馬の耳の秘密

馬たちを見ていると「とてもよく耳を動かしているな」と感じる方も多いのではないでしょうか?身体の中で器用に動く部分は、その動物が生きていくために大きな役割を担っている部位ともいえます。今回は、馬の耳の機能・聴力・耳からわかる馬の気持ちなどについて詳しく見てみましょう。

耳の機能

まずは、馬の耳が持つ3つの機能について紹介します。1つめの機能はもちろん「聞く」ことですが、他にはどのような機能があるのでしょうか?

機能①音を聞く

耳の最も基本的な機能は周囲の音を聞き取ることです。乗馬の経験がある方は、馬が聞き慣れない音に大きな反応を示す様子をみたことがあるはずです。

馬が聴力により危険を察知しようとするのは、広い草原に暮らしていた頃の名残と考えられます。草を食べるために首を下げているときや、目には見えない範囲に敵がいるときも、音で危険を察知できれば安心ですね。

その他にも馬は「音に関する記憶力が非常に良い」とされ、関わりが深い人間の声や特定の状況で聞いた音から、関連する人や出来事を想起できるそうです。このような能力も、音によって状況を理解するために役立っているのでしょう。

機能②平衡感覚を保つ

みなさんは、耳栓をして運動したことがあるでしょうか?実は、人間は耳栓をすると平衡感覚が若干低下するため運動能力が低下するのだとか。馬も同じで、耳がフリーな状態になっている方が平衡感覚は保ちやすく良いパフォーマンスができるようです。

「でも、馬が耳栓をする状況って…?」と疑問に感じた方もいると思いますが、競馬では「メンコ」、馬術では「イヤーネット」という耳を覆う馬具があります。耳栓のように外耳道に詰めるのではなく、布で覆うような感じですね。

こうした馬具は、周囲の騒音・虫の羽音などを遮断して馬の気を散らさないために付けるものです。音が気になる馬には効果的ですが、パフォーマンスが下がる可能性があるためメンコやイヤーネットを可能な限り避けるという人もいます。

機能③感情を表現する

耳で音を聞く・平衡感覚を保つという機能は、馬だけでなく人間にも共通する機能ですね。しかし、馬の耳には私たちにはない機能がもう1つあります。それは「感情を表現する」というもの。

馬には人間ほど顔の表情はありませんが、代わりに耳で威嚇・警戒・リラックスなどの感情を表現します。この記事の最後「耳をみれば気持ち丸わかり」では、耳の状態&馬の気持ちの具体例をいくつか紹介していきますので、そちらも参考にしてくださいね。

馬の聴力

動物によって聞こえている音の大きさ・高さは異なります。では、馬の聴力とはどれくらいなのでしょうか?

聞こえる音の大きさ

身近な動物のなかで「聴力が高い動物」といえばです。犬の聴力は、家の中からでも飼い主が家に近づいてきた足音を何mも先から察知できるほどといわれています。そのため、犬が音を気にして吠えていても人間には全く原因が分からないということもあるでしょう。

一方で馬は、人間よりは聴力が高いものの犬の半分以下だといいます。馬といえば「音に驚きやすい」というイメージがあるかもしれませんが、かすかな音までハッキリ聞こえているというよりは「音に対する警戒心が強い」ために小さな音にも大きな反応を示すと考えられます。

聞こえる音の高さ

聴力には「どれくらいの大きさの音が聞こえるか」という基準のほかに「どんな高さの音がよく聞こえるか」という基準があります。

たとえば、人間の平均的な可聴域は20~20,000Hz。20Hzは「高速道路で窓を少し開けたときの空気が吹き込んでくる音」くらいです。また、いわゆる「モスキート音」のほか、電子機器が動いているときに微かに聴こえる「キーン」という音が20,000Hz程度といわれています。

一方、馬の可聴域は55~33,500Hz。人間よりもやや高い音を聞きやすいといえます。55Hzは「停止中の車のエンジン音」くらいと表現されます。33,500Hzは聞き取れない方もいるので「どんな音」と表現しにくいですが、聴力検査では非常に高い30,000Hzの「キーン」という音も20代くらいの人までは聞き取れることがあるそうです。

自由自在に動かせる

人間の耳はほとんど動きませんが、馬の耳はクルクルといろいろな方向によく動きます。また、角度もピンと立ったり項に付いてしまうくらいペタンと寝かせたり、とても器用です。

この動きを可能にしているのがたくさんの筋肉で、馬には耳の筋肉が10種類以上あります。人間には耳に関わる筋肉が3種類しかないことを考えると、かなり多いですね。

耳の見れば気持ち丸わかり

よく動く耳は、馬の気持ちや精神状態を知る大きな手がかりになります。最後に、耳の様子から推測できる馬の気持ち・感情をいくつか紹介します!

まずは、耳を正面に向けてピンと立て、一点を見つめているとき。これは、特定の音・物に対して「気になるな」と注意を払っているときの様子です。一方で広い範囲に注意を払っているときや、気になる音の方向を確かめようとしているときには、首を上げて耳を立てたままクルクルといろいろな方向に動かしています。

また、耳を首の方向にペタリと伏せているときは怒ったり威嚇しています。中には、耳を伏せるだけでなく口を開けて噛みつこうとする馬もいるかもしれません。このようなときは、無理に近づくと噛まれてしまう可能性もあるため馬が落ち着くのを待ちましょう。

そして、耳がピンと立たず少し外側に開いているときはリラックスしているときです。人間もリラックスしているときは少し力が抜けますよね。このように、耳を観察することは馬の気持ちを推測する大きなヒントになります。

まとめ

馬の聴覚は人間より優れているものの、動物の中では人間に近い可聴域を持っているといえます。また、耳がとてもよく動き、音の方向を聞き分けるのが得意です。いろいろな役割を持つ馬の耳ですが、音を聞くだけでなく相手に感情を伝えるという役割にも注目したいですね。一見無表情にみえる馬も「耳」をみれば意外と気持ちがわかるかもしれません!

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