【タイ】トヨタが環境車両を多様化[車両] FCVなど、EVは需要見極めへ

豊田章男会長(右)のチームは「炭素中立を実現しながらクルマ好きがワクワクする音でサーキットを走る未来」を描く=23日、タイ東北部ブリラム(NNA撮影、以下同)

トヨタ自動車がカーボンニュートラル(炭素中立)実現に向けて、環境配慮型車両で多様な選択肢の提供を模索している。モータースポーツに水素エンジン車やハイブリッド車(HV)を投入しているほか、タイでは水素を使った燃料電池車(FCV)やピックアップトラック「ハイラックス」の電気自動車(EV)版、ハイラックス中古車のEV改造といった実証が進む。タイで今年一気に販売が伸びた乗用車EVは、需要の本質を見極めつつ早急に遅れを取り戻していく方針だ。

トヨタは22~23日にタイ東北部ブリラムで行われた10時間耐久レースにカーボンニュートラル燃料を使用した「GR86」、水素エンジン車「カローラ」、HV「プリウス」の3台のコンセプトカーで参戦した。豊田章男会長もドライバーとして参戦し、23日の決勝では水素エンジンカローラを運転した。

トヨタは2021年に日本のレースで初めて水素エンジン車を投入。タイでは昨年に初めて水素エンジンカローラで参戦し、今年は2回目となった。市販の車両をベースに開発したHVプリウスは、今回が世界で初めてのレース投入となった。

豊田会長は22日に開いた会見で「モータースポーツをしている人は、カーボンニュートラルに対して気が引けるところがあったと思う。モータースポーツのエキサイティングなクルマでもカーボンニュートラルの選択肢がたくさんあるんだということを、(このレースで)感じてほしい」と呼びかけた。

今回初めてサーキットを走ったHV「プリウス」(後方)=23日

■鶏ふんから水素

今年のレースでは水素の地産地消を実現した。タイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループの養鶏場の鶏ふんで生成したバイオガスを原料として、トヨタのタイ法人トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング(TDEM)の水素製造機で気体水素を生成。TDEMの廃棄食料を原料とした分と合わせて30キログラム近くを、水素エンジンカローラの燃料とした。

トヨタのガズー(GAZOO)レーシング・カンパニーの高橋智也代表によると、使用総量の約10%をCPとTDEMの水素が担った。残りは、米産業用ガス大手エアープロダクツ・アンド・ケミカルズのタイ子会社バンコク・インダストリアル・ガス(BIG)が供給。BIGの水素専用トレーラーでブリラムのレース場まで運んだ。

水素エンジン「カローラ」の充塡の様子。10周に1回程度、3分間の水素充塡をはさみながら10時間レースを完走した=23日

■水素トラック活用も

CPグループとの提携では、小型FC(燃料電池)トラックを使った実証実験も実施済みだ。レース同様CP養鶏場の鶏ふん由来の水素を活用。CP傘下の卸売りチェーン「マクロ」の物流車両として試験導入し、問題なく運用できることを確認した。

小型FCトラックは10キロの水素タンクを搭載。トヨタの担当者によると、1キロ当たり約26キロメートルの走行が可能だといい、1回の充塡(じゅうてん)で約260キロ走行できる計算となる。

養鶏が盛んなタイでは、国内の養鶏場の鶏ふんを活用することで小型トラック10万台分(1台当たり年間4万キロ走行で試算)の水素を生成することが可能だという。食品廃棄物を活用すればさらに6万台分が追加され、少なくとも計16万台分の水素供給が可能になる。

広く普及させるにはエコシステムの構築が必要だが、欧米などで水素の利用が拡大しつつあることから、タイでも将来的な実用化に期待がかかる。

■ハイラックスEV13台で実証

「ハイラックス」のEV(右)とFCV。EVは南部パタヤで乗り合いバンとして、来年2月から実証実験が始まる=22日

トヨタは耐久レースに国内外のメディア関係者らを招待し、レース会場「チャーン・インターナショナル・サーキット」で炭素中立の実現に向けた車両や技術、ソリューションを展示・PRした。

