逮捕12人全員が無罪…「志布志事件」から20年、警察の体質は変わったか? 元被告「今も直接の謝罪ない」

事件当時送られた支援者からの手紙を手に取る中山信一さん=志布志市志布志

 2003年の鹿児島県議選を巡り公職選挙法違反で逮捕・起訴された後、被告全員が無罪となった「志布志事件」の初公判から7月で20年がたった。元被告や地元支援者には県警への不信感が根強く残るが、事件の風化も進む。県警は長時間の取り調べが減る一方、公選法違反事件の摘発は大幅に減っている。

 事件の当事者となった志布志市の元県議、中山信一さん(78)は、逮捕されて以降寄せられた手紙の束を大切に残している。「負けるな」「頑張って」と書かれた手紙は今もきれいなままだ。

 03年4月の県議選後、初当選した中山さんを巡る買収や被買収の公職選挙法違反容疑で、住民ら15人が逮捕された。逮捕に至らなかった事案も含め、捜査では自白の強要や長時間取り調べが繰り返された。公判は同年7月から始まり、07年に起訴された全員の無罪が確定。国家賠償請求訴訟では元被告側への賠償が命じられた。事件から20年。中山さんは「今も直接の謝罪はない。県警は変わっていない」と憤る。

 「住民の人権を考える会」の会長で、事件関連の裁判を支援してきた谷口松生さん(74)=同市=も「体質が変わった実感は今もない」と県警への不信感を示す。えん罪防止のイベントを弁護士会と共催するなど裁判が終わった今も活動を続ける。地域で話題に上ることも少なく「事件が風化している」と感じている。

 事件の記憶が薄れることは、県警側も懸念している。定例記者会見で、井上昌一刑事部長は「事件後に入庁した職員が今後も増え続けるが、決して風化させてはいけない」と強調。取り調べ監督制度ができた理由と経緯を繰り返し伝えていくとした。

 志布志事件などを受けて警察庁は、1日8時間を超す取り調べを原則禁止とし、本部長や署長の事前承認なしにはできない指針を策定した。8時間を超える取り調べは、20~22年の3年間で計215件。南日本新聞が取材した12~14年の441件から半減している。

 公職選挙法違反の摘発件数は、事件以降低調に推移する。県警の統計によると、03年の106件から大きく減り、次の県議選や参院選があった07年は25件。以降、09年(29件)と13年(10件)以外は5件未満が続いた。全国的に減少傾向とはいえ、志布志事件直後の捜査2課を知る県警関係者は「本当にやりづらそうだった」と振り返る。

 中山さんは「犯罪自体はしっかり取り締まらないといけない。(志布志の)捜査の過ちで、本当に捕まえるべき犯罪が捕まえられていないのでは」と疑問を呈した。

■志布志事件 2003年4月の県議選曽於郡区(当時)で初当選した中山信一さんの選挙運動で4回の買収会合があり現金計191万円が授受されたとして、13人が起訴された(1人は死亡し公訴棄却)。鹿児島地裁は07年、自白した供述調書の信用性を認めず、12人全員に無罪判決を言い渡し確定。無罪住民と遺族ら17人は国と県に国家賠償請求訴訟を起こし、同地裁は15年、捜査・起訴の違法性を認め、計5980万円の支払いを命じ確定した。

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