『ゴジラ-1.0』米国でも興行収入歴代1位!ラジオでその魅力を解説

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ゴジラシリーズの最新作『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』は、アメリカでの興行収入が邦画実写で34年ぶりに歴代1位を更新するヒットとなっている。1954年の『ゴジラ』公開から70年を迎えるのを機に、第1作へのオマージュとして『-1.0』をあえてモノクロで公開することも12月20日に発表された。その前日・19日のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』では、アメリカでの大ヒットの理由やゴジラシリーズに込められた反戦・反核の思いなどを映画活動家の松崎まことさんに聞いた。(聞き手・神戸金史RKB解説委員長)

邦画の全米興収歴代1位に 実写で34年ぶりに更新

ゴジラ-1.0から

神戸:12月16日に『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』を観てきました。遅くなってしまったんですが、とてもよかったです。東宝が7日に発表していましたが、アメリカでの興行収入が邦画の実写で34年ぶりに歴代1位になった、というのです。

34年ぶりの新記録! 全米での歴代邦画実写作品で興行収入No.1に‼ ゴジラ、映画史に“大きな足跡”を残す‼(東宝のプレスリリースより)

[時事通信社]ゴジラ、邦画の全米興収歴代1位に=実写で34年ぶり―「子猫物語」抜く

東宝は7日、1日から米国でも公開中のゴジラシリーズ最新作「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」の累計興行収入が1436万ドル(約20億9000万円)を超え、邦画実写作品としての全米興収記録が歴代1位になったと発表した。

これまでの1位は、日本で1986年、米国で89年に公開された「子猫物語」(畑正憲監督、約1329万ドル)で、34年ぶりに記録を更新した。

山崎貴監督は「長い間破られなかった記録を他ならぬゴジラが飛び越えてくれたことがうれしいです」とコメントした。

「映画活動家」松崎まことさんに聞く

神戸:『ゴジラ-1.0』を観ようと思ったのは、放送作家で映画活動家の松崎まことさんがSNSに「試写を観てすばらしかった」と書いていたからです。松崎さんは、放送作家として長年情報番組を軸に、東京でラジオやテレビの番組の構成を担当、その他にも映画に関係した様々な仕事をしています。松崎さんとオンラインでつながっています。

映画活動家・松崎まことさん

<松崎まこと> 1964年生まれ。早大一文卒。長年放送作家として、情報番組を軸にラジオ・テレビ番組の構成を担当。近年は映画・映像関係を主戦場に、新人監督の登龍門「田辺・弁慶映画祭」MC&コーディネーターや「日本国際観光映像祭」審査員を務める。来年2月にスタートする、「熊谷駅前短編映画祭」では、審査委員長に就任。洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HPには、コラムを連載中。YouTubeでは、「水道橋博士の異常な対談」の構成、「小西克哉のニュースさかさメガネ」のプロデューサーを務める。X:@nenbutsunomatsu

神戸:『ゴジラ-1.0』がアメリカでヒットしている、と聞きましたが。

松崎:現実的な面では、ハリウッドで俳優と脚本家の大規模なストライキがあり、その影響でめぼしい作品が少なくなっている、という事実はあります。宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が1位になって話題になっていますけども、3位が『ゴジラ-1.0』。「え、日本のチャート?」みたいな状態が起きちゃっているんですよね。

神戸:なるほど。実写版としての歴代興行収入1位とであって、アニメはさらに上にいっている。

松崎:『ポケモン』とかありますからね。実写版の記録を持っているのが『子猫物語』というのはちょっとびっくりしましたけど。やはり世情があったみたいで、ウクライナ戦争が終わりそうもなかったり、イスラエル=ハマス戦争……戦争の空気はアメリカにはやっぱりあるわけです。ゴジラって、怪獣が日本を襲ってくるという体はあっても、基本的には反戦映画なので、その辺の空気もあったんじゃないか。また、「すごく丁寧に英語字幕を作ったのが勝因だ」という話もあるんです。戦後の日本の情勢は、アメリカ人にはわからないじゃないですか。かなりわかりやすいように字幕を作っています。ハリウッド版の『ゴジラ』シリーズで結構地ならしができていて、日本のゴジラだから抵抗感がないのもあったみたいですね。

東京に上陸したゴジラ

「第1作より前」の大戦後を描く挑戦

神戸:国内実写版30作目、第1作から70周年のダブルアニバーサリー作品。東宝としても気合いが入っていたんですか。

松崎:いや、めちゃくちゃ入っています。制作費に20億円ぐらいかかっていますから。日本映画としてはものすごいスケールですよね。

神戸:戦後まもなくの闇市など、日本の戦後の時代を描いていて、すごくリアルな感じがしました。

ゴジラの襲来で焼け野原となった東京・銀座

松崎:ゴジラの第1作は1954年(昭和29年)なんですが、それに始まって、シリーズの各作は時代設定がほぼリアルタイムなんですが、今度のゴジラは第1作より前の時代設定なんですね。

神戸:まさに「-1.0」ですね。

松崎:これはかなり挑戦的なことなんです。昭和29年は、戦争の香りが残っていて、人々は戦争のことを知っていた。今回そこにあえて挑戦したのが、ものすごく大きなことだと思いますね。

山手線の車両を破壊するゴジラ

戦争の悲惨から始まった『ゴジラ』シリーズ

神戸:ゴジラは反戦の映画でもある、という話でしたが、戦争や核兵器の存在は第1作に濃厚にありましたよね。

松崎:監督した本多猪四郎さんは、世界的に有名な巨匠ですが、3度戦争で徴兵に取られて、8年ぐらい中国戦線などに行かされています。帰ってきた時には広島の焼け野原を見ているんです。戦争に対する嫌悪感とか、結局下々の者たちが犠牲になっていくのを目の当たりにしている。8年間も兵隊に取られて監督デビューが遅れたり、自分も戦争の犠牲なんです。ちょうど昭和29年には、3月に「第五福竜丸事件」があり、日本での反核機運、核兵器に対する忌避感・嫌悪が高まっている時、『ゴジラ』は始まっています。

