朝長氏「核保有国、動かすのは市民」 ヒバクシャ・ミライ・プロジェクト渡米団

米国で核兵器の被害の永続性について訴える朝長団長(ヒバクシャ・ミライ・プロジェクト提供)

 核軍縮をめぐる国際社会の分断や核兵器使用の威嚇-。「核なき世界」への道筋が見えない中、県被爆者手帳友の会の「ヒバクシャ・ミライ・プロジェクト」の渡米団が11月、約2週間かけて米国3都市を巡り、被爆の実相を直接訴えた。“最後のメッセージ”を伝える決意で海を渡った同会会長の朝長万左男氏(80)は「核保有国を動かすのは市民。今までと違うやり方で可能性を示せた」と総括。これまでにない手応えと未来への希望を手にした。
 朝長氏は爆心地から2.7キロの自宅で被爆。父と同じ医学の道へ進み、長崎大で白血病など原爆後障害の研究に打ち込んだ。退官後、2019年から同会会長を務め、市民レベルの反核運動をリードする。
 渡米団を思い立ったのは2年前。核兵器禁止条約や核拡散防止条約(NPT)など数々の国際会議に参加してきたが、目にするのは日本のメディアばかり。危機感が募った。市民に身近な気候変動などと比べ、核兵器の問題は遠い存在。「市民の関心を高め、世論を盛り上げないと状況は変わらない」。米市民との対話を目指して準備を進めた。
 自ら団長を務め、被爆者、被爆2、3世ら9人とともにローリー、シカゴ、ポートランドで20回以上集会などを開き、学生や市民1千人以上と会った。「なぜ78年も放射線の被害が続くのか」。こう尋ねる若者に遺伝子レベルまで傷つける放射線の人体への影響を解説。「核被害の永続性」を手掛かりに、国や世代が違っても伝わる手応えを感じた。
 「原爆投下が戦争を終結させた」という考えや核抑止論が根強い米国で、厳しい意見が投げかけられる場面を予想していたが、反発はなかった。「将来、核兵器はなくさないといけない」という意見も聞き、米国世論の変化を実感した。
 目標の一つだった現地メディアの取材はなく、関心の薄さも痛感したが、今後の課題が明確にもなった。「米国全体で見るとまだわずかな3つの点(都市)。核保有国を動かすには継続し、他の国にも展開しないといけないが、一団体で継続するのは限界がある。団体の枠を越え、海外からも長崎に来てもらうなどの双方向性の活動も必要」
 被爆100年に向け「被爆体験の継承」の必要性が叫ばれる。「体験を引き継ぐだけでは力にならない。被爆者が求めるのは『核兵器廃絶』。そのためにできることを続けたい。次世代には世界の若い世代と連携し、未来を目指し行動してほしい」

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