キャンディーズ50周年に伊藤蘭さん「スーさん、ミキさんと歌を共有できる喜び」 紅白初出場、愛娘の趣里さんと「親子で皆さんを少しでも幸せに」

日比谷公園大音楽堂のライブで歌う伊藤蘭さん=2023年10月21日、東京都千代田区

 1970年代に絶大な人気を誇った3人組アイドル「キャンディーズ」が今年、デビュー50周年を迎えた。元メンバーで歌手、俳優の伊藤蘭さんがキャンディーズ時代以来46年ぶり、単独では初めて大みそかのNHK紅白歌合戦に出場する。「キャンディーズ50周年 紅白SPメドレー」を披露する予定で、今も輝き続ける「ランちゃん」に話を聞いた。(共同通信=小池真一)

2023年10月21日、東京・日比谷公園大音楽堂で開いたライブでファンに応える伊藤蘭さん=東京都千代田区

 ―NHK紅白歌合戦への出場要請を受けた時のお気持ちは?
 伊藤さん 正直、迷いました。すぐに「はい、出ます」という感じにはなりませんでした。ちょっとだけ時間をいただきましたね。私が全くふさわしい存在じゃないと思っていたので。若い人からすれば、私は「知らない人」でしょうし。
 ですが、お引き受けしたからには、がんばります。キャンディーズの歌は、時代を超えて長く残ってほしいという思いで作られた作品が多く、私も以前のまま歌うつもりです。「昔の歌でしょ」と捉えられることなく、あの時代のいい歌、楽しい歌を、令和を生きる方々に今の感覚で受け止めていただきたいです。

1978年4月4日、前年夏に突然引退宣言したキャンディーズの3人は最後のステージとなった東京・後楽園球場で歌った。左からミキちゃん、ランちゃん、スーちゃん

 ▽「野音は忘れられない地」
 1973年にデビューしたキャンディーズは伊藤さんと田中好子さん(愛称「スーちゃん」、2011年没)、藤村美樹さん(愛称「ミキちゃん」)がメンバー。「年下の男の子」(1975年)、「春一番」(1976年)、「暑中お見舞い申し上げます」(1977年)などを次々とヒットさせトップアイドルに。人気絶頂の1977年7月、東京都千代田区の日比谷公園大音楽堂(野音)のライブで突然、解散を宣言した
 ―今年開設100周年を迎えた野音で10月、キャンディーズの歌をランさんが歌うライブを開きました。
 伊藤さん 野音はなんといっても本当に私たちにとって忘れられない地です。キャンディーズ解散の意志を3人で発表した場所でもありますから。(野音の)あの悠然としたたたずまいが昔と変わっていませんでした。「ああ。受け入れてもらえる」っていう懐の深さみたいなものを感じました。
 「ただいま」って感じることができる、言うことができる気持ちにさせてもらいました。本当にうれしかったです。野音は不思議な空間ですよね。

日比谷公園大音楽堂のライブで、詰めかけたファンに大きく手を広げる伊藤蘭さん=2023年10月21日、東京都千代田区

 ―野音の会場には、ランさんのファングループ「全国伊藤蘭連盟(全ラン連)」も駆けつけました。最盛期には会員が10万人規模だったという「全国キャンディーズ連盟(全キャン連)」の熱気をほうふつさせました。

全国伊藤蘭連盟(全ラン連)と「全国キャンディーズ連盟(全キャン連)」の旗を持つファン=2023年10月、東京・日比谷公園大音楽堂

 伊藤さん キャンディーズ解散から40年以上たっているのに、皆さんが聴きに来てくださる。私もお客さんも音楽を通じて当時の空気を感じることもできる。当時の思い、情熱みたいなことがよみがえってきました。なんだか、無条件に楽しかったです。ホームグラウンドに帰ってきた感じです。ファンの方々と直接触れ合える場所ですから。

日比谷公園大音楽堂のライブでポーズを取る伊藤蘭さん=2023年10月21日、東京都千代田区

 ―全ラン連や前身の「全国キャンディーズ連盟」はファンが団結、交流する日本らしいファンクラブ、ファンコミュニティーの先駆けではないですか?
 伊藤さん キャンディーズがデビューして数年がたち、「さあコンサートをしよう」となった時、企画はファンの方々から生まれました。「おれたちがやるぞ!」という学生さんたちが大学連合のようにつながり、呼応した方々が参加する形でコンサートが実現しました。そういう連帯感でずっとつながっているのではないでしょうか。
 あのころに見知った方に久しぶりに会えば、思わず「あっ元気だった?」という感じになりますよね。親戚のお兄さんが来てくれた、みたいな感覚になっちゃうんですよね。

2023年10月21日、日比谷公園大音楽堂のライブでパフォーマンスを見せる伊藤蘭さん=東京都千代田区

 ▽「3人でいたらもっと心強い」
 キャンディーズは1970年代の人気お笑いテレビ番組「8時だョ!全員集合」「みごろ!たべごろ!笑いごろ!!」に出演し、コントなどで全国の視聴者を笑わせ、誰にも愛される「お茶の間のアイドル」になった
 ―野音でもランさんが機知に富むジョークを繰り出して3千人の観客を終始笑わせ、優れたコメディエンヌ(喜劇役者)であることを証明しました。
 伊藤さん 私のおしゃべりが面白かった、すごく笑ったとおっしゃってくださった方がいました。大したことを言った覚えがないのですが…。そうだったのかなと思い返したりしています。私の中に笑いを欲する心があるんでしょうかね。

