きつい日程はどこも同じなのに…/原ゆみこのマドリッド

[写真:Getty Images]

「これが違いなのかなあ」そんな風に私が首を振っていたのは木曜日、18節最後となった試合でレアル・マドリーがアトレティコと同じく10人になりながら、後半ロスタイムにゴールを入れて、アウェイのアラベス戦に勝つのを見た時のことでした。いやあ、土壇場の得点は彼らの十八番の1つで、アンチェロッティ監督も「Este equipo tiene energías desconocidas/エステ・エキポ・ティエネ・エネルヒアス・デスコノシーダス(このチームにはよくわからないエネルギーがある)」と言っていたんですけどね。お隣さんのシメオネ監督が最近、過密日程による選手の疲労ばかり強調しているのと対照的に、試合数が同じなだけでなく、8人もの負傷者がいるマドリーがどうして体力的に一番辛いはずの終盤に失点するのではなく、得点できるのかが不思議だったから。

まあ、その辺は順番にお話ししていくことにして、リーガ年内最終節となったミッドウィークのマドリッド勢がどうだったかというと。始まりの火曜には2試合が重なったため、まずは午後7時からバレンシアを迎える弟分のラージョを見るため、私はエスタディオ・バジェカスへ。さすがにここ7試合も白星がなく、直近の3試合は得点すらしてないとなると、フランシスコ監督も考えたんでしょうね。その日はRdT(ラウール・デ・トマス)とカメージョの2トップでゴールを狙うことにしたんですが、前半はイシが目の前に立ちはだかったGKママルダシビリに弾かれてしまったり、ルジェーヌの一発が惜しくも枠を外れたぐらいで、得点源となるべくFWたちには狙える位置にまったくボールが届かない有り様でねえ。かといって、バレンシアも大して攻めてくる訳ではなかったため、0-0でハーフタイムに入ることに。

一応、再開後も10分ぐらい、どっちもどっちの展開を眺めていたんですが、そこでタイムタップとなり、メトロを乗り継いでメトロポリターノに向かうため、私はスタジアムを出たんですけどね。丁度、ブカネーロス(ラージョの応援団)が陣取るスタンドの裏の通りを歩いていた時、場内から溜息のようなザワめきが聞こえてきたかと思えば、オンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の実況で、1分前にはシュートをGKディトロエフスキに弾かれていたカノスが再び撃って、今度はgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決められたことが発覚。ラージョはその後の反撃もまったく実らず、いえ、44分には交代で入ったアルバロ・ガルシアを猛タックルで倒したティエリのカードの色がVAR(ビデオ審判)注進によるモニターチェックでイエローからレッドに変わり、ロスタイム7分丸々、1人多い状態で戦えたんですけどね。

その程度では数的有利もあまり意味がなかったか、結局、試合はそのまま0-1で終了。ラージョの選手たちが今季、バジェカスでファンが「Vida de pirate/ビダ・デ・ピラータ(海賊人生)」を歌うのを聴けたのはたったの1度だけとなってしまったんですが、とにかく今は悪い流れを断ち切るのが優先ですからね。この試合の後は来週水曜までの1週間、クリスマスのバケーションとなるため、フランシスコ監督も「Creo que nos viene en el mejor momento el parar, oxigenarnos/クレオ・ケ・ノス・ビエネ・エン・エル・メホール・モメントー・エル・パラール、オクシヘナールノス(止まって、酸素を補充する時期がいい時に来たと思う)」と言っていたように、しっかり気分を切り替えないと。それこそ、年明け2日に河岸を無観客試合の処分が下りたコリセウムから、兄貴分のメトロポリターノに変えて開催となるヘタフェとの弟分ダービーではもう少し、ラージョらしい思い切ったプレーを見せないと、また痛い目を見ることになりかねませんよ。

え、それは何とか私がキックオフ10分前に滑り込んだ兄弟分ダービーの様子を踏まえての忠告かって?まさにその通りで、午後9時半にはパルコ(貴賓席)に5年前まで、チェルシーでの1年間のプレミアリーグ留学を挟んでの通算8年間、アトレティコでプレーしたフェリペ・ルイス(先日、フルミネンセで引退)をメトロポリターノに迎えて、ヘタフェ戦が始まったんですが、うーん、もしかして、このところ、中2日ペースがずっと続いているせいで、アトレティコの選手たちもつい省エネモードになっちゃうんですかね。序盤こそ、練習中の打撲により、アスレティック戦でプレーしなかったリケルメのシュートがゴールバーに当たったりしたものの、それ以外ではほとんど、ヘタフェの方がボールを持っていることに。

それでも現在、ホームで20連勝中のアトレティコですし、何よりヘタフェは2011年以来、負けたことのないお得意さんだったため、ファンも不安視はしていなかったんですが、いやあ、まさか38分にはサビッチが2枚目のイエローカードをもらって退場してしまうとは!大体がして、早くも12分にマタを倒して1枚目を出されながら、再び、今度はマタの顔面にcodazo(コダソ/肘打ち)を見舞うとは、とてもベテランとは思えない振る舞いですが、え?逆にマタはデ・パウルの足を踏みながら、イエローカードを逃れていなかったかって?

