社説:沖縄代執行判決 地方自治の根幹を揺るがす

 国が自治体の権限を奪う「代執行」に裁判所がいとも簡単にお墨付きを与えた。これを盾に強行しても、沖縄の民意との溝を深めるばかりだと政府は自覚すべきであろう。

 沖縄県名護市辺野古への米軍基地移設を巡り、福岡高裁那覇支部が玉城デニー知事に対し、国が県に提出した設計変更申請を認めるよう命じた。

 知事は期限とされたきのうまでに承認せず、国は年内にも代執行で承認、埋め立て工事に着手するという。1999年に改正された地方自治法に基づく代執行は初めてとなる。

 今回の裁判では、設計変更を沖縄県が承認しないのは公益を害するかどうか、が争われた。

 設計変更申請は、埋め立てる海底に「マヨネーズ並み」の軟弱地盤があり、大量の杭(くい)を打ち込む必要が出てきたため提出された。

 県は自然環境や災害防止の観点から承認を拒んだが、国は承認するよう求める「是正指示」を出した。県はこの指示を違法と提訴したが、最高裁で敗訴が確定。その上で国が承認を指示したが、玉城知事は応じなかったため、国が提訴していた。

 沖縄県は沖縄戦や戦後の基地被害の経験、重い防衛負担を踏まえ、国政選挙や知事選、県民投票で繰り返し示された新基地反対の民意に沿うことこそが公益だ、と訴えた。だが、裁判所は「確定判決の事務の放置は公益を侵害する」という国の主張を全面的に認めた。

 代執行は地方自治法の改正に伴い導入されたが、法改正の本義は自治を保障する憲法規定の具体化で、代執行には厳しい要件が定められている。

 ところが裁判所は第1回口頭弁論で即日結審するなど、公益について議論を尽くそうとはしなかった。

 代執行は最終的な手段であり抑制的であるべきだ。結論ありきの判決だったと言わざるを得ない。

 一方で判決は歴史的な県民の心情を「十分理解できる」とし、「対話による解決を望む」と「付言」した。さらに、今後また設計変更が必要になれば再び法廷闘争になる懸念も示唆した。それなら、沖縄県が提起した問題を司法の場で十分に検討すべきではなかったか。

 安全保障環境が変化し、四半世紀前の移設計画については、米軍関係者からも妥当性に疑問が出始めている。

 問題は、政府が「沖縄の心に寄り添う」と言うばかりで、県民に向き合う努力が見えないことにほかならない。地域住民の理解を欠いた安全保障は危うい。

 こうした政府の追認とも言える判決が続くことで、沖縄県民の複雑な思いを軽んじる空気が政府や本土の世論に浸透しかねないことも懸念する。防衛の論理に自治や民意が置き去りにされてはならない。

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