危険予測、昨年度の的中率90%に いなほ事故受け、JR東がAI活用

2017年に新たに設置されたドップラーレーダー=酒田市黒森

 乗員乗客計38人が死傷した2005年のJR羽越本線の特急いなほ脱線転覆事故を受け、JR東日本がドップラーレーダーと人工知能(AI)を活用して行っている危険予測で、予測結果に基づく運行規制と、実際に起きた危険な突風などとの的中率が昨年度、90%に達したことが23日、JR東への取材で分かった。

 酒田市黒森にレーダーを設置した17年以降、90%台は20年度に続き2度目。AI導入で精度が格段に向上しており、JR東は一層の安全運行に努めるとしている。

 ドップラーレーダーは、事故原因とされる下降気流の発生を予測するための観測装置。雲の中の雨粒・雪粒の動きから積乱雲の中の風の吹き方などを予想する。JR東などは07年に余目駅(庄内町)と庄内空港(酒田市)に置き、17年に余目駅の装置を更新する際、雲や渦が生まれる海により近い酒田市黒森に新設した。気象庁気象研究所と機能強化を図り、突風の目印となる日本海上空の大気の渦を探知・追跡し、進路を予測。事故発生時と同程度の秒速33~49メートルの突風が列車の運行範囲に到達する危険性がある場合、列車を止めるシステムを構築した。

 分析にAIを活用したのは20年からで、11月から翌年3月までの冬季間、強風が吹く状況を学習させている。危険予測によって運行を規制した回数のうち、実際に危険な突風などが発生した割合を的中率とし、データを取っている。AI導入以前の危険予測的中率は60%程度で、導入後の20年度は92%となった。21年度は83%にとどまったが、昨年度は再び90%に達した。今季は今月15日までに10回、危険予測による規制を実施している。

 突風の発生が予測されると運行司令室に運転中止区間が表示され、運転士に列車を止めるよう指示が出る仕組みだ。AIの学習ケースを増やすほど的中率が向上する、との期待がある。JR東は的中率を100%に近づけたいとしており、担当者は「事故を知らない運転士も増えており、事故の教訓も伝えていかなければならない。ハード面の危険予測態勢の整備とともに、現場での教育と安全運行の徹底というソフト面の対策も進め、引き続き安全運行に努める」と話した。

 庄内町榎木の事故慰霊碑では25日、追悼慰霊式が行われる。

【特急いなほ脱線転覆事故】 2005年12月25日午後7時14分、庄内町榎木で発生。秋田発新潟行きの特急いなほ14号が第二最上川橋梁(きょうりょう)を通過直後、瞬間風速40メートルの突風にあおられて脱線、転覆した。1両目の乗客5人が死亡、乗員を含む33人が重軽傷を負った。突風はダウンバーストか竜巻の可能性が高いとされる。業務上過失致死傷容疑で書類送検されたJR東日本新潟支社の指令室長(当時)ら3人は不起訴処分(嫌疑不十分)となり、JR東と遺族・負傷者の間で示談が成立している。

AI活用の危険予測 的中率の推移

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