世界の映画祭で「157部門ノミネート・27部門受賞」の〈A24〉超話題作『ファースト・カウ』全国公開中!現代映画界の最重要監督インタビュー到着

『ファースト・カウ』©︎ 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

あのポン・ジュノが羨望し、ジム・ジャームッシュやトッド・ヘインズ、濱口竜介らも絶賛した映画『ファースト・カウ』が、2023年12月22日(金)より全国公開中。ベルリン国際映画祭・金熊賞ノミネートをはじめ、各国の映画祭で157部門ノミネート/27部門受賞を果たした話題作だ。

このたび本作の監督であり、現代アメリカにおける最重要作家の一人と称されるケリー・ライカートが撮影秘話を語る、貴重なインタビューが到着した。

“新しい西部劇”に挑んだケリー・ライカート監督

いま世界で最も高い評価を受ける監督のひとりであるケリー・ライカート監督による、A24配給の最新作『ファースト・カウ』。

物語の舞台は、西部開拓時代のオレゴン州。アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと中国人移民のキング・ルーは、ドーナツ作りを通して少しずつ友情を育んでいく――。

1994年のデビュー後から、“漂流するアメリカ”の姿を一貫したスタイルで鋭く描き続けるケリー・ライカート監督。そんな彼女の物語は、批評家のみならず世界の映画ファンの心をも強く掴み、確かな人気を獲得してきた。

日本でも、2021年にケリー・ライカート監督の特集上映が行われ、その作品性の高さから瞬く間に口コミが広がり、異例の満席回が続出。デビューから長らく、紹介される機会が限られてきた知られざる名匠の登場は、日本の映画ファンを大いに驚かせ、彼女の名前を広く知らしめる衝撃的な出来事となった。

このたび、そんなケリー・ライカート監督へのインタビューが到着。これまで見たことのない“新しい西部劇”と言われる本作で描かれる文化や美術、衣装について、さらに物語の舞台となるオレゴン地域についてなど、撮影の裏側を語ってくれた。

「1820年代のPNWに生きた人々をきちんと表現したい」

―物語の端々に、ネイティブ・アメリカンのキャラクターが一貫して登場します。その文化やコミュニティをどのように作品に組み込んだのか、お話いただけますか?

これはとても大きな質問ですね。私たちが描いていたのは移民の物語で、見知らぬ土地に来たコックと船乗りの話でした。とはいえ、1820年代のパシフィック・ノースウエストを舞台にした映画を作るのだから、その時代と場所に生きた人々をきちんと表現したいと思いました。また、彼らは映画ではあまり表現されていないので、責任もより強く感じました。

チャチャル博物館(海岸近くにある、1年ほど前にオープンしたばかりの本当に素晴らしい博物館)やグラン・ロンドの言語プログラムで、彼らの家族や歴史について教えてくれる、信じられないほど寛大な方々に出会えたのは本当に幸運でした。翻訳を手伝ってくれたり、アーカイブにあるとても役に立つ本や映画を紹介してくれたりしたのです。

ある晩、ジェームズ・リー・ジョーンズとオリオンと一緒に、キング・ルーが川を下るために男と交渉するシーンのセリフを録音していたときのことです。彼らはチヌーク・ワワと呼ばれる専門用語で話しています。私たちは駐車場に停めたバンの中で通訳と一緒に正しい発音を習得しようとしていたのですが、ブームオペレーター、録音技師、脚本監督など、クルーのどれだけの人たちがその言葉や音を聞き取り、何を意味するのか、どのように聞こえるのかという会話に加わっていました。専門用語を話す俳優たちは皆、それに対して自分なりのアプローチを工夫していました。私たちはすべてにおいて、おおよその所にいると願っています。

―ライカート監督の過去作『ミークス・カットオフ』(2010年:ミシェル・ウィリアムズ主演)では、西部劇のある種の図式があります。そのまま利用することもできるし、逆に利用することもできます。『ファースト・カウ』の時代やセッティングは、観客にとっておなじみの西部劇らしいものとは少し違うと思います。また、脚本には「歴史はまだ、ここには到達していない」というセリフがあります。美術や衣装デザインには、どのようなビジュアル資料を参考にしましたか?

『ミークス・カットオフ』は1845年のことで、私たちには写真画像がありました。『ミークス・カットオフ』の場合、カメラを構えるたびに、既存の図式に倣うか対抗するかを決めるようなものでした。それが西部劇というジャンルの性質で、視覚的言語の強さです。

『ファースト・カウ』の場合、1820年の話なので写真は存在せず、初期の探検家たちによる少数の銅版画があるだけでした。リサーチは、当時についての書物や、物語として伝えられているものを解釈することに重点を置きました。衣装デザイナーのエイプリル・ネイピアは、人々が家を出るときに背負っていたものや、旅路で手に入れたであろうものを調べました。私たちは、人々がどのように到着し、どのような仕事をしていたのか、要塞で働いていたのか、ただの通りがかりなのかを分類しました。

私たちは最終的に、ロンドンのフィル・クラークという研究者と仕事をすることになりました。なぜなら、この地域についてメモやスケッチを描き、記録を残していたのは、イギリスから来た人々だったからです。エイプリルのリサーチが、ナン・マクドナルドやオレゴン州パワーズのある女性グループにつながり、彼女たちは劇中に出てくる杉で出来たケープや帽子を作ってくれました。

トニー・ギャスパロと美術部も自分たちで調査しました。ジョナサン・レイモンドは、グランド・ロンド部族連合の博物館であるチャチャル博物館を訪れるなど、皆さまざまな方法で情報を集めていました。

「アメリカの起源を、植民地支配の物語に変えてしまうようなもの」

―この作品で描かれる社会は、まだ形成途中という感じがあります。つまり、まだ標準化も画一化もされていない社会です。登場人物は皆、どこか別の場所から来ていて、彼らには驚くほど大きな違いがあります。まさにアメリカの原風景ですね。

本作の舞台となった地域は、コロンビア川下流域と呼ばれ、海から現在のポートランドにあるウィラメット川がコロンビア川に合流する辺りまでを指します。少なくとも1万2千年前から人が住んでいます。この地域の探索は、本当に興味深かったです。多くの人々が世界で盛んになっていたビーバーの毛皮交易のために、この地域にやってきました。まだ国家は存在しないけれど、企業は存在し、天然資源の採掘を始めていたのです。

この地域は、ある基準からすると、かなり国際的だったと言えます。ロシア、アメリカ、イギリス、スペイン、ハワイ、そして中国からの人々が川沿いに住み、何千年もの間、川を交易路として利用してきた多くの部族に混じってそこにいたのです。これはある意味、アメリカの原風景であると同時に、西への拡大という私たちの通常の理解とはまったく逆のものでもあります。アメリカの起源を、世界中のあらゆる地域、あらゆる方向から、侵入してきた人々や企業による植民地支配の物語に変えてしまうようなものなのです。

『ファースト・カウ』はヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開中

A24作品『X エックス』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1~2月放送

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