日比谷公園大音楽堂でのライブで歌う伊藤蘭さん=2023年10月21日、東京都千代田区

 ―キャンディーズの曲を伊藤さんが1人で歌う心持ちを教えてください。
 伊藤さん 3人で歌っていた曲を1人で歌えるのか、お客さんも戸惑われるのではないかと不安もありました。もちろん3人いた方がいいに決まっていますが、現実はそうもいかない。
 気持ちは当時のままです。「こんなふうに歌っていたな」って思い出しながら歌っています。声は多少低くなったりしているかもしれないですけれども、それさえ気づかずに歌っている感じです。
 楽曲の強さのおかげだと思いますが、自分でも歌っていてとても楽しい。
 歌の時間をスーさん、ミキさんと、そして皆さんと共有できる喜びを大事にしていこうと思います。歌が持っているエネルギーは伝えたいです。

2019年5月、ソロデビュー後のインタビューで新作アルバムに「日常の中に感じる小さな幸せを大事にしたいと思いを込めました」と話した伊藤蘭さん

 ―スーさん、ミキさんのことを「かけがえのない友」と呼んでいます。
 伊藤さん もちろん2人がいないさみしさを感じながら、必要性も感じながら、例えばスーさんのソロパートを私が歌うなどいろいろ工夫をしてやっています。「2人にはいてほしい」と私が一番感じています。「3人でいたらもっと心強いのに」と。
 同時に「2人のことを皆さん、どうか忘れないで」と願っています。私の歌う姿を見て2人の存在を、お客さまもきっと感じていただけているのではないでしょうか。

2019年5月のソロデビュー後、インタビューに応じた伊藤蘭さん=東京都港区

 ―キャンディーズはみんなに愛される国民的なアイドルでした。
 伊藤さん そうだったのでしょうか。どこか身近に感じる、親しみやすさがあったのでしょうか。「共に生きている」みたいな、別世界ではない、自分事のように受け止められる感覚が、昭和にはあった気がします。そういう時代のキャンディーズは、音楽的にも視覚的にも理想的な存在だったのかもしれませんね。

 ―キャンディーズが解散した当時の心境を今どのように見つめていますか。
 伊藤さん あの時、何かを求めていたのでしょうね。現実とは違う心の充実でしょうか。満たされることを求めていて、ああいう解散ということになったのかなと思うんですけれどもね。キャンディーズの世界がつくれて、皆さんに認めてもらえて。すばらしい活動ができた。その一方で、やっぱり個々の心がどこか満たされなくて、それを求めていたっていう部分はすごくあると思います。

2021年8月、インタビューで「私の音楽を通して同世代の人たちにも輝きを感じてほしい。それは活動の一本の柱です」と話した伊藤蘭さん

 ▽ブギウギ主演で愛娘の趣里さんと
 新刊のエッセー集「Over the Moon」(扶桑社)では母や兄との笑いの絶えない家族のだんらんを懐かしみ、感謝をささげている。今は夫で俳優の水谷豊さん、長女で俳優の趣里さんとのごく「普通」の生活を慈しむ
 ―愛娘の趣里さんはNHK連続テレビ小説「ブギウギ」で主演し、大ブレーク中です。エッセー集では伊藤さんの実生活の家族を取り上げました。キャンディーズ解散後、求めたのは普通の家族であったことが記されています。歌手活動をご家族はどう見ていますか。
 伊藤さん 幸い、家族が「本当、いいんじゃない」って、ライブを見た後も「良かった」とか。もう前に進むように、自然にそういう存在としてサポートしてくれる存在です。本当にそれはまさしくそう思いました。
 娘の趣里も私にはできないことをやっている。努力家で、それが実ったんだなあっていうふうに思って見ています。親子で皆さんを少しでも幸せにする存在でいられるよう、頑張りたいですけれどね。

伊藤蘭さん=2021年8月、東京都港区

 ―解散から41年を経て2019年、ソロとして歌手活動を再開しました。
 伊藤さん 1人でステージに立ち歌いますが、ギターやコーラス、さまざまなミュージシャンと共演している実感が持てるのが、すごく楽しいです。一緒に音楽を作っている時間を大切にしたいです。
 デビュー50周年を記念して発売した3枚目のアルバム「LEVEL 9.9」の中の曲「Shibuya Sta. Drivin’ Night」は、私にとっても異色の曲で、キャンディーズとは異なる、もう一つの私の世界ができた気がします。この曲がシングルのレコードになりました。

伊藤蘭さんの新シングルレコード「Shibuya Sta.Drivin’Night」

 デジタル時代に、手作業でレコードをかけて聴く手間も、物としても残るっていうこともうれしい。たぶん若い方たちにも受け入れてもらえるんじゃないか。昭和とつながる感じがしますよね、はい!

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