「手話劇!夏の世の夢」聴者の声&ろう者の手話で表現するシェイクスピア劇。こだわりの演出方法とは?

NHK Eテレで2024年1月3日に放送される「手話劇!夏の夜の夢」(午後9:00)の取材会が行われ、演出を務めた聴者の後藤怜亜氏と手話監修・演出を担ったろう者の廣川麻子氏が登壇。見どころや制作秘話、作品の意義について語った。

シェイクスピアのラブコメディー「夏の夜の夢」に、ろう者と聴者の俳優が共に取り組んだ「手話劇!夏の夜の夢」。聴者向けの番組に手話を付けるのではなく、手話と声が同時に伝わるよう工夫を凝らし、佐々木友輔氏を中心にオリジナル脚本を開発した作品だ。

夜の森へ駆け落ちするハーミア(那須映里)とライサンダー(橋本淳)。ハーミアは手話、ライサンダーは日本語の発話、それぞれ別の言語で愛を伝え合う。さらに、2人の後を追いかける、ハーミアに思いを寄せるディミートリアス(數見陽子)と、その元恋人・ヘレナ(内田慈)、恋人たちをのぞき見ている妖精の王・オーベロン(佐戸井けん太)らが登場し、手話と日本語の両言語で楽しめる特別ドラマが展開する。

今回「手話劇!夏の夜の夢」を制作するにあたり、後藤氏は「手話を知らない聴者の方が見た時に、ろう者の方の手話による芝居がすごく魅力的に見えるということ、意味が分からなくても『なんかこの人面白いな』と感じてもらうように意識しました。逆に、ろう者の方が聴者の芝居を見た時に、声が聞こえなくても視覚的に『この人の顔の表現が面白い、なんだか気になるキャラクターだな』と思ってもらえるように、芝居の稽古をつけました」と話し、この作品ならではの演出方法を伝えた。

また、後藤は手話監修も兼任した廣川氏について、「視覚的に芝居を落とし込み、表現することに関して、大変プロフェッショナル。聴者の俳優さんにも表現の仕方をアドバイスしてくださり、編集の段階でも手話の切れ目を見て、編集点がここだったらより魅力的に見えるなどと意見を出してくれました。聴者が聴者の俳優だけ見て、ろう者がろう者の俳優だけ見るのではなく、トータルでより面白くなるようアイデアを出してくださった」と称賛。

そんな廣川氏は、演出で重んじていたことを「聴者、ろう者、どちらが上でどちらが下ということはなく、お互いに平等である。出演者も演者も制作側も人として平等であり、お互いの対話の中で作品を作ることが大切だと考えてきました。聴者だけが分かる、ろう者だけが分かるということではなく、分からなくても分かりたいと思い、そして魅力を感じてもらえるための、美しい見せ方に強く主軸を置きました」と明かした。

さらに、この作品ならではのこだわりに関して、「映像に自然に引き込まれ、心の中に残るよう、うまく作ることに注力しました。例えば、声と同時に手話が始まったり、はたまた声と手話がずれて演じられるところがあります。声が先の場合もあれば、手話が先の場合もあり、実はそれぞれ目的があり、演出の意図なんです。そういった部分も楽しんでいただけるとうれしいです」と教えてくれた。

最後に、後藤氏は「今回1カ月間の稽古を通じて、聴者とろう者関係なく、意見を出し合い、最後は通訳も通さずコミュニケーションを取ることも増え、一つのものに向かって作り上げました。『俳優さんはみんな手話を勉強した方がいいのでは?』と思うくらい、ろう者の視覚的に表現する力は素晴らしいです。これからも双方が交わり、活躍していく機会が増えることを心から願っております」と訴えかけ、廣川氏も「ご覧いただく時は、この人は聞こえる人かな、聞こえない人かなということを一切考えず、自然に作品自体を楽しんでいただきたいです」と話して、締めくくった。

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