高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador ⑤ 九州ブロック大会

サステナブル・ブランド ジャパンと日本旅行が9月末から全国9ヶ所で行った「第4回 SB Student Ambassador(SA)ブロック大会」は11月12日の九州大会で閉幕した。各地域でZ世代の起業家の言葉に耳を傾け、地元企業や自治体のSDGsにかける思いや取り組みを学んだ高校生たちは大会を通じて何を得たのか――。四国・北海道西日本・東日本東北・中国北陸・東海に続き、最後に行われた九州大会の様子を紹介する。

■基調講演    大塚桃奈・BIG EYE COMPANY Chief Environmental Officer

ゼロウェイストを達成することが目的ではない

「23.5という数字は、何を表しているかわかりますか?」

九州大会の基調講演は、徳島県上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYを運営するBIG EYE COMPANY(ビッグアイカンパニー)のChief Environmental Officer、大塚桃奈氏のそんな問いかけから始まった。

23.5とは、日本の国内最終処分場の残余年数であり、日本ではあと23.5年しかゴミを埋め立てることができないとされているという。日本人は1日に1人当たりおにぎり9個分(890g)のごみを出しているが、普段はそのごみがどこに行くかを考えることは少ない。「その一部は埋め立てに行くかもしれず、それらの埋め立て場は将来満杯になる可能性がある」と大塚氏は言う。

日本で初めてゼロウェイストを宣言し、ごみを出さない生活を目指す取り組みを行う上勝町には、ゼロ・ウェイストセンターWHYという、ごみについて考えて学べるホテル併設の施設がある。大塚氏はそこで企業や一般人向けに環境プログラムを提供したり、ホテルの運営に携わったりしている。

もともとファッションに関わる仕事をするという夢を持っていた大塚氏は、服を作る勉強をするため、トビタテ留学JAPANという文科省の奨学金プログラムでロンドンにファッション留学を行った。その留学を通じてゼロウェイストという考えに出会った。

留学先では服を作るスキルではなく、服とどう向き合うかという考え方を学び、どこで誰がどんな素材を作っているのか、服が作られる前の過程にも興味を持つようになったという。

上勝町ではかつては全てのごみを野焼きしていたが、現在は「燃えるごみ」のカテゴリーがなく、ごみを45種類に分けることでリサイクル率80%を実現している。その結果、住民1人が出すゴミの量は全国平均1日の1人当たりに対して半減したという。

一方、未だに2割は焼却・埋め立て処分になっている。その理由を大塚氏は、「例えば、みなさんが今履いている靴は、複合素材で作られています。こうした複数の素材が合わさってできるものは、どうしても分別することが難しいのです」と説明し、「だからこそ作る前から捨てないデザインを企業とともに考える必要があります」と訴える。

上勝町では企業と共同で商品を開発したり、センターで学んだ大学生が、大学のキャンパスの廃材置き場を再生市場としてリデザインするなど、町外にゼロウェイストの取り組みを展開している。「その結果、この小さい町で町内外の人の交流が育まれる場ができています」と大塚氏は笑顔を見せた。

最後に大塚氏は、「ゼロウェイストを達成することが目的ではなく、それを一つの手段として、人の交流や資源の循環が生まれることが、最終的なゴールとなるべきではないか」と自身の考えを述べ、基調講演を締め括った。

● 九州大会 =11月 12日、福岡大学で開催、10校102人参加=

九州大会では、イベント運営を手掛けるセレスポ、博多グリーンホテル、九州旅客鉄道、福岡観光コンベンションビューローの4者が講演。高校生はそれぞれ自分の関心があるテーマを一つ選んで受講した。各教室では、高校生がアイデアをまとめやすいよう、サステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティ、「nest(ネスト)」の大学生メンバーがメンター・司会進行として参加した。

■イベントはSDGsの課題解決の手段となり得る ―セレスポ―

性別を超え、多様な参加者が楽しめる文化祭を提案

セレスポでイベントサステナビリティ推進チームのリーダーを務める犬塚圭介氏は、「イベントは目的ではなく手段であり、イベントを開催することで得られる効果はたくさんある」と説明。効果には、注目を集めて情報を広める手段となること、運営者や参加者が社会参加の機会を提供すること、期限があるため物事を進めやすく、新たな挑戦を促すことなどが挙げられるという。

