16代目の新キャラクター。走って楽しい“スッキリ”クラウン/トヨタ・クラウン・スポーツHEV試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『トヨタ・クラウン・スポーツ』に試乗する。クラウンシリーズの第二弾は躍動的なスタイルと俊敏な走行性能を武器にした“SPORT”(スポーツ)。パワートレインはハイブリッドとプラグインハイブリッドを揃える。今回は、ハイブリッドをチョイス。多様化するニーズに対応する新しいSUVという位置付けの『クラウン・スポーツ』の実力を深掘りする。

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 『クラウン・スポーツ』は「新しいカタチのスポーツSUV」を標榜する。見るからに躍動的なカタチが特徴で、スマホやパソコンのディスプレイに映った姿を見るよりも、実物のほうがずっと迫力がある。とくに、グラマラスなリヤフェンダーまわりは圧巻だ。

 そして、タイヤがデカイ。235/45R21のタイヤサイズは、『クロスオーバー』よりワンサイズ幅広で、そのため外径もひとまわり大きく745mmある。近くで見るとギョッとするほど大きさを感じる。『スポーツ』は『クロスオーバー』に対してホイールベースを80mm縮めているため(2850mm→2770mm)、大径タイヤがなおさら強調される(それを狙っている)。

接地感や踏ん張り感が強調され、自在にクルマを操る喜びを想像させる幅広タイヤを採用。キビキビ走る取り回しのよさを提供する。

 ボディサイズを記しておくと、全長は『クロスオーバー』より210mm短い4720mm。フロントのオーバーハングは30mm、リヤのオーバーハングは100mm短縮した。その結果、ギュッとしまった緊張感のあるプロポーションになっている。

 一方で、全高は『クロスオーバー』より25mm高い1565mmだ。1550mmの高さ制限がある機械式駐車場には入らない高さである。開発段階では「その15mm、なんとかならないのか」との議論があったそうだが、最終的には実用性よりも魅力的なクルマづくりを優先した。その意気に賛同である。

トヨタ・クラウン・スポーツ
LEDリヤコンビネーションランプを採用。スポーティな印象を高める4眼ランプで構成。両サイドを下げて配置することで、低重心感を表現している。
トヨタ・クラウン・クロスオーバー
トヨタ・クラウン・クロスオーバー

 パワートレイン横置きレイアウトは、『クロスオーバー』と共通。2.5リッターハイブリッド車の設定があるのも『クロスオーバー』と共通しているが、『クロスオーバー』にある2.4リッターターボハイブリッド車の設定は『スポーツ』にはなく、代わりにプラグインハイブリッド車(PHEV)の設定がある。

 クラウンシリーズは価値感の多様化に応えるべく、『クロスオーバー』、『スポーツ』、『セダン』、『エステート』(2023年度中に発売予定)の4つのボディタイプを設定。パワートレインも価値感の多様性に合わせる格好で複数のタイプを使い分ける。

 『クロスオーバー』にはなく、『スポーツ』に設定があるPHEVの特徴は、大容量の電池を搭載することにより、大きなモーター出力を出せること。「アクセルを踏むと一気に立ち上がるトルクフルな加速を感じていただきたい」と、開発を担当する技術者は語る。

トヨタ・クラウン・スポーツ RS(2.5リッター プラグインハイブリッド車)
トヨタ・クラウン・スポーツ RS(2.5リッター プラグインハイブリッド車)

 『プリウス』におけるハイブリッド車とPHEVの関係と似たような狙いだろう。そう聞くと期待は高まるが、PHEVの試乗は後のお楽しみにとっておくことにし、まずは2.5リッターハイブリッド車で『スポーツ』の味見をすることにする。

 『スポーツ』の2.5リッターハイブリッド車は、『クロスオーバー』と同様にリヤにモーターを搭載した電気式4WDであり、ダイナミックリヤステアリング(DRS)と呼ぶ後輪操舵システムを搭載している。基本的には、低速時に逆相に切って俊敏な動きをつくり出し、高速時は同相に切って意のままの走りを提供する考えで制御が構築されている。

