滋賀の「ごく普通のコンビニ」が詐欺被害10件防ぐ きっかけは店長の苦い経験

特殊詐欺の撲滅を店員に呼びかけてきた川端さん。特に電子マネーカードを購入する高齢客への配慮を心がけている(大津市真野4丁目・セブン―イレブン真野4丁目店)

 2022年以降、特殊詐欺の被害を10件も防いだコンビニが大津市真野の住宅街にある。滋賀県警によると被害防止が多いコンビニでも年3件ほどで、この店は「県内で突出して多い」という。店長とアルバイトの20人ほどで切り盛りする、ごく普通のコンビニ。なぜ卑劣な犯罪から来店客を守る機会が多いのか―。

■「自分のせいで被害に」後悔

 コンビニは、セブン―イレブン大津真野4丁目店。2022年は3件、23年は11月末までに7件もの特殊詐欺被害を防いだ。10件とも架空請求詐欺で、中でも、パソコンに「ウイルスに感染した」とうその警告を表示して金銭を要求してくる「サポート詐欺」が多い。

 店長の川端毅史さん(64)が特に注意しているのが、Appleギフトカードなどコンビニで購入できる電子マネーカードを買い求める高齢客への配慮だ。近年は特殊詐欺グループが電子マネーカードでの送金を要求してくる事例が急増し、県内では今年に入ってから89件に上る。

 川端さんの原点には苦い経験がある。5年ほど前、電話をしながら来店した高齢男性が電子マネーカードを購入し、電話の相手に券面番号を教えた。後日、詐欺と気づいた男性が返金を頼んできたが応じられなかった。カードはレジで店員が処理しないと使えない。自分のせいで被害に遭ったと悔やんだ。

 「お客さまが詐欺に引っかかると罪悪感に駆られる」。川端さんはこの日を境に被害撲滅に力を注ぐことになる。詐欺が多発した3年前には高額の被害を防ぐため、売り上げを度外視して1万円以上の電子マネーカードを店頭から外した。カードを取り扱う店が水際で防ぐことができれば抑止に直結すると考え、高齢者が購入する際には警察への相談を勧めることを日々店員に伝える。特に夕方以降は若い店員が多く、丁寧な説明を心がけるよう指導している。

■高齢者に寄り添い、通報ためらわない

 アルバイトの追手門学院大学4年、小笠原千晃(ちあき)さん(21)=同市=も被害を防いだ一人だ。11月20日の深夜に来店した75歳の男性がAppleギフトカードの買い方を尋ねてきた。小笠原さんはとっさに詐欺を疑い、理由を尋ねた。「パソコンがウイルスにかかった」と答えたので警察への相談を促した。

 「店のみんなで詐欺への意識が共有されているので、自然と動けた」。大津北署から感謝状が贈られた小笠原さんは、贈呈式で笑顔を見せた。

 川端さんや同署は、店の近くに住宅団地のびわ湖ローズタウンがあることも被害防止が多い一因では、と分析する。ローズタウンは1970年代に開発が始まり、高度成長期には京都や大阪へ通勤する人が多かったが、子ども世代が独立し、近年は高齢者の居住率が高いからだ。

 犯罪のターゲットになりやすい人が多い地域性に、備えを怠らないスタッフたち。二つが相まって被害防止数を押し上げているのかもしれない。

 滋賀県内の特殊詐欺被害は11月末時点で236件。前年からほぼ倍増し、年間の最多を更新することは確実だ。同署は「特殊詐欺未然防止優良店」の第1号に川端さんの店を認定した。「店の意識で被害は防げる。高齢者に寄り添い、通報をためらわない勇気を持ってほしい」。認定証を前に川端さんが強く訴えた。

特殊詐欺の被害を防ぎ、大津北署から感謝状が贈られた店員の小笠原さん(大津市真野2丁目・同署)

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