後藤香織さんは「これまでバイクに乗っていなかった人たちに乗ってもらいやすいよう、普通免許で乗れる原付一種にしました」と語っています。

写真右端が開発責任者の後藤香織さん

主に近くの駅までの通勤や、近距離での移動を想定し、「電動アシスト自転車以上、ガソリンバイク未満」の乗り物として開発したとのこと。そのため、国土交通省届出値(30km/hでの一定走行)で53km、WMTCクラス1の数値ではスタンダードモードで41.3km、電力消費を抑えるECONモードでは48kmとされています。すでにバイクに乗っている人からすると、物足りないスペックかもしれませんが、バイクに乗る人の裾野を広げようという狙いがわかると、このマシンの位置づけが見えてきます。

EM1 e:は交換可能なバッテリーを採用

搭載されるバッテリーは「Honda Mobile Power Pack e:(以下、モバイルパワーパック)」と呼ばれる交換式のもの。車体から取り外して充電できるほか、充電済みの「モバイルパワーパック」と交換することで、充電にかかる時間を費やすことなく移動を続けられるメリットがあります。

「モバイルパワーパック」と専用の充電器。ゼロから満充電までは約6時間かかる
「EM1 e:」はシート下に「モバイルパワーパック」を1個搭載する

この「モバイルパワーパック」は国内のメーカー4社で共通の規格を採用しています。現状ホンダ製しかありませんが、この規格に対応さえしていれば、今後他社製のものが登場したとしても使用できるという大きなメリットがあります。充電済みの「モバイルパワーパック」と交換できるバッテリー交換ステーションが普及すれば、バッテリーを差し替えるだけで充電の時間を省いて移動を続けることができます。

スズキがモビリティショーに出展した「e-バーグマン」にも「モバイルパワーパック」が採用される

台湾では、こうした電動バイク用のバッテリーステーションが普及していますが、国内でも国内2輪メーカーにENEOSを加えた5社による合弁で「Gachaco(ガチャコ)」という会社が設立され、バッテリーのシェアリング事業がスタートしています。「Gachaco」のステーションはすでに全国で33ヶ所(東京は25ヶ所)設置されていて、このバッテリーは当然「EM1 e:」でも使えます。

ホンダはモビリティショーにバッテリー交換ステーションも出展していた

「EM1 e:」の車体本体のみの価格は15万6200円なので、バッテリーを除いたかたちで購入し、バッテリーは「Gachaco」のものを利用するという手もあります。ちなみに、「Gachaco」の利用料金は月額5500円(税抜)。ほかにも月額料金を抑えた従量課金プランなども検討されているとのことです。2023年12月現在は法人向けに限られていますが、2024年からは個人向けのサービスも開始予定となっています。

ホンダの本気を試乗で実感

実際に試乗してみると「EM1 e:」の乗り心地はガソリンエンジンの原付一種と比べても上質です。ベースとなっているのは2021年に中国で発売された「U-GO」というモデルですが、バッテリーの搭載位置をフロア下からシート下に変更するだけでなく、車体に補強を入れたりすることで静粛性を高めているとのこと。電動車はエンジン音がない分、走行時のロードノイズや振動が気になりやすいため、音や振動の発生源を一つずつ対策していくことで、この快適さは実現されているようです。

フラットなフロアを実現し、体格や服装に関わらず乗りやすいのも「EM1 e:」の特徴
モーターはインホイールタイプで、後輪と一体化している

モーターの出力特性も穏やかで、バイク初心者にも扱いやすいもの。モーターは回転し始めから最大トルクを発揮できるため、発進加速が鋭いのが特徴ですが、その点を強調し過ぎてギクシャクしてしまうものもあったりします。右手のスロットルもON/OFFスイッチのようになっているモデルにも乗ったことがありますが、「EM1 e:」の加速は力強くも扱いやすく、スロットル操作にリニアに反応してくれます。右手での微妙なコントロールも可能で、ガソリンエンジン車に乗り慣れた人でも違和感なく操れるはずです。

ハンドリングは軽快で小回りが効く。初めての人が乗ってもバイクならではのコーナリングが味わえる

「EM1 e:」は原付一種でしたが、Japan Mobility Show 2023にホンダは原付二種クラスの「SC e: Concept(エスシー イー コンセプト)」も出展していました。こちらは「モバイルパワーパック」を2個搭載していて、航続距離も伸びそう。世界的に見ても、電動バイク市場は最高速度25km/h~50km/hの「Electric Moped(EM)」クラスや最高速度25km/h以下の「Electric Bicycle(EB)」クラスが大部分を占めているとのこと。ホンダもこのクラスに注力しつつ、もっと大きめのFUN向けモデルも発売するとしています。こうしたモデルは、バッテリーも交換式ではなく、プラグイン式となるようです。

ホンダでは2030年までにはグローバルで30機種以上の電動モデルを導入するとしている

現在、世界のバイク市場で電動バイクの占める割合は12%といわれていますが、ホンダは2030年までにグローバルで30機種の電動モデルを投入し、400万台の販売を目指すとしています。これはホンダの総販売台数の約15%超に当たる数字。この中にはスーパースポーツやオフロードモデルも含まれるとのことなので、期待して待ちたいところです。

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