旧ジャニーズのタレントたちは結局どうなっていくの? 「SMILE―UP.」が設立した新会社のトップ、福田淳氏が語る「狙い」と「野心」

ジャニーズショップ大阪」の営業が終了し、撤去されるロゴ=2023年10月16日夜、大阪市

 「SMILE―UP.(スマイルアップ、旧ジャニーズ事務所)」が2023年12月8日、タレントのマネジメントを担う新会社「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」の設立を発表した。早速、タレントとの新たな契約方式「エージェント契約」などを打ち出している。
 日本の芸能界は、タレント育成からプロデュースまでを芸能事務所が担う「専属マネジメント契約」が主流。特に旧ジャニーズ事務所はこれまで、デビュー前のジャニーズJr.(現ジュニア)に無償でダンスレッスンを受けさせるなどし、タレントを売り出すまでに相当の経費を負担してきた。エージェント契約になると、こうしたジュニアたちはどうなってしまうのか。
 スタート社の最高経営責任者(CEO)に就いた福田淳氏に取材すると、話は旧ジャニーズにとどまらず、日本の芸能界全体に広がっていった。「口利きでずっとやってきた古い業界でしょうから、近代化させる良いきっかけにできるのではないか」(共同通信=小川一至)

スタートエンターテイメントの最高経営責任者(CEO)に就いた福田淳氏

 ▽「世界のエンタメ業界の中でも新しいビジネスモデル」
 福田氏は、ソニーの子会社社長などを歴任。コンサルティング会社「スピーディ」の社長を務め、出版事業やスタートアップ投資などの企業経営を担ってきた。よく知られているのは、大手芸能事務所を独立した後、ほとんどテレビに出演できなくなった俳優「のん」さん(能年玲奈から改名)のエージェントを務めてきたことだ。
 のんさんのケースは、日本の専属契約を巡るトラブルの典型と言えるかもしれない。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の主演で脚光を浴びたものの、独立騒動によって活躍の場が激減した。
 芸能界の契約に詳しい弁護士によると、エージェント契約になるとタレントは仕事を選ぶ自由を得る一方、自らマネジメント体制を整える必要がある。米国ではエージェント側が自らのパイプを使い、営業代行のようにタレントを売り込むことが基本だ。

2023年10月、社名の看板を撤去するための準備作業が始まり、報道関係者らが集まったジャニーズ事務所前=東京都港区

 日本のタレントの間でも、自由の少ない専属契約への嫌悪感や労働者としての権利意識が高まっているという。「今後、エージェント契約を希望するタレントが増える可能性がある」
 ある程度売れているタレントであれば、エージェント契約の方が都合がいいかもしれない。一方で、これから才能を伸ばさなければならないタレントの卵たちは育成の場を奪われるのではないのだろうか。
 福田氏はこの点について、こんな見通しを示している。
 「新会社の契約形態は、エージェント制とマネジメント制のハイブリッドなスタイルになる」。具体的にどういう形になるのか想像がつかない。福田氏も「世界のエンタメ業界においても新しいビジネスモデル」と話している。

2023年10月2日の記者会見で、タレントらのマネジメントを担う新会社の名称を公募することなどを発表した、井ノ原快彦氏(左から2人目)や東山紀之社長(同3人目)ら=東京都内のホテル

 ▽「ジャニーズのやり方を最も批判してきた人間の1人だった」
 新会社は2024年4月に全面稼働する予定だが、実際、どうなっていくのか。福田氏は12月9日、一部の新聞・通信社の取材に応じた。主なやりとりは次の通り。
 福田氏 「ジャニーズ事務所のタレントとして築いてきた彼らの歌、ダンス、演技、これら一流コンテンツは、世界中に大きな影響を与えてきた日本の宝です。タレントたちは、日本はもちろん世界一を取れるレベルです。私は米ハリウッドや韓国、中国などエンタメ業界のトップとコネクションを築いてきた。グローバル展開を考えたいタレントには、そうしたコネクションを築く機会をつくります。長年IT業界にいたので、DX(デジタルトランスフォーメーション)化や、独自の音楽配信サービスの立ち上げ、メタバース領域への参入など、特に若いタレントが将来を見据えて興味を持つ最先端技術の方面も動かしていく構想です」
 ―なぜ社長を引き受けたのか。
 「私はこれまで、ジャニーズ事務所のやり方を最も批判する者の一人でした。ジャニーズ事務所のやり方とは違うエージェント会社を手がけてきた。まだまだ可能性を秘めたこの集団と、私の36年間というエンタメビジネスの経験を掛け合わせ、大きな化学反応が起きるといいなと考えました」

