サプライチェーンに“間接的な関係”という選択肢はない――第12回国連ビジネスと人権フォーラム

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国連ビジネスと人権フォーラムが11月27~29日、スイス・ジュネーブで開かれた。その初日、参加者らは将来的にサプライチェーンのすべての階層で直接的な関わりを結ぶことが不可欠になることに合意した。企業責任・サステナビリティに関わる戦略アドバイザーで、国際統合報告評議会(IIRC)の元CEOリチャード・ハウィット氏が報告する。(翻訳・編集=小松はるか)

サプライチェーンへの責任は、企業の人権にかかわる活動において一貫したテーマとなっている。人権デューディリジェンスに関しては近年、日本や米国、EUなど世界的に新たな動きがあり、今回のフォーラムでもサプライチェーン問題が重視された。

午前中に開かれた「レジリエントで責任あるグローバルサプライチェーン」をテーマにしたセッションは、その答えとなる“パートナーシップの構築”の話題から始まった。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのビジネスと人権センターによる新たな調査が紹介され、そこでは、企業はグローバルサウスのサプライヤーとの間接的な関係に依存することはできず、直接的に関わる事業モデルを採用することが推奨されるとの提言がなされている。

H&Mで社会的インパクトの責任者を務めるパヤル・ジェイン氏は、それは可能なことだと主張した。同社では10年以上にわたりサプライヤーのリストを公開しており、行動規範を1次請け、現在は2次請けまで適用しているという。さらに、すでに同社ではどうすれば3次請けまで拡大できるかを協議している。

バングラデシュのアパレル調達プラットフォーム「マーチャント・ベイ」の創業者兼CEOのアブラール・サイエム氏は、フォーラムに対して、各企業が購買やバイヤーの不公正な慣行に不満を漏らさないのは、仕事を失うことを恐れているからだということを認識するよう求めた。

両者ともに、これからのパートナーシップの形においては、製造者への要求が購買する企業のコミットメントに整合していなければならないとの認識で一致した。

「要望を放り出すのではなく、きちんと耳を傾けましょう。一方通行のパートナーシップではなく双方向のパートナーシップであることを保証しましょう。責任を共有するというのは、公正な価格をつけ、ツールを提供し、解決策に取り組むことであり、関与しないことではありません」(ジェイン氏)

パートナーシップは「インクルーシブかつマルチステークホルダー」で

どのようにパートナーシップが構築されるかが成功の鍵になることが議論された。

現代奴隷を撲滅するグローバル基金(Global Fund to End Modern Slavery)でブラジル支部の責任者を務めるフェルナンダ・カルバリョ氏は、デューディリジェンスの取り組みにおいて、労働者がより弱い立場になりうる危険性があると提言した。労働組合をグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)の中心に据えることで、解決するしかできないためだ。カルバリョ氏は、企業に対して現代奴隷のサバイバーと関わりを持ち、話に耳を傾けるよう求めた。

登壇者らは、パートナーシップには、人々をまとめてパートナーに責任を問うことができる公正な仲介者が必要だと声を揃えた。スロベニアの人権オンブズマンのディアナ・M・ズパンク氏は、それぞれの政府の招集者がその実現に重要な役割を果たすと語った。また、登壇した全員が、パートナーシップはインクルーシブかつマルチステークホルダーで、長期的なものである必要があることに賛同した。

関係の不均衡を強調したのはインターフェイス・センター創設者のスティーブ・ベル氏だ。「必要とされているのは責任の共有ではなく、力の共有です」と指摘した。

ほかの登壇者は、コンプライアンス・認証・改善に係る費用の分担とビジネスモデルの構造的変革が、人権侵害の原因に対処する鍵であることを、企業は認識する必要があると指摘した。

人権デューディリジェンスはソフトローからハードローへ

参考になるパートナーシップの成功事例としてあがったのは、オランダの社会経済理事会が仲介した衣類・繊維協定、バングラデシュの火災・建築安全に関する協定、アパレル業界での有害化学物質の使用ゼロを目指すプログラム「Roadmap to Zero Programme」だ。

国際労働機関(ILO)でアパレル産業の労働状況改善に取り組むベターワーク事業を担当するダン・リース氏と、研究著者のサンチタ・サクセーナ氏は、新たな法律が状況を大きく変えるだろうとの見解を示した。

サクセーナ氏は「新たな法律とは、企業が説明責任を果たしていく法律のことです。良いパートナーシップは良いビジネスにつながります。購買者とサプライヤーの両方が、自社の行動が人権に負の影響を与えないことに合意しなければなりません」。

リース氏は「人権デューディリジェンスに関してはソフトローからハードローへ移行し、大転換が起きています。多くの企業において、パートナーシップはサプライチェーンを通じて推進されていくでしょう」と語った。

フォーラム初日のハイライト

・国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は、世界人権宣言の75周年記念の一環で、人権を前進させるための“具体的な行動”についての誓約を記録するよう企業に呼びかけた。

・ILO事務局次長であるセレステ・ドレイク氏は、ILOの「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」のガイダンスを活用するよう求めた。

・被害者の声を伝えることはフォーラムの大切な側面だが、数千人が参加するような国際会議の場では難しいのが明らかだ。初日には、この課題を乗り越えようとする試みとして、ダム建設で影響を受けたブラジルやインドネシアなどの地元コミュニティを追った、一連の映像が公開された。

・一方、国際法律家委員会のサンドラ・イパル=ラトシェン氏は、2014年に話し合いが始まった “ビジネスと人権に関する法的拘束力のある条約案”について、対象範囲や法的責任、法域に大きな違いがあると指摘した。しかし、現在の雰囲気は楽観的だとし、「本格的な交渉が始まったところです」と述べた。

・この日、斬新だったのは“環境レイシズム(人種差別)”に関するワークショップだ。ここでは、人種が要因となり社会的に不利な立場に置かれている集団が、環境害や気候変動の影響を被りやすい傾向にあるという現実について議論した。先住民の人々にとっては新しい概念ではないが、特定の課題に関心を引き付ける可能性のある興味深い用語の変化だった。

このほかに課題として挙がったのは、知的財産の範囲をAIがもたらす新たなリスクから先住民の伝統的な知恵に至るまでどう広げていくべきか、“公正な移行”において環境リスクを人権デューディリジェンスに統合する必要性をどう示せるか、世界の紛争とSDGsへの取り組みの後退がどのように今年のフォーラムをより一層切迫したものにしているか、というものだった。

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