長さ約170万光年の恒星の集団「巨大かみのけ座ストリーム」を発見 銀河団内で孤立した恒星ストリームの発見は初

恒星の細長い集団である「恒星ストリーム(Stellar Stream)」は、銀河同士の重力相互作用によって壊れやすいものであると考えられており、これまで近くの銀河以外で発見されたことはありませんでした。

フローニンゲン大学のJavier Román氏などの研究チームは、「かみのけ座銀河団」の恒星の分布を探索中、偶然にも恒星ストリームを発見しました。この新たな恒星ストリームは銀河団内で孤立したものとしては初の発見であるだけでなく、長さも約170万光年と観測史上最大であるため、「巨大かみのけ座ストリーム(Giant Coma Stream)」と名付けられました。

【▲図1: 左上から右下にかけて濃い灰色でハイライトされた細長い恒星の分布が、今回発見された巨大かみのけ座ストリーム(Credit: ERON, WHT & Román et al.)】

■恒星の細長い構造「恒星ストリーム」

恒星が多数集合した構造というと真っ先に上がるのは銀河であると思いますが、銀河ではない形態を持つ恒星の集団もあります。その1つが「恒星ストリーム」です。stream(流れ)の名の通り、恒星や水素ガスなどが細長く集合し、まるで一筋の流れであるかのように見えることからその名がつけられています。

恒星ストリームは銀河同士の重力相互作用によって崩壊した矮小銀河や星団を起源にしていると考えられています。このため、恒星ストリームの分布や構造は、銀河の中に含まれる見えない重力源である「暗黒物質(ダークマター)」の量や分布を制約する存在であり、注目されています。

一方で、恒星ストリームは重力相互作用によって短期間で壊れてしまうことや、銀河と比べるとはるかに暗いため観測が困難なこともあり、これまでは天の川銀河と近くにあるいくつかの銀河でしか発見されていませんでした。

■かみのけ座銀河団を横切る長さ約170万光年の「巨大かみのけ座ストリーム」を発見!

Román氏らの研究チームは、地球から約3億光年離れた位置にある「かみのけ座銀河団」の研究を行っていました。かみのけ座銀河団は大規模な銀河団としては比較的近くに存在し、小型の望遠鏡でも十分観察可能なほど明るいため、長年の研究実績があります。Román氏らは、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台(スペイン、ラ・パルマ島)に設置された「ウィリアム・ハーシェル望遠鏡」を使用し、銀河の周りにある恒星の量を推定する研究を行うため、恒星の分布を調べていました。

【▲図2: かみのけ座銀河団における巨大かみのけ座ストリームの位置(Credit: HERON, WHT & Román et al. / Design: Inés Bonet (IAC))】

すると思いがけないことに、恒星ストリームのような恒星の細長い集団を銀河の間に発見しました。かみのけ座銀河団ではこれまでに恒星ストリームが2つ発見されていますが、今回発見された恒星ストリームはそれよりも数倍も長く、しかも特定の銀河に関連づいていないように見えるという意外な点が見つかりました。

詳細な分析の結果、この恒星ストリームは長さ約170万光年と、典型的な銀河の10倍以上にもなる観測史上最大の長さであることが分かり、研究チームはその巨大さから「巨大かみのけ座ストリーム」と名付けました。巨大かみのけ座ストリームの推定質量は太陽の約6800万倍であり、これは矮小銀河の分解によって巨大かみのけ座ストリームが生成された可能性を示唆しています。

銀河が密集している銀河団内では、恒星ストリームは重力相互作用によって短期間で分解してしまうと考えられていたため、これほど長い恒星ストリームが銀河団内に存在するとは意外な発見です。また、巨大かみのけ座ストリームは銀河団内を横切る形で発見された初の恒星ストリームであり、恒星の分布で存在が明らかにされた、面積当たりの明るさが最も暗い恒星ストリームでもあります。

【▲図3: シミュレーションによる恒星の分布の一例。巨大かみのけ座ストリームに匹敵する長さの恒星ストリームが生じています(Credit: Javier Román et al.)】

Román氏らはシミュレーションを通じて、巨大かみのけ座ストリームのような恒星ストリームが生成される可能性を、宇宙のモデルとして多用されるΛ-CDM(ラムダ-CDM)を使用して調査しました。その結果、このように巨大な恒星ストリームが生成される可能性は低いものの、あり得なくはないことを示しました。これは、他にも未発見の巨大な恒星ストリームが存在する可能性を示しています。

■巨大な恒星ストリームの探索は始まったばかり

Román氏らは、今後観測が開始される「E-ELT(欧州超大型望遠鏡)」や、2023年7月に打ち上げられたばかりのESA (欧州宇宙機関) の宇宙望遠鏡「ユークリッド」の観測データを使用して、巨大かみのけ座ストリームのような恒星ストリームを探索する予定です。

特に注目されるのは、恒星ストリームの長さや分布によって暗黒物質の正体に迫ることです。暗黒物質の分布に関する説の1つとして、銀河の外側に薄く球状に分布しているというものがあります。暗黒物質がこのような分布をしている場合、銀河団を横切る恒星ストリームには穴が空くと考えられるため、長さや分布に影響を及ぼすと考えられます。

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文/彩恵りり

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