さらに、「人や地域社会に大きな影響を与えるイベントは、SDGsの課題解決の手段となり得る」と犬塚氏は強調し、一例として、パラリンピックの認知拡大を目的にイオンモール成田で実施した車椅子を使用した買い物ゲームイベントを紹介した。このゲームでは参加者がパラアスリートと交流し、車椅子での買い物の難しさを体験することで、社会課題を理解しイオンモールの売り場の改善にも貢献したという。犬塚氏は高校生に「何かを伝える際は、正確さだけでなく、楽しさも大切にすることを忘れないでください」と呼びかけた。

この後、高校生たちは「学園祭で今すぐにできることは?2030年の学園祭はどうなっている?」というテーマでワークショップを実施。この中で、「文化祭のごみの処理をどうするか。販売した際に余った食材をどうするか」について話し合ったチームは、SDGsの解決策を盛り込んだスタンプラリーを提案。要らない参考書の寄付や、フリーマーケット、コンポストのほか、目が見えない人の状況を理解したり、パラスポーツなどを体験できるブースを用意するというアイデアを披露した。

ユニークだったのは、レインボーフラッグを探してスタンプラリーを完結させるという仕掛けだ。レインボーフラッグはLGBTQ +の社会運動の象徴だが、日本ではこの概念がまだ十分に普及していない。学生たちはこの提案を通じて、性別の壁を超えた多様な参加者が楽しめる文化祭を目指した。

犬塚氏は、彼らのプレゼンテーションを、明確な目標設定と具体的なアイデアがよく、文化祭らしい企画だと評価した。

■ホテルが地域貢献に取り組むには ―博多グリーンホテル―

農業の後継者不足解消へ地元農家とのコラボ企画を

博多グリーンホテルは、「人類への奉仕が人生の最善の仕事である」という理念のもと、博多市内で3ホテルを運営している。宿泊管理部副支配人の中島裕司氏はホテルの役割について、「宿泊の提供」「快適性と安全の確保」「サービスの提供」「観光支援」「地域経済への貢献」「環境への配慮」の6つを挙げ、プラスチックを削減した歯ブラシなどを含むアメニティを配りながら、具体的に紹介した。地域貢献の取り組み事例としては、福岡の野球チーム、ソフトバンクホークスとのコラボレーションルームを設け、地元スポーツを盛り上げていることを報告。「外部との連携により地域発展に寄与できる。知らない人々とも手を組むことで、より良い未来を実現できる」と力を込めた。

これを受け、高校生たちは、「地域貢献の観点からホテルはどのようなことに取り組めば良いのか」というテーマでディスカッションを行い、代表チームは、農業の後継者不足に焦点を当て、ホテルができる2つの解決策を提示した。

1つ目は、地元農家とのコラボレーションだ。例えば、観光客に、田植えや稲刈りなどを農家で体験してもらったり、修学旅行のプログラムに農業を組み込むといった企画を考案。多くのホテルが観光スポットを紹介するだけに留まる中、ホテル自らがイベントやツアーを企画しPRするというアイデアが光る。

2つ目は、地元農家の食材をホテルで提供し、それをPRすることだ。これにより農家の需要が増え、農家に利益がもたらされ、地域経済の活性化が期待できる。

中島氏は、高校生たちの具体的に練られたプレゼンテーションを高く評価した。

■列車を通じて九州の魅力を世界に発信 ―九州旅客鉄道―

駅の清掃×スポーツ、動物の触れ合いの場……などアイデア多彩

九州旅客鉄道の上席執行役員で総務部長の山根久資氏は、地域を元気にするために、地元との連携を大切にした鉄道事業の重要性について話した。2013年から運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、九州の魅力を世界に発信し、客室や通路には大川組子を、洗面台には有田焼を使うなど、地域の思いが詰まっている。列車は、地元の職人や料理人の協力でさまざまな体験を提供していることからも観光客に人気で、応募倍率は4倍に達しているという。

具体的には、福岡の寿司や湯布院のフレンチ、阿蘇駅の食堂「火星」での食体験など、地域ごとの特色を生かしたプログラムを展開。さらに、雲仙の自然に触れたり、長崎の舞妓によるパフォーマンス、阿久根市でのウミガメ保護活動など、季節ごとの体験を用意しているのが特徴だ。

また九州旅客鉄道では2022年の西九州新幹線開通時に、各地域の住民をはじめ誰もが参加できる音楽集団「かもめ楽団」を結成。九州が一体となって、音楽で新幹線開通を盛り上げたことも紹介された。

高校生たちは、「地域が元気になるためにできること」をテーマにディスカッション。駅の清掃とスポーツイベントを組み合わせた「スポGOMI」や、郷土料理の食堂設置、災害時の相互支援体制、英語力の向上、ペットの殺処分を減らすための動物ふれあいの場、九州の歌を電車で流すなど、多彩なアイデアが出された。

