高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador ④ 北陸・東海ブロック大会

サステナブル・ブランド ジャパンと日本旅行が毎年共催で開いているSB Student Ambassador(SA)大会。4回目となる今年も全国の高校生が社会課題の解決に向け、地域や企業の課題に耳を傾け、自分たちに何ができるかを考えた。ブロック大会への参加者は大会後、各校で論文を作成し、選考に残れば、来年2月21・22日に行われる「SB国際会議2024東京・丸の内」に招待される。11月4日に行われた北陸大会と11日に行われた東海大会の様子をレポートする。

■基調講演    江原太郎・LOCAL BAMBOO取締役

竹林の問題解決へ メンマを食べれば食べるほど、森が育つ

両大会の基調講演には、竹の食材活用を通した竹林保全を手掛けるLOCAL BAMBOO(宮崎県延岡市)の江原太郎代表取締役が登壇した。江原氏は地元・延岡市で祖父母から受け継いだ山林をフィールドとして活動しているが、その課題意識を「竹林を管理する人がどんどんいなくなり、(竹林の)持続可能性が壊れかけている。竹が悪いのではなく、竹林が管理されないことが原因」と説明する。

問題のひとつは、「破竹の勢い」という言葉の由来でもある、一日に1メートル以上も伸びることがあるという竹の成長力・繁殖力だ。竹林が管理されなくなると、成長を続ける竹が日光を遮り、他の植物を枯らしてしまう。生物多様性が破壊され、土地が痩せてしまうだけでなく、竹林の根は保水性が低いため土砂災害リスクも高まる。さらに、放置竹林がイノシシやシカなどの住処となり、畑や耕作地を荒らす鳥獣害の原因にもなる。江原氏は「森の機能が維持できないと、川から海にも影響が出る。人の生活に直結している」と警鐘を鳴らす。

そもそも放置竹林が増加している背景には、近代化以前はタケノコの収穫目的や生活資材、建材として積極的に植えられていた竹の需要が、プラスチックなどの登場で低下し、同時に一次産業の担い手自体も急激に減少していることが挙げられる。

そこでLOCAL BAMBOOが取り組むのが、「竹をメンマとして食べることで竹林の問題を解決する」(江原氏)ことだ。地元の放置竹林から買い取った竹を素材として、地域に伝わる味噌やトウガラシなどの調味料を使った商品を開発。ラーメンだけでなく、丼物やパスタ、スイーツなどユニークな食べ方を提案し、学校給食や機内食にも採用されるなど広がりを見せている。さらに、福祉事業者との「農福連携」として福祉施設利用者を雇用しているほか、メンマとして使われない部分を家畜用の飼料として販売し、畜産農家のコスト削減にも貢献している。
江原氏は「竹から価値が生まれると分かれば竹林が整備され、地域全体のサステナビリティが向上する。山や地域の資源は発想ひとつでどんどん変わるし、もっと可能性がある。皆さんにも、山や森で起きていることに少しでも興味を持ってもらえたらうれしい」と呼びかけた。

● 北陸大会 = 11月 4日、金沢大学で開催、15校 81人参加=

北陸大会は金沢大学角間キャンパス(金沢市)で開催され、エムアンドケイ(同市)、社会福祉法人佛子園(石川県白山市)、YKK AP(東京都千代田区)がテーマ別ワークを担当。高校生たちは関心に応じてテーマを選び、各企業の講演を踏まえて、課題解決のアイデアをグループごとに議論した。

■食を通じたグローバルコミュニケーション重ねる ―エムアンドケイ―

各国の文化を取り入れた寿司ネタを 寿司の缶詰開発案も

高級路線の回転寿司チェーン「金沢まいもん寿司」を展開するエムアンドケイからは、池田俊之・マーケティングディレクターが登壇。同社のモットーは「十方うまし」。近江商人の「三方よし」にちなみ、買い手・売り手だけでなく、従業員や生産者、文化なども視野に入れサプライチェーン全体の持続可能性を高めるというものだ。池田氏は「誰かの損と引き換えの得ではなく、社会がうまく回ることが喜び」と思いを明かす。

