昭和ブーム

 生まれたばかりの赤ちゃんが初めて笑うと、新しく妖精が1人生まれ、宙を舞う。「若い妖精ならいつだってたくさんいるわ」。ウェンディはこう語る▲ジェームス・M・バリー作「ピーター・パンとウェンディ」の一場面だが、多くの子どもが笑えば、あたりで多くの妖精が生き生きと舞う-そんなさまが思い浮かぶ。どこかしら、人口がぐんぐん増えた昔日の活気や熱気を思わせる▲ここ数年「昭和ブーム」が続き、今年はとりわけ「空前の」という枕ことば付きで語られることが多かった。昭和30年代頃の雰囲気が漂う商店街、使い切りカメラ、レコード、カセット、メロンソーダ。若い世代の目には新鮮に映るらしい▲懐かしむ方も多いだろう。白黒テレビに色の付いたフィルターをかぶせ「なんとなくカラー」にして見た。乾布摩擦が励行された。電話は「ジーコ」とダイヤルを回した…▲この1年、テレビ番組でこうした昭和の風習が取り上げられ、若いタレントが目を丸くするのをよく目にした。昭和文化という“妖精”がまぶしく映るとしたら、この懐古ブームも分かる気がする▲赤ちゃんの声、妖精の羽ばたきは遠ざかり、今にして子育て支援をはじめとする人口減少の策があれこれ講じられている。政治や行政に限れば、過ぎし昔を懐かしむ暇(いとま)はない。(徹)

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