ハイラックスはHV版とEV版、欧州で開発したFCV版の各試作車が登場。一部メディア関係者らが試乗した。

タイ国トヨタ自動車(TMT)の山下典昭社長は23日に開いた会見で、来年2月に南部パタヤで始める実証実験にEV版を13台ほど投入する計画だと明らかにした。13台のハイラックスEVはタイで「ソンテウ」と呼ばれ親しまれる乗り合いバンとして、パタヤの街を走行する。

技術開発の責任者である小西良樹TDEM社長は同会見で、実証実験での課題は「バッテリーチャージのタイミングだ」とコメント。航続距離などとともにポイントを見極めながら、効率の良い運行を模索すると説明した。

豊田通商はハイラックスの中古車をEVに改造する試験事業を推進。試作車は、ラストマイル輸送で活用する=22日

場内ではこのほか、豊田通商が進めるトヨタのピックアップトラック「ハイラックス・ヴィーゴ」の中古車をEVに改造したモデル車、FCフォークリフトなどが展示された。

豊田通商の担当者によると、ヴィーゴのEV改造車は車体下部に41.5キロワット時のバッテリーを配置。1回の充電で約200キロ走行できるという。同担当者によるとタイのピックアップトラックの保有台数は約700万台。うち400万台が車齢10年を超えているため、中古車をEVに改造することで大幅な排ガス削減が見込めるとアピールした。

フォークリフトは水素を使う燃料電池仕様のほか、鉛電池とリチウムイオン電池の仕様もある。タイでの販売を担う豊田通商によると、水素仕様は今年タイで1台目を納入。1.2キロの水素を充塡し、8時間の稼働が可能だという。

■EV早急に「キャッチアップ」

今年のタイ自動車市場は急速に電動化が進んだ。特に目立ったのは、中国系ブランドの台頭によるEV市場の拡大だ。トヨタによると今年はHVが市場の17%、EVが15%をそれぞれ占め、電動車が3割強を占めるほどとなった。

トヨタはタイでスポーツタイプ多目的車(SUV)「ヤリスクロス」、セダン「カローラ・アルティス」など6車種のHVをラインアップ。一方で、EVは日本から輸入する中型SUV「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」を少量販売するにとどまっている。タイのEV市場は中国系がほぼ独占し、日系は出遅れている格好だ。

これに対しトヨタの前田昌彦アジア本部長は23日の会見で「これ(EV)は、完全にキャッチアップしていかなければならない」とコメント。過去にアジアで「トヨタは小型SUVがない」と言われ、猛烈にキャッチアップしなければならなくなったのと同じような状況だと形容した。

一方で前田氏は、ニーズは着実に見え始めているものの、「プラクティカルなところを冷静に見る必要がある」と指摘。現在EVを購入しているのは主に、自動車を複数台保有する富裕層で「アーリーアダプター」だと認識しているとした上で、来年から補助金が減ること、EVは保険料が25%ほど割高であることなどを考慮すると、EVニーズの本質をもう少し慎重に見極めていく必要があるとの見方を示した。

家計の悪化などを背景に今年大幅に縮小したピックアップトラック市場は、来年の回復を期待する。11月に発表した新型「ハイラックスチャンプ」は45万9,000バーツ(約189万円)からと価格を抑え、月1,500台の販売を目標に掲げる。TMTの山下社長によると受注状況は「予想通り」。来年1月から納車を開始する。

トヨタのタイでの今年1~11月の新車販売台数は前年同期比6.5%減の24万1,844台。市場シェアは34.2%で、22年通年の34.0%から0.2ポイント拡大している。

トヨタ自動車の前田アジア本部長(中央)、TDEMの小西社長(左)、TMTの山下社長が会見した=23日

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