まあ、実際、それがデ・パウル自身がハーフタイムでロッカールームに戻る際、主審に文句をつけるために詰め寄って、シメオネ監督が割って入る原因だったんですが、何にしてもサビッチはピッチを去り、アトレティコは10人に。とにかくCB3人制を維持したかった指揮官は即座にこの日、モラタの代わりに先発CFに抜擢したメンフィス・デパイを下げ、アスピリクエタを入れたんですが、それ以上に珍しく一緒にピッチに立ったサムエル・リノとリケルメのポジションチェンジをしたのが効いたんですよ。ええ、左のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)を務めていたリケルメを右に移し、リノの位置を下げたんですが、おかげで44分、リケルメのゴール前へのキラーパスから、グリーズマンの先制ゴールが生まれたから、ビックリしたの何のって。

おかげで冗談のように1-0のリードで折り返したアトレティコだったんですが、ヘタフェも前節、セビージャにサンチェス・ピスファンで0-3と快勝。ディエゴ・アロンソ監督を解任に追いやっただけでなく、今季アウェイ初勝利を挙げて自信をつけていましたからね。後半8分には、その日はピッチを縦横無尽に走り、存在感を示していたグリーンウッドがエリア内右奥からシュート。これはGKオブラクが弾いたものの、跳ね返りを今季絶好調のボルハ・マジョラルにヘッドで決められて、早々にスコアはイーブンに戻ることに。そこでシメオネ監督はベンチに温存していたモラタをデ・パウルの代わりに入れ、チームにCFを復活させたところ…。

まさか、これまたバッチリ当たるとは!そう、19分、ジョレンテが右サイドから上げたクロスをモラタが頭で叩きこんでくれたからですが、ツキはこれだけじゃなかったんです。2-1になってから、ほんの2分後には、いえ、グリーズマンが蹴ったFKをエリア前で受けたコケのクロスは誰もいない場所に飛んで行ったんですけどね。その間、エリア内左側で争っていたエルモーソがダミアンに顔をはたかれ、倒れていたことがVAR注進で発覚。モニターチェックをした主審がPKを宣告し、モラタからボールを譲られたグリーズマンがGKコーチのアドバイス通りに蹴ってGKダビド・ソリアを破り、10人なのに3点も取ってしまうって、そんな怪奇現象、あっていい?

これでとうとうグリーズマンは今季の目標だった故ルイス・アラゴネス監督の持つクラブ最多得点記録の173ゴールに並び、場内は歓喜に湧いたんですが、何せ残り時間がまだ30分以上ありましたからね。最初は呆気に取られていたヘタフェ勢も徐々に自分たちの方が1人多いことを思い出したか、「Ellos metieron mucha gente en banda y arriba. Era difícil defender con 10/エジョス・メティエロン・ムーチャ・ヘンテ・エン・バンダ・イ・アリバ。エラ・ディフィシル・デフェンデール・コン・ディエス(相手はサイドと前線の人数を増やしたから、10人で守るのは難しかった)」(グリーズマン)という状態にすることに成功。

一応、シメオネ監督もリノとジョレンテをサウールとモリーナに代え、選手をリフレッシュしたものの、42分にはビッツェルがクリアし損ねたボールがオスカル・ロドリゲスに渡り、そのシュートで1点差にされてしまうことに。おまけに45分にはダミアンのクロスをカットしようと割って入ったリケルメの腕にボールが当たり、うーん、これは当人も「No puedo cortarme la mano y me da/ノー・プエド・コルタルメ・ラ・マノ・イ・メ・ダ(手を切ることはできないから、当たっちゃった)」と言っていたように仕方ないところもあるんですけどね。問題だったのはそのハンドがエリア内ギリギリだったことで、今度はアトレティコがVARモニターチェックでペナルティを課されてしまったんですよ。

PKはマジョラルがしっかり決め、ベリンガムと1ゴール差の12得点という、リーガピチチ(得点王)レース2位の座を固めつつ、スコアを3-3の同点にしたんですが、いやあ。あの兄貴分コンプレックスを失くしたヘタフェの猛攻ぶりを見るにつけ、逆転されなくて本当に良かったかと。それでもここアウェイ3連敗とこの引分けで勝ち点11も落としたアトレティコはとうとう、水曜にラス・パルマスに土壇場で勝利した5位のアスレティックに勝ち点で並ばれてしまうことに。

