「竜」のヘッドマークが初春の東葛を走る 新京成が2024年も「新年ヘッドマーク電車」 ジェントルピンク誕生の秘話にも迫ります【コラム】

京成津田沼方の先頭車。駅でこんなヘッドマークの電車が入線してきたら、思わずカメラを向けたくなります(筆者撮影)

2023年も残りわずか。新型コロナの行動制限がなくなって人出は戻り、鉄道各社はリベンジ消費に知恵を絞ります。2024年の鉄道イベントのトップバッターを務めるのが千葉県の新京成電鉄。年明け15日間限定のシャッターチャンスとして、沿線の高校生が新しい年の干支(えと)の竜をデザインした「新年ヘッドマーク電車」を走らせます。

新京成といえば、パステルカラーのジェントルピンクを基調色にした電車やバスが「かわいい」と一部で評判に。本コラムは辰年ヘッドマークとともに、来年で10周年を迎える〝新京成ピンク〟の歴史をたどります。鉄道ファンなら気になる「あのこと」も、新京成広報にうかがいました。

沿線4市の高校生が持ち回りでデザイン

地域密着や話題づくりを目的にした、新京成の干支ヘッドーマークは2019年からスタート。2023年12月15日に、鎌ヶ谷、松戸の両市にまたがるくぬぎ山車両基地で、発表会が開かれました。

新京成は松戸、鎌ヶ谷、船橋、習志野の沿線4市の高校から毎年1校ずつにデザインを依頼。今回は、千葉県立鎌ヶ谷高校の美術部員がデザインしました。

干支ヘッドマークはご覧の通り。松戸方先頭車、火をはいて迫る竜をデザインしたのは本間伶さん。京成津田沼方先頭車、雄々しく躍動する竜を描いたのは加藤大輝さん。2人とも鎌ヶ谷高の美術部1年生です。

松戸方先頭車をバックにそれぞれのヘッドマークを持つ本間さん(右)と加藤さん(左)(筆者撮影)

水彩画とイラスト調

2つのヘッドマーク、タッチはずいぶん違います。本間さんの作品は、下書きに絵の具で色付けした水彩画。発色のいいアクリル絵具を使ったのが、一般的な絵画との違いです。こだわったのは目。確かに迫力満点です。

加藤さんは、タブレット端末で下絵から彩色まで仕上げました。最初、竜の全身を入れようとしたのですがうまくいかず、首から上を切り取りました。バックは正月の模様でみられる赤、緑、白の縦帯。右側ほど色を濃くして、陽が昇る様子を表現しました。角(つの)はピンク。新京成を意識したかと思ったのですが、「偶然の一致」とのことでした。

「謹賀新年」の文字は、2人ともオリジナル。描いているときは意識しなかったものの、ヘッドマーク電車と対面して、「美術部員として誇らしく思う」と加藤さん。これほど多くの人に、作品を見てもらえるチャンスはめったにないでしょう。本間さんも、「一日や1年の始まりを、電車に乗った人に感じてもらえれば……」と話しました。

ヘッドマークは縦55センチ、横75センチ。掲出するのは1986年にデビューした8800形6両1編成。京成千葉線には乗り入れず、自社線内だけで2024年1月1~15日に運行されます。

若い人が住みたくなる沿線イメージ

ここから、新京成がジェントルピンクに込めた思い。2023年11月開催の鉄道技術展の併催セミナー「レイルウェイデザイナーズイブニング(RDE)」で取材した、相原栄取締役・車両電気部長のスピーチを再構成して、ブランドイメージへのこだわりを探ります。

新京成の路線は京成津田沼ー松戸間26.5キロ。JR武蔵野線、東武アーバンパークラインなどと同じ、首都圏外周部を巻く環状鉄道で、東京都心には乗り入れません。沿線に目立った観光施設はなく、利用客はほぼ通勤通学客や沿線住民に限定されます。

本格化する少子高齢化社会にあって、目指すのは「若い人が住みたくなる沿線イメージ」。2014年にカーブの多い線形をモチーフにしたシンボルマークと、ジェントルピンクのコーポレートカラー、それに「まいにち、ちょっと、新しい。」のブランドスローガンを制定。4年間で156両(6両×26編成)の車両を塗り替えました。

くぬぎ山のタヌキ

歴史をたどれば、1970年代後半からの新京成のボディカラーは試行錯誤の連続。キャンディピンク地にマルーンのツートンカラーは、1980年代初頭にはベージュ地に茶帯に変わりました。

1978年から2021年まで40年以上にわたり活躍した8000形電車。最初の編成はキャンディピンクとマルーンのツートンカラーで登場しました(写真:新京成電鉄)
昭和から平成かけての標準色だったベージュ地に茶色のライン。新京成は2017年から8000形1編成をリバイバルカラーに塗り替え「くぬぎ山の狸」を表敬しました(写真:新京成電鉄)

前面2枚窓の8000形電車(現在は全車引退)は、「くぬぎ山の狸(たぬき)」なんて呼ばれたことも。くぬぎ山は、本社のある鎌ヶ谷市の地名。狸とは言い得て妙で、新京成も積極的に〝狸電車〟をPRしました。

いったんは定着した茶帯ですが、8000形の2代後の8900形でステンレス車が採用されると、銀地に茶帯はどこか〝映えない〟。社内公募の青帯、2005年デビューのN800形のマルーン帯を経て、2014年からジェントルピンクの現行カラーに統一されました。

芸能人の一言が効果絶大

ピンクの新京成をめぐっては当初、「朝から落ち着かない」のクレームもありました。ところが、ある鉄道好き芸能人がテレビで「新京成の電車がかわいい」と発言して、苦情はピタリやんだーーの〝都市伝説〟は、鉄道技術展のコラムでご報告した通りです。

新年ヘッドマークをデザインした本間さんも、「かわいい」と感想を話してくれました。

京成への吸収合併でどう変わる?

新京成といえば、2023年秋に駆けめぐったのが「京成電鉄が新京成電鉄を2025年4月1日に吸収合併」のニュース。鉄道ファンならずとも「今回のようなイベントは継続されるのか」、「車両運用はどうなる」が気になるところです。しかし、発表会場で新京成広報から帰ってきたのは、当然ながら「現時点では何も決まっていません」。方針が決まれば、本サイトでご報告したいと思います。

2024年は、ジェントルピンクがコーポレートカラーになって10周年の節目。せっかく「ピンクの新京成」が定着したのですから、会社は変わってもブランドイメージは引き継いでほしい。取材を終え、そんなことを考えながら車両基地を後にしました。

新京成といえば船橋市の非公認キャラクター「ふなっしー」。鉄道の「ふなっしートレイン」は2023年3月に運行を終了しましたが、船橋新京成バスには同年11月からラッピングバス「ふなっしー号」が登場しています(写真:新京成電鉄)

記事:上里夏生

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