積極的な海外進出も行う同社では、飲食業を活かしたコミュニティづくりにも注力している。具体的な取り組みとして挙げられたのが、参加者同士で食事をともにしながら社会課題やサステナビリティについて話し合うイベント「テーブル・フォー・サステナビリティ」だ。池田氏は「人種・国籍・職業の垣根を超えて絆を作ることができる。こうしたシンプルな行為こそが世界を明るくするのではないか」と狙いを語るが、実際にこれまでにアラブ首長国連邦やメキシコなどの大使館と連携して実施を重ね、各国の企業や団体を交え、地域の伝統料理文化をめぐる現状を共有したり、日本文化を発信したりするなどの交流が生まれているという。

高校生たちは、こうした取り組みをさらに加速させるためのアイデアを議論。キムチ寿司やラタトゥイユ寿司など、各国の文化を取り入れた寿司ネタにより交流を生むという案や、福井県や富山県といった近隣県の特産物・伝統工芸品も含めて「北陸流」の魅力を発信するのはどうか、としたアイデアが飛び交った。また、寿司の缶詰を開発するというユニークな提案も。より遠くの地域へ輸出でき、コメの消費増を狙えるといった利点の一方、機械製造となることから職人による手作りの良さが失われてしまうといったデメリットも視野に入れた議論が展開されていた。

■キーワードは「ごちゃまぜ」誰一人取り残さない福祉事業を展開 ―佛子園―

若者から高齢者まであらゆる世代のニーズ満たせる場を提案

石川県内各地で障がい者や高齢者への福祉事業を展開する社会福祉法人佛子園。「ごちゃまぜ」をキーワードに掲げる同法人は、福祉サービス利用者にとどまらず、地域全体の活性化を図っている点が特徴だ。地ビールの醸造所や漆塗りの工房、町屋をリノベーションしたカフェなどを立ち上げ、障がい者の雇用創出と地域の居場所づくり・交流機会増を両立している。

同法人理事の清水愛美氏は「(福祉もSDGsも)『誰一人取り残さない』ことが重要。地域を元気にするには、スタッフも元気でいなければいけない」として、従業員のウェルビーイング向上に注力していることにも触れた。例えば、運動が心身に与える好影響を見据え、30分以上の運動を週に2回以上、1年間継続した職員には特別手当3000円を毎月支給するなど、制度面の改革も進めているという。

グループワークのテーマは「ごちゃまぜな場所」のアイデアを考えること。あるグループからは、「ハイパースーパーゲームセンター」と題した、若者から高齢者までが遊戯を通して交流、楽しめる施設の提案が。同様に、勉強や会議、交通機関の待ち時間の交流などに使える多目的スペース「なんでもBOX」や、子ども食堂・ユースセンター(中高生の居場所)、老人ホームなどの機能を集約した複合施設「All Center」なども挙げられ、あらゆるニーズを満たせるリアルの場へのニーズが感じられるワークとなった。

■住宅の断熱性能向上は急務「窓から始まる課題解決を」―YKK AP―

音を電気に変換する技術の確立は? 斬新な提案も

建材事業を手掛けるYKK APからは、三浦俊介・サステナビリティ推進部 部長が登壇。1959年からアルミ建材に進出してきた同社では「熱効率に優れない窓を製造してきたという反省がある」といい、省エネ・CO2削減に向けて改良を進めている。背景にあるのは、一般家庭でのCO2排出において冷暖房からの排出が20%弱(2019年度)を占める一方、家電や自動車からの排出に比べ、削減率が立ち遅れており、住宅自体の断熱性能向上が急務であるという現状だ。

