沖縄の農業の歴史、統計と実体験で記録 山里敏康さん(83)が自分史出版

沖縄農業をテーマにした自分史を発行した山里敏康さん=宜野湾市

 元県信連(沖縄県信用農業協同組合連合会)職員の山里敏康さん(83)=宜野湾市=はこのほど、自分史「沖縄農業の戦前・戦後・復帰後」を発刊した。統計や史料を基にした論文と郷里・今帰仁村呉我山の変遷から沖縄農業の歴史を立体的に浮き彫りにした。山里さんは「歴史を知り、農業の未来を描くための材料にしてもらえたらうれしい」と話している。

 山里さんは北部農林高から琉球大に進んで農学を専攻。琉球政府経済局協同組合課に配属された頃は、農協が製糖やパイン缶詰製造に乗り出そうとする時期だった。しかし、「キャラウェイ旋風」によって農協の事業多角化は頓挫。失意の山里さんは琉大経済研究所、九州大学大学院で研究対象として沖縄農業を調査した。それらの論文が自分史の基になっている。

山里敏康さんが有望視するかんきつ類を表紙にした自分史「沖縄農業の戦前・戦後・復帰後」

 1972年の日本復帰後、新聞へ寄稿・投稿した文章も農業がテーマ。統計を駆使した硬派な文章から、温州ミカンの倍の10カ月かけて成熟するタンカンに肩入れするエッセーまで話題は多彩だ。最終章は、1894(明治27)年に曽祖父が本部・伊豆味に入植して以来4代にわたる家族史で締めくくった。「私が大学に行かせてもらえたのもパインがあったからこそ。かつてのパインのような『救世作物』を生み出そうと努力している農家に期待したい」と言う。

 「沖縄農業の戦前・戦後・復帰後」はA5判、302ページ、定価千円(税別)。沖縄タイムス社の自分史制作事業を利用して出版し、県内の図書館、農業関係団体に献本した。問い合わせは沖縄タイムス社コンテンツ部、電話098(860)3591(平日午前10時〜午後5時)。

 【キャラウェイ旋風とは】 A円、B円からドルへの切り替えで金融の混乱期にあった1960年代の沖縄で、強権的に「金融粛正」を行ったとされる第3代高等弁務官ポール・W・キャラウェイ氏による経済施策。キャラウェイ氏が着任した1961年当時、県内金融界は7銀行を含む20社以上が乱立、経営者の汚職も表面化し混乱期にあった。

 

 

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