家族に送る“わが家”の味 五島「かんころ餅」 冬の保存食、製造・発注の減少も【ルポ】

店頭に並べられたかんころ=新上五島町、エレナ上五島店

 五島列島に古くから伝わる郷土食「かんころ餅」。新上五島町内のスーパーでは11月、原材料となる「かんころ」の販売が始まる。サツマイモを薄く切って湯がいて干したもので、年末に向かう島の風物詩だ。島民はこれで「わが家味」のかんころ餅をついたり、業者に依頼したりする。記者も懐かしいわが家の味を食べたくて発注してみた。

 かんころ餅は、かんころと餅を混ぜて作る冬の保存食。かんころの相場はどれくらいか。ショッピングセンター、エレナ上五島店の場合、1キロ当たり約1400円。3キロ入りを例年、有川店と合わせて約100袋売り上げるという。
 記者が製造を依頼したのは丸尾郷の「花野果(はなやか)」(岡本幸代代表)。持ち込んだ材料は、かんころ6キロ、もち米3キロ、砂糖2キロ、水あめ1.2キロ。あん餅用に、あんこ700グラム。亡き母は「うちは水あめを入れる」と言っていたが、岡本代表によると、水あめ入りの注文は少ないという。ゴマやショウガを入れる家庭が多く、変わり種では練乳入りの注文もあったという。
 作業は午前6時、岡本さんと従業員の竹内紗苗さんら3人でスタート。前日から水に浸していたかんころと、もち米を蒸し始める。もち米は先について、餅にして蒸す。蒸したかんころの上に餅をのせ、再度蒸し上げ、すぐに餅つき機へ。約10分でつき終わる。熱々のまま打ち粉をふるった台の上に運び、ちぎって計量、なまこ形のケースに入れて成形したり、あんこを包みながら丸めたり。途中で味見をしたが、たまらなくおいしい。

 全部でなまこ形44本、あん餅24個が完成した。料金は材料を含め約2万円。岡本さんは「恩返しの意味を込め、島民は安くしている」と話す。市販品なら2万5千円くらいだという。何よりわが家の味で作れたことがうれしい。
 昔は各家庭や共同でついていたが、少なくなった。各地区の製造業者も高齢化などで減少し、発注する家庭も減っているという。
 かんころは新年用の餅をつくこの時期に出回る。地元名産の焼きアゴ、スルメイカもそろい、島の味をまとめて島外の家族や友人らに送る好機だ。
 離れて暮らしていた記者に、母がどれだけの思いを込めて、わが家味のかんころ餅を送ってくれていたのか-。焼きたてを味わいながら、思いをはせた。


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