ゴジラから必至に逃げる人々

「第五福竜丸事件」 1954年3月1日午前6時45分(現地時間)、米国は国連信託統治領だったマーシャル諸島ビキニ環礁で水爆「ブラボー」の実験を行った。強い放射能を帯びたサンゴ片の「死の灰」が降り注ぎ、公海上で操業中だった遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」(静岡・焼津市)の乗組員23人が被ばく。約半年後、無線長だった久保山愛吉さん(40)が亡くなり、人類初の水爆犠牲者となった。 第五福竜丸は米国の設定した危険水域外で操業していたが、米国が水爆の威力の見積もりを誤ったため、死の灰が予想以上に広がったとされる。[時事ドットコムニュース]

松崎:2001年の金子修介監督『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』では、ゴジラは「太平洋戦争で死亡した人の怨念の集合体」という設定です。日本に埋まっている3体の成獣、バラゴンとモスラとキングギドラがゴジラを迎え撃つという話。ゴジラシリーズはシリーズごとにいろいろ設定が変わっていて、全然話がつながってなかったりするんですけども、やっぱり戦争と核兵器はどうしても避けられないもの、必ず背景にあるものになっています。

神戸:今回も、南洋の伝説的な生物「呉爾羅」が核実験で変異してしまったという設定ですね。

松崎:山崎貴監督は今回、人間の愚かさとか戦争みたいなものが生んだ「祟り神」だ、という言い方をしているんです。

神戸:「祟り神」……なるほど。それで戦争後の日本にも、再び現れてくるわけですね。

松崎:ゴジラと相対する人たちが「特攻隊崩れ」だったり、旧日本軍人でも国の無策の前にひどい目に遭って負けちゃった人たちじゃないですか。日本を守れなかった人たちが今度は「ゴジラからどうやって守るか」という話になっていくんです。

主人公「敷島浩一」を演じる神木隆之介

「生き抜かなければ」戦争を踏まえた思い

神戸:面白かったのは、まだ自衛隊もない。だから、ゴジラと戦うのは民間人。

松崎:「GHQ(連合国軍総司令部)は何をやっているんだ?」とかいろいろ批判も出てくるけれども、でもこの設定は秀逸だったと思います。

注:駐留連合国軍はソ連軍を刺激する恐れがあるとして軍事行動を避け、自前の軍隊を持たない日本は民間人だけで、ゴジラに立ち向かうことになる。(パンフレットより)

学者「野田健治」役の吉岡秀隆

松崎:いくら何でも非現実的だろうという批判はあるんですけど、これは山崎貴監督が『永遠の0』(2013年)でけっこう批判されたんです。百田尚樹さんの原作が特攻隊賛美なので。観た方にはわかると思うけど、僕は今回、そこに対する山崎さんのアンサーも入っているなと思っていて、「無駄死にではなく、やはり生き抜かなきゃいけないんだ」みたいなところがすごく入っているなという気がしました。

神戸:特攻隊の話も出てきました。「生き残った人たちがどう生きていくか」というのが一つのテーマになっていました。

敷島一家を助ける「太田澄子」役の安藤サクラ

特撮出身の山崎貴監督だからこそ

松崎:山崎さんは「ゴジラを撮るために監督をやってきた」ような人だと私は思っていて、「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年)では冒頭、夢のシーンでゴジラが出てくるんです。あの時の技術だと「これまでしかできないんだ」と、山崎さんはその後東宝からゴジラシリーズのオファーが来た時に断っているんです。その後庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(2016年)が出ちゃって、「これはやられた」「俺はどういうゴジラができるんだろう?」と思って、今回の『ゴジラ-1.0』になったと聞いています。山崎さんは特撮畑出身の方。第1作の本多猪四郎監督は「できることなら、特撮と本編の監督は一緒の人がやった方がいい」と言っているんですよ。ただ、技術的にも、時間的にも無理だったんですけど、今回だから、ゴジラシリーズでほぼ初めてかな。本多さんが1回やったことあるんですけど。特撮部門と本編の監督が同時というのは画期的なんですよね。

ゴジラが迫る山手線に乗っている「大石典子」役の浜辺美波

神戸:「ゴジラは、子供の見る映画」みたいな印象が僕にはありましたけど、大人の鑑賞に耐えうるものだなと、今回つくづく思いました。「これから観たい」と思っている人には、どんなところに注目してほしいですか?

松崎:前の『シン・ゴジラ』って、実は大人じゃないとわからないゴジラだったんですね。海外の人はわかんないゴジラです。日本の官僚機構のパロディだったりしたので。今回は、戦争後の人間がどう立ち上がるかという、人間ドラマの部分もある。今回のゴジラは、『ジョーズ』みたいな怖さがあるので小さい人が見るとちょっとパニックになるかもしれませんけども、「老若男女がみんな観てもわかる映画」になっていると思います。特撮が「アカデミー賞の候補になるんじゃないか」というくらいすばらしいので、その方も注目してほしいですね。

白黒の世界で、さらなる恐怖を体感せよ!

放送翌日の20日、東宝は『ゴジラ-1.0』をあえてモノクロ映像版としてた『ゴジラ-1.0/C』を公開すると発表した。上映は2024年1月12日から。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。報道部長、ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサーなどを経て現職。近著に、ラジオ『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』の制作過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る』(共著、石風社)がある。最新作は、80分長編ドキュメンタリー『リリアンの揺りかご』(12月31日放送)

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田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、神戸金史

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