【コラム】防衛装備増強=外交交渉力増強の考えは間違い

 24年度予算案が22日、閣議決定された。一般会計総額112兆円。突出しているのが防衛費の伸び。前年度当初予算比で約1兆1000億円増の約7兆9000億円。8兆円にとどく勢いで過去最高額になった。

 岸田総理はロシアによるウクライナ侵略開始以来「アジアにおいても同じことが起こりうる可能性」をうたい、同時に中国の海洋進出、南西諸島の不安定、北朝鮮の核開発や弾道ミサイル発射実験、軍事偵察衛星打上げなど、すべてを材料に防衛装備拡充の必要をアピールし、今年度から5年間に43兆円を注ぎ込むことを決定した。

 岸田総理にとっての防衛装備の限界は「核」に到達しなければよいのかと思わせる「歯止めなき軍拡の流れ」に。今月21日の経済財政諮問会議に示された「新経済・財政再生計画改革工程表2023」では「防衛生産・技術基盤の維持・強化」項目に「防衛事業を魅力化する」と謳った。

防衛産業にとって「防衛市場を、利益を産む市場」にすることで事実上の軍事産業への新規参入や既存企業の研究開発活発化につなげることを意味しているようにも受け取れる表現。「防衛生産・技術基盤の維持・強化」という改革工程は今回新設された項目でもある。

 「防衛生産基盤の維持・強化」の取組みとしての記述では「防衛産業を取り巻く各種リスクへの効果的対応、防衛装備移転の推進、サプライチェーン調査の実施品目数や事業承継等に繋がった件数の割合といったKPI設定。装備品等の早期装備化の実現、民生分野で育成されにくい技術といった基礎研究の発掘・育成、「10億円以上の研究開発事業に対する早期装備化の実現に向けた取組みを実施する研究開発事業の割合」といったKPI設定。

 政府は大学などへの共同研究の民間企業からの受け入れ額を2018年度比で「25年度までに7割アップ」を目指している。防衛装備庁は軍事技術への応用可能な基礎研究を行う大学に助成しているが、今年度23大学から応募があり、5件が採択された。来年度はさらに増えそうだ。

 加えて、先の国会で成立させた「国立大学法人法改正」で東大、京大、阪大など事業規模の大きい国立大学を「特定国立大学」に指定し、学長と民間企業人材登用を含む3人以上の委員からなる「運営方針会議」の設置を義務付け、大学の中期目標や予算・決算など大学運営の主要方針を決定させることにした。防衛産業にかかわる主要企業が大学研究に資金提供することを条件に運営委員メンバーになれば「軍事研究」に足を踏み込むことになる可能性や運営方針会議の委員任命に文部科学大臣の承認が必要などから国立大学への政治介入の危険が高まることが予想される。

 安倍内閣で憲法9条(戦争の放棄規定)が事実上、解釈改憲され、集団的自衛権行使を一部容認以来、「敵基地攻撃能力の保有」まで一挙に突き進んできた。しかも敵基地能力の範囲は「相手国のミサイル基地に限定されるものでなく、指揮統制機能を含む」とした。

 具体的には「スタンド・オフ防衛能力や宇宙コンステレーション・無人機などによる探知・追尾を含むISR能力、宇宙、サイバー、電磁波領域における相手方の一連の指揮統制機能の発揮を妨げる能力と関連するものを包含する」。自民党が10数年前に目指した内容そのものが岸田政権で形になった格好。

 安倍政権下でもできなかったことを岸田政権はウクライナで起こったことがアジアでも起こるかもしれないと吹聴し続けたことで、いとも簡単に「敵基地攻撃能力の保有」を現憲法下で正当化した。「非核3原則」以外は規制枠がなくなったような感さえ受ける。

 一連の背景には岸田総理に「防衛力強化イコール外交交渉能力の強化」との思考が見える。しかし、これこそ「平和憲法」の外交交渉に副わない。「平和外交」「均衡外交」により戦争に巻き込まれることなく、先人らは平和の道を試行錯誤の努力の中で刻んできた。

 日本は「防衛力」という武力・実力部隊を背景に外交を優位にするような術はとるべきではない。考えることも抑制すべき。それこそが国際社会から日本の評価、価値を高めることにつながるだろう。(編集担当:森高龍二)

24年度予算案が22日、閣議決定された。一般会計総額112兆円

© 株式会社エコノミックニュース