2023年10月2日、ジャニーズ事務所(当時)の記者会見に出席した井ノ原快彦氏=東京都内のホテル

 「ジャニー喜多川氏が犯した罪は、世界的に見ても到底許されない。一方、東山紀之さんと井ノ原快彦さんからいろんな話を聞くと、みんなジュニア時代に『あいつ、いいね』『あの踊り、格好良い』と話し、憧れの先輩がいて、そこ(事務所)に入る美しい系譜みたいなものがあって一大コンテンツを生み出した。それが、いろんな批判の中でなくなってしまうのが本当に良いのか。自分の専門性でその素晴らしいコンテンツを救えるんだったら、一助になるかもしれない」
 「創業者の目利きでずっと経営されていたのでしょう。この件(性加害問題)があるかないかに関わらず、日本の芸能事務所は次につなげるビジネスモデルが弱い。口利きでずっとやってきた古い業界でしょうから、近代化させる良いきっかけにできるのではないかと、少し野心もありました」
 「韓国のタレントがグラミー賞の舞台に出ることができて、日本のタレントが出ていないのは個人の力の差ではない。韓国の会社にはグローバルスタンダードでの経営があるからではないか」

2019年7月、ジャニー喜多川氏の死去を伝えた街頭テレビ=東京・有楽町

 ▽「独自のプラットフォームで日本を代表するようなサービスができないか」
 ―性加害を証言した人への誹謗中傷も続いている。メッセージを発するべきではないか。
 「痛ましい事件で、償わなければいけない。それを背負ってやるスマイルアップにお聞きになればいいと思う。新会社(スタート)は、タレントさんやコンテンツ、歌や踊りの素晴らしさを途絶えさせないために作った。個人的には皆さんの心が癒やされればと思うのですが、ここでおわびする立場でもありません」
 ―芸能事務所とタレントのあるべき姿とは。
 「10月2日に(旧ジャニーズ事務所が)エージェント制を宣言された。あれが一番驚いた。日本で一番大きい事務所がエージェント制を取るとは、日本の芸能も進んだなと思う。本来、タレントに選択の自由、移籍の自由もあるべきです。(事務所を)出たら許さないぞという『共演NG』とかが仮にあれば、正常な商取引とは言えない。この人を使わなければこの人を出演させないということがあれば、作品そのものがゆがみ、本末転倒だ」
 「今回、エージェント制と専属マネジメント制のハイブリッド型でいける。旧ジャニーズでは、若いときから歌や踊りを鍛錬して選抜メンバーがグループとして出ていく。そのグループで歌と踊りとライブエンターテインメントで人を楽しませるビジネスモデルだ。おそらく専属マネジメント契約の方が適していた。30~40代になって『何々をしたい』となったとき、エージェント契約は効いてくる。だからグループは専属マネジメント契約で、個人はエージェント制(を選ぶタレント)が多いかなと思う」

2023年10月2日、記者会見を開いた旧ジャニーズ事務所の東山紀之社長(右)と井ノ原快彦氏=東京都内のホテル

 ―旧ジャニーズ事務所や藤島ジュリー景子前社長の創業家一族から支援を受けているか。
 「全くありません。スマイルアップの関連企業からも全くありません。だから大変なんですよ」
 ―新規分野として打ち出した音楽配信の収益性や成長性をどう見ているか。
 「CDが古いとは全く思っていない。よく実態を見るとすごいプレミアムグッズなんです。手の込んだ装丁にリーフレットが入っていたりする。みんなそれを持つことが楽しい。やっぱり実際に物を持つ楽しみがあると思う。それと別に、音楽業界を見るとCDから配信に変わると、1曲当たりの収益は大きく減る。そうすると音楽をやっている限り、じり貧になる。ところが米国は乗り越えた。いろんなSNSがあって、必ずしも(音楽配信サービス大手)スポティファイだけではなくて(配信元)1人だけのサブスク(定額配信)のプラットフォームがあったりする。(利用者が)大体50万人ぐらいいると成り立つ。スタートエンターテイメントの規模からすると、独自の配信プラットフォームを作って日本を代表するようなサービスができないかなと夢見ています」

一部新聞・通信社の取材に応じるスタートエンターテイメントの福田淳CEO=2023年12月9日、東京都港区

 ▽「共演NGだ、なんて絶対言わせない」
 ―旧ジャニーズ事務所はメディアをコントロールし、事務所を退所した人に仕事を与えないで「干す」といったことも指摘された。
 「マネジャーの人たちにこれからエデュケーション(教育)をしていかなければいけないけれど、『あいつとは共演NGだ』なんて絶対に言わせません。それはテレビ局の編成の方が決めることであって、われわれは芸を磨いてオーディションに行くだけ。もうそれだけでずいぶん変わるんじゃないですか」
 ―旧ジャニーズ事務所の所属タレントとの新たな契約交渉の進み具合は。
 「ちょうど契約のドラフト(草案)を渡した程度なんです。エージェント契約をやる方は、会社をつくる。『会社なんかつくったことないし、登記はどうしたらいいの』『家族や親友の名前を集めなきゃ』といった感じなので全く分からないんですが、僕の全体的な印象では、この新会社と契約してくださる方が多い印象を持っています」
 ―著作権や原盤権(録音・編集した音源に対する権利)などをどう取り扱うか。旧事務所や関連会社が所有していた楽曲などさまざまな知的財産権は新会社に譲渡されるのか。
 「知的財産もファンクラブも、いろいろ動かしていく。全くの別会社ですから、デューデリジェンス(資産査定)にも時間がかかります。今、その段取りを始めようとしているところで税務の問題もあり、現時点では白紙の状態。知的財産分野に詳しい外部の法律事務所に依頼し、進めていきたい」

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