「アルミ窓の熱効率は非常に悪く、窓は、壁に穴が開いているようなもの」と三浦氏は窓の断熱性能に危機感を示す。打ち手となるのは、普及を進めている樹脂窓だ。アルミは樹脂と比べ約1400倍と、極端に熱伝導率が高い。樹脂窓に交換することで、冷暖房にかかるエネルギーを約4割削減できるという。住宅の断熱性向上は、一般世帯にとっては経済的メリット以上に、熱中症リスクや冬季の健康被害を減少させられるという利点も大きい。三浦氏は「社会課題はどこからでも解決できる。私たちは建築、窓からやっている。皆さんはどこからやりますか?」と投げかけた。

高校生たちは、「これからの家づくりがどうなっていけば環境を守れるか」というテーマでグループワークに臨んだ。講演内容を受け、熱に注目して「夏場に窓から熱を吸収し、発電に再利用できないか」といったアイデアや、「音を電気に変換する技術を確立して、騒音解決とエネルギー削減に活かす」といった斬新な提案があった。また、家の取り壊し・破棄といったサイクルを視野に入れ、木材を活用したり、窓部分は次の家で再利用したりするといったプランも出されていた。

● 東海大会 = 11月 11日、名城大学で開催、21校130人参加=

名城大学ナゴヤドーム前キャンパス(名古屋市東区)で開催された東海大会のテーマ別ワークでは、いずれも名古屋市に本社を置く鯱(しゃち)バス、ティア、豊島の3社が講演と高校生との対話を行った。

■バスの運行だけをやる会社ではない―鯱(しゃち)バス―

植林活動の参加者は料金割引などSDGsに貢献する旅行提案

修学旅行や観光地周遊などのツアーバスを運行する鯱バス。恩田稔・エージェント営業所営業統括部長は同社について「年間1万3360台のバスが稼働し、総走行距離では220万キロ超となり、CO2排出量は120万キロとなる」と現状を説明。CO2削減に向け、同社では「鯱バスの森」と名付けた植林プロジェクトを2022年秋からスタートしているほか、東海エリアで初めて、大型電気バスの導入も進めている。

現状は走行距離に課題があり、短距離送迎のみの活用だが、将来的には東京~名古屋間の運行にも導入していきたいという。恩田氏は「最終的には太陽光発電を進め、自社で発電した電気でバスを動かせるような仕組みもつくっていきたい」と意気込みを語る。

さらに、小学生など子ども世代がSDGsを学べる体験学習プログラム「キッズスタートアップアドベンチャー」も打ち出している。国際連合地域開発センターやブラザー、大垣共立銀行など東海圏の企業と連携しているもので、バス内で手話の講義を受けたり、農業体験やキャンプ、ジビエ料理を味わうなど多岐にわたる内容だ。恩田氏は「バスの運行だけをやる会社じゃない。『自分が変わらないと社会も変わらない』ことを次世代に伝えていく」という決意を語った。

高校生は、SDGs達成に寄与しながら観光客も楽しめるような新たな旅行プランを考えるグループワークに臨んだ。複数のグループから、燃料電池を活用した車両開発を求める声が上がり、中には発電過程で生まれる水をツアー参加者に配布するというアイデアも。また、事前に植林活動への参加を呼びかけ、参加者は旅行代金が割り引かれるという、各ステークホルダーを意識したビジネスプランも提案されていた。

■死生観の教育を徹底 「命の授業」行う葬儀社 ―ティア―

外国ルーツの高齢者にさまざまな宗派に対応した葬儀を

「葬儀社は偏見の目を向けられてきた。僕も周囲から、葬儀屋やるなんて馬鹿なんじゃないかと言われてきた」。ティアの冨安徳久・代表取締役社長は、自身の半生を赤裸々に振り返った。大学入学直前に偶然出会ったアルバイトをきっかけに、人の死に立ち会うという葬儀社の仕事に感銘を受け、大学に進学せずに社員として葬儀社に入社した経歴を持つ。

