日銀のマイナス金利解除は4月か。「2024年に政策変更はない」というサブシナリオが考えられる理由

日銀は2023年12月19日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の現状維持を決めました。

大半のエコノミストは今会合での現状維持を予想していましたので、順当な結果だといえます。それにもかかわらず、円相場は1日で2円ほど円安・ドル高方向に振れました。18日夕方時点の円相場は142円40銭前後でした。日銀が金融政策決定会合の結果を公表した直後の19日正午に143円台後半を付け、植田総裁の記者会見中の午後4時ごろには144円台まで円安が進みました。つまり、為替市場では今回の結果は「軽いサプライズ」で、円を売り戻す動きが出たということです。その背景には植田総裁が2024年1月のマイナス金利の解除を予告するという予想があったからです。しかし、それは市場が勝手に「前のめり」になり過ぎていたということでしょう。

今回のような市場の過剰期待・過剰反応は相場の「つきもの」ですから、良し悪しを議論しても始まりませんが、一般の投資家がこうした短期的な乱高下に振り回されないためには、しっかりと日銀のスタンスとその判断の基礎となるファンダメンタルズを確認しておくことが肝要であると思われます。


2024年4月のマイナス金利解除がメインシナリオか

植田総裁は記者会見で物価2%目標の持続的な実現に向けて「確度は少しずつ高まっているが、賃金と物価の好循環をなお見極める必要がある」と述べました。日銀がもっとも重視するのは、この「賃金と物価の好循環」を伴う「物価2%目標の持続的な実現」なのです。これがすべてのベースになります。ですから、これが確信できないうちは金融政策の変更はあり得ないとするのがもっともふつうの考え方です。

市場では2024年春までのマイナス金利の解除を見込む声が大勢を占めています。特に有力視されているのが、日銀が金融政策運営の前提とする新たな物価見通しを示す1月と4月です。しかし、植田総裁は「(2024年1月にマイナス金利を解除する可能性は)1月後半の決定会合までに入ってくる新しい情報次第。だが、新しいデータはそんなに多くない」と述べました。春季労使交渉の経過をより見極められるのは3月以降の会合です。交渉は例年3月中旬に集中回答日を迎えます。ですから、マイナス金利解除に動くとすれば、春闘の状況を確認して物価見通しを示す4月会合でしょう。実際、市場関係者が予想する政策変更のタイミングとすれば、この4月会合が最多だろうと思います。

それでも、1月や3月を予想するものも少なからずいるので、そのたびに今回のような市場のドタバタ劇が演じられることになると思いますが、あくまでも4月会合での政策変更がメインシナリオであると強調しておきます。

2024年中に政策変更はないサブシナリオを考えられる理由

4月がメインシナリオならば、1月や3月はサブシナリオか?と問われれば、答えはNoです。ではサブシナリオは何か? 2024年中の政策変更はなし、がサブシナリオです。

その理由は、日銀はマイナス金利解除を急ぐ必要がないからです。これがサブシナリオの根拠です。なぜ日銀はマイナス金利解除を急ぐ必要がないのか。それはマイナス金利解除は、あくまでも「金融政策の正常化(への一歩)」であって、いわゆる金融引き締めとしての「利上げ」ではないからです。そして、日銀が金融引き締めとしての「利上げ」を急ぐ必要がないのは、インフレが落ち着いてきているからです。

2022年から2023年前半にかけて米国のFRB(米連邦準備制度理事会)や欧州のECB(欧州中央銀行)など海外の中央銀行が急速な利上げをおこなってきたのは、歴史的な高さに跳ね上がったインフレを抑制することが目的でした。海外のインフレはようやくピークを超え、徐々に沈静化しています。日本でもインフレ率が高まった主な理由は、この海外のインフレが波及したからです。したがって、おおもとの海外のインフレが収まってきたならば、時間差を伴って日本のインフレもピークアウトするのが当然の成り行きでしょう。

実際のところ、2023年11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比2.5%と2022年7月以来の低い伸び率となっています。企業の間で取り引きされるモノの価格を示す企業物価指数は11月の前年同月比は0.3%上昇と2年9ヶ月ぶりの低い水準となりました。一時、高い時には10%を越えていたのに、足元では伸びはほぼゼロです。

モノの価格の値上がりは着実に鈍化していますが、サービス価格は上昇が続いています。ではこれを抑制しようと利上げをおこなうべきでしょうか。サービス価格の上昇は人手不足などを背景とする人件費の上昇が要因です。すなわち賃金が上がっているわけです。ここで前述した日銀が目指す「賃金と物価の好循環」というキーワードを思い出してください。モノの値段は落ち着き、賃金は上がる。これぞ望ましい環境に向かってきています。この流れを変える必要などどこにもありません。

0%を越える「利上げ」は当面先か

マイナス金利政策は、非伝統的政策であり、いわば非常時の対応です。日本経済が本当にデフレを脱却し、正常なマイルドなインフレが定着する経済になれば、マイナス金利政策の解除は当然です。不自然なことはやめるのが良いのです。それと、景気の過熱を抑制する目的でおこなわれる金融引き締め(=利上げ)はまったく別物です。したがって日銀は「賃金と物価の好循環」が確認できれば2024年4月以降にマイナス金利政策の解除、すなわち、マイナス0.1%の政策金利を0%にすることはあっても、0%を越える「利上げ」はまだ当面先のこととなるでしょう。

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