上を見れば、状況はもっと悪くて、トップに並ぶジローナとマドリーとは10ポイント差とはまさにトホホ。うーん、最多得点記録に並んだことで、一人お祝い気分だったグリーズマンなど、「Estamos a diciembre. Quedan muchísimos partidos, queda mucha temporada/エスタモス・ア・ディシエンブレ。ケダン・ムチシモス・パルティードス、ケダ・ムーチャ・テンポラーダ(今は12月。試合もシーズンも沢山残っている)。だから落ち着いて、非常ベルを鳴らす必要はない」と言っていたんですけどね。

こうなると、他のチームがすでにクリスマス休暇に入っているこの週末の土曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)、マドリットに豪雨警報が出て順延なり、ようやくプレーできる4節のセビージャ戦で絶対勝利して、少しでも勝ち点を増やしておくしかありませんが、間が悪いのは、相手はキケ・サンチェス・フローレス監督が着任して、火曜のグラナダ戦に0-3で勝利。気分一新して、無敵のホーム記録が今年2月にヘタフェと1-1で引き分けた後、始まったのと同様に今回の引分けにより、20連勝で途切れたばかりのメトリポリターノに乗り込んでくることですが、こればっかりはねえ。

ええ、シメオネ監督も長い時間、10人でプレーした選手たちの疲労度を「あれだけの努力の後、土曜までに回復するのは簡単ではない」と心配していましたしね。おまけにこのセビージャ戦ではサビッチだけでなく、エルモーソも累積警告で出場停止ですし、ヘタフェ戦をお休みしたヒメネスも筋肉痛から回復するか微妙となれば、それこそ泣きっ面にハチですが、過密日程なのはCLグループリーグを敗退、ヨーロッパ完全撤退が決まったばかりの相手も同じ。ここはもう、最後の力を振り絞るしかありませんが、年明け3日にジローナ戦が入っているアトレティコはバケーション日数も少ないのはちょっと、辛いですよね。

そして1日空いて木曜、マドリーがメンディソローサでアラベス戦を迎えたんですが、こちらも前半は不活発な展開で、せいぜいバルベルデのシュートが2度、GKシベラに弾かれたぐらい。それでもエリア内から撃ってもボールがDFに当たり、この日はルーニンに代わって、守護神を務めたケパを煩わすまでには至らないホームチームよりはマシだったんですが、ピンチが訪れたのは後半7分のことでした。そう、ナチョがアトレティコからレンタル移籍している大型FWサムを後ろから蹴ってしまい、いえ最初、主審はイエローカードを出したんですけどね。VARモニターで見直した後、レッドカードになってしまったから、さあ大変!

まさに前節ビジャレアル戦でアラバがヒザの靭帯を断裂。水曜にはインスブルックで手術を受けて、今季絶望となり、8月から同じ負傷で長期離脱しているミリトンの復帰もまだ先のため、冬の移籍市場でCBを補強するかしないか、議論している中、絶対にあってはならないことだったんですが、だってえ、ナチョは年明け3日のマジョルカ戦にも出られないんですよ。とりあえず、アンチェロッティ監督は本職ボランチのチュアメニをCBとして送り込み、モドリッチを下げたんですが、幸いだったのは、アラベスが「No hemos sabido jugarles con 10/ノー・エモス・サビードー・フガールレル・コン・ディエス(ウチは10人でプレーすることを知らなかった)」(ルイス・ガルシア監督)こと。

おかげで失点することのなかったマドリーは0-0のまま、後半ロスタイムに突入。数的劣勢の時には最高のチャンスとなるCKを47分に手に入れ、いえまあ、まさかルーカス・バスケスがヘッドを決めるとは誰も思っていなかったはずですけどね。「ここ2試合、セットプレーの時、彼をエリア内に置くことにした。Es bastante pequeño pero es peligroso en el área/エス・バスタンテ・ペケーニョ・ペロ・エス・ペリグローソ・エン・エル・アレア(十分、小さいが、エリア内では危険だからね)」というアンチェロッティ監督の思惑がバッチリ当たり、アラベスの守備陣がベリンガムやホセル、リュディガーら、長身の選手たちにかまけているのをいいことに、フリーで勝ち越しゴールをゲットしているんですから、チャッカリしているじゃないですか。

結局、そのまま0-1で勝ったマドリーは、直前の試合でジローナがベティスと1-1で引き分けたおかげもあって、同じ勝ち点ながら、首位を奪還。頂点で年を越えられることになりましたが、得点後にはロドリゴがどこかを痛めて、セバージョスと交代したなんてこともありましたからね。今は軽傷であることを祈るばかりとはいえ、そろそろビニシウスを始め、カマビンガやギュレルらが戻って来てくれないと、さすがのマドリーもコパ・デル・レイも始まる1月は苦しいんじゃないかと思いますが…このチームはどんな逆境でも根性で乗り越えちゃうんでしょうかね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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