2.5リッター プラグインハイブリッドシステム。システム最高出力は172kW(234ps)、燃費消費率(WLTCモード)は21.3km/L。
シフトポジションを電動で制御するエレクトロシフトマチックを採用。
トヨタ・クラウン・スポーツ“Z”(2.5リッター ハイブリッド車)

 その制御が『クロスオーバー』と『スポーツ』では異なる。ドライブモードでNormalを選択しているとき、低速時(〜60km/h)は逆相に切るが、『スポーツ』は『クロスオーバー』よりも少し強めに切る(切れ角が大きい)という。俊敏性を高めるためだ。

 『クロスオーバー』でSport+、『スポーツ』でSportモードを選択した場合、逆相に切る速度域の上限が高くなる(〜70km/h)。70〜80km/hの切り替え領域では、同相(80km/h〜)とのつながりをなめらかにするため、『クロスオーバー』では同相/逆相を切り込み速度(舵角速度)に応じて判断しているいが、『スポーツ』では「動かさない」設定とした。

「より意のままに操れる感覚を重視したセッティング」だという。詳しく話を聞くと、切り替え領域で同相/逆相の制御をすると、舵角速度に応じて同相に切ったり、逆相に切ったりするためクルマの動きが同じにならず、サーキットを攻め込んだ際に違和感を感じることがあるのだという。

 自在に動くことがいいと限らないのはサスペンションと一緒で、『スポーツ』でSportモードを選択した際の逆相〜同相切り替え領域はリジッドにした。

 話を伺ったときは何とも思わなかったが、「サーキットを攻め込んだ際に」って表現がスルッと出てくるところに、『クラウン・スポーツ』のキャラクターが表れている。筆者も富士スピードウェイのショートコースでスポーツのサーキット走行を経験済み。

 考えてみれば、サーキットを走って音を上げないどころか、走って楽しいクラウンって一体どういうことなんだと、今ごろになって驚きの念がジワジワとこみ上げてくる。

 もちろん、『スポーツ』を名乗るからといって『GRヤリス』や『GR86』のように走りに特化したキャラクターが与えられているわけではなく、カバー範囲の端っこにサーキットが入っているにすぎない(それでも驚嘆ものだが)。メインのターゲットは公道だ。上質な乗り心地を損なわない範囲でスポーツを感じさせる走りを作り込んでいる。

 3人いるテストドライバーのうちひとりは女性で、その女性ドライバーの目線で操舵力が重すぎないよう、電動パワーステアリング(EPS)の制御を煮詰めていったという。軽い、重いで評価するのはふさわしくなく、「スッキリしたフィーリング」と表現するのがふさわしいように思う。ステアリングの操舵に関してだけでなく、クルマ全体の動きがスッキリしている。

 自動車販売店やコンビニ、スーパーなどの駐車場から道路に向かって段差を降りるときにも、『クラウン・スポーツ』のスッキリした動きは体感できると思う。

 ダンパーの構成は『クロスオーバー』と同じだが、構成部品(具体的には、シート面を持たずリーフバルブがスウィングすることで油の流れを制御し減衰力を発生させるスウィングバルブの特性)を見直し、極微低速作動域での減衰力を20%程度上げているという。結果、タイヤが路面にしっかり追従し、動いた後は、その動きをすぐに収めるチューニングを施した。

 そんなチューニングの効果もあり、『クラウン・スポーツ』は石畳のようなザラザラした路面をあえて選んで走りたくなるような、柔軟な脚の持ち主になっている。スッキリした乗り味はタイヤ(ミシュランe・PRIMACY)の効果も大きいらしく、縦ばねは柔らかくしつつ、グリップはしっかり出す特性をタイヤメーカーと協力して作り込んだそう。

 『クラウン・スポーツ』ではなく“クラウン・スッキリ”とでも呼びたいくらい、気持ちいい乗り味が印象的だ。

メーターディスプレイを水平に集約することで視線移動を最小限に抑えている。
運転席は、前後スライド、リクライニング、シート上下、座面前端上下の各調整を無段階に電動で行える。腰部を支えるランバーサポートの2ウェイ調整もスイッチ操作も可能。
トヨタ・クラウン・スポーツ“Z”(2.5リッター ハイブリッド車)
トヨタ・クラウン・スポーツ“Z”(2.5リッター ハイブリッド車)
トヨタ・クラウンシリーズ

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