山根氏は、これらの提案が九州旅客鉄道の目指す方向性と一致していると評価。JR九州は、地域を元気にするためには明るく前向きな人材の育成が重要だと考えていると言い、「このようなディスカッションが地域おこしにつながる」と高校生から元気をもらった様子だった。

■美食と観光の融合が地域の食文化を維持する ―福岡観光コンベンションビューロー―

「ごまさば」を福岡土産に 郷土料理を掘り起こす

福岡観光コンベンションビューローからは、ニューヨーク出身の国際交流員、カール・バーチェッチー氏が登壇した。現在、ニューヨークと福岡の架け橋として福岡の魅力を宣伝・紹介する仕事をしているバーチェッチー氏は、「ニューヨークは世界中から多くの人が集まり、おいしいものがたくさんありますが、本格的な体験、つまりニューヨークでしか体験できないものはあまりありません。一方で福岡に初めて越してきた時、レストランでの食事を超えた多様な日本食の体験があることに感動しました。料理教室、祭り、酒造や蒸留所の見学、市場ツアーなど、日本でしか体験できないことがたくさんありました」と自身の経験を話す。

そうした経験を踏まえ、バーチェッチー氏は「美食と観光の融合が地域の食文化を維持する上で重要だ」と強調する。それが“ガストロノミーツーリズム”と言われるもので、日本の屋台文化はその好例であると説明した。今年、ニューヨークタイムズでも福岡の屋台が紹介され、また、福岡は世界的な旅行ガイドブック「ロンリープラネット」のベスト・イン・トラベル2023に「食」のカテゴリーで日本から唯一選出されるなど、その豊かな食文化が評価されている。

食文化の再発見と地域文化の継承という点で、「九州は大きなポテンシャルを持っている」とバーチェッチー氏は言う。例えば、大分県臼杵市には「黄飯」や「きらすまめし」など、地域の持続可能性を象徴する郷土料理があり、福岡県八女市の茶畑では伝統的な本玉露の栽培が行われている。このお茶は普通のお茶とは一線を画し、わらだけを使った栽培方法で生産されているという。

バーチェッチー氏は「2つの事例に共通するのは、地元に対する誇りがあること。自分たちの『あたりまえ』を大切にし、それをどう活かすかを考えることが、ガストロノミーツーリズムの鍵となる。福岡や九州のように、地域特有の文化や伝統を次世代に継承し、世界に発信することで、新たな価値を創造できる」と高校生に思いを伝えた。

これを受け、高校生たちは「どうしたら地域独自の食文化を世界にPRして観光客を誘致し、地元の経済循環を促し、持続可能な地域にすることができるか」について議論。代表チームは「知名度のない食べ物を広めよう」というタイトルで、福岡の有名な食べ物ではなく、あえて知名度の低い「ごまさば」に着目し、福岡のお土産として冷凍食品として販売し、シメという日本独特の文化を海外に広めるために、“ごまさば茶漬け”の商品化を提案した。

この発表を、バーチェッチー氏は「有名な郷土料理ではなく、注目されていない食文化を掘り起こしたこと、具体的なアイデアや、PR方法、販売方法も出してもらえたことで、実現可能なイメージができたことがよかった」と評価した。

1日かけて行われた大会の最後には、基調講演を行なった大塚氏が再び登壇。高校生たちに「何事も自分事として取り組み、自らの言葉で伝えることが重要です。"自分には無理"というリミットを設けず、自分らしく挑戦してほしい。自分の関心事から小さな一歩を踏み出してください」とエールを送った。

こうして9月末から11月にかけて全国9地域で行われた第4回SA大会は幕を閉じた。来年2月21・22日に開かれる「SB国際会議2024東京・丸の内」では、ブロック大会での学びをもとに作成した論文の選考に残った全国の高校生たちがそれぞれの社会課題解決策を発表する。各校からどんなテーマの、どんなアイデアが飛び出すかを楽しみにその日を迎えたい。

本年度行われた「サステナブル・ブランド国際会議 学生招待プログラム 第4回 SB Student Ambassador ブロック大会」の詳細は こちら

高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador
①四国・北海道ブロック大会
https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1218301_2557.html
②西日本・東日本ブロック大会https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1218800_2557.html
③東北・中国ブロック大会
https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1219050_2557.html
④北陸・東海ブロック大会
https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1219051_2557.html

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