しかし2社目の葬儀社が、生活保護受給者の葬儀を行わないなど、顧客を収入源として考える姿勢に幻滅することになった。兼ねてから詰め込み型・点数偏重型の学校教育に違和感を持っていた冨安氏は、「学校教育だけでは若い世代が世の中で生きていけない。物事の見方や良識を学ぶためには、企業こそが教育に関わらなければいけない」と考えるようになる。

この思いからティアを1997年に創業し、業界で初めて研修センターを立ち上げるなど社員への倫理観や死生観の教育を徹底。「命の授業」と題した全国の小中学校への出張プログラムも実践している。この日集まった高校生たちには「ただ偏差値を高めて、ただ働くようになっても面白くない。大人たちが皆さんの見本になるような生き方をしないといけないと考えて、SDGsへの意識を高めている」と声を震わせながら訴えた。

冨安氏のメッセージを受け、グループワークでは「高齢化社会に対してティアがより貢献できること」を検討。高齢者の孤独を解消すべく、学生と高齢者が集まり、相互交流を促進するコミュニティセンターを立ち上げるといった提案が複数のグループから飛び出した。また、外国ルーツの高齢者に対して、さまざまな宗派での葬儀に対応していくというアイデアも発表されていた。

■女性のウェルビーイングから社会のウェルビーイングへ ―豊島―

「他人と自分を比べない社会にしたい」等身大の発想

企業ユニフォームを手掛ける豊島は、創業180年を超え、「繊維商社」から「ライフスタイル提案商社へ」という理念を掲げる。大川侑穂・東京二部二課Hogaraプロジェクトリーダーは「私が入社した頃は、女性の営業が1人もいなかった。現在では私のもとに30人ほどの女性社員がいる」と変化を語る。実際に女性メンバーが自らの目線を活かして新規ブランドを立ち上げ始めているという。

その中心になっているのが、TOYOSHIMA FEMCARE LABと銘打った、女性のライフスタイルを研究し、女性用製品の提案を行う専門チームだ。その中で、大川氏がプロデュースして立ち上げたのが、「女性らしさを押し付けられずに、自分たちの考えで自由に朗らかに生きていく」というコンセプトのブランド「Hogara」だ。

代表的な商品には、生理時に安心して心地よく使用できる吸水ショーツがある。オーガニックな綿花を使い、コーヒーを染料としているほか、売り上げの一部を綿花生産地などの女性支援プロジェクトに寄付される仕組みも導入している。そこには、地球環境だけでなく、社員や消費者のウェルビーイングにも貢献する事業創造を目指すという理念が表れている。

さらに、生理について学べる教材の作成や、地域の女子大学生と製品の共同開発に取り組むなど、教育事業にも力を入れている。社員向けには、女性のライフステージに特化した福利厚生サービスも立ち上げた。大川氏は「自分自身の働き方も『朗らか』にしていきたいし、女性だけでなく男性の健康課題もたくさんある。社会全体を朗らかにすることが、私たちのウェルビーイング」と締めくくり、高校生たちに「ウェルビーイングの実現のために必要なもの」というディスカッションテーマを投げかけた。

これに対し、あるグループは「他人と自分を比べない社会にしたい」と等身大の発想をシェア。自分自身の悩みや不調を相談できる交流アプリの開発や、合宿の実施を通して心の健康を実現したいと訴えた。他にも、制服でシャツの着用が定められていることで、アイロンの手間がかかるという課題から、TPOを問わず誰でも着られる服の開発を求める声や、セクシャルマイノリティに配慮した「朗らかなトイレ」といったアイデアも出された。

本年度行われた「サステナブル・ブランド国際会議 学生招待プログラム 第4回 SB Student Ambassador ブロック大会」の詳細は こちら

高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador
①四国・北海道ブロック大会https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1218301_2557.html
②西日本・東日本ブロック大会https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1218800_2557.html

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