ステマ規制、訪問購入、18歳契約トラブル… 2023年に注目された「消費者問題」に見る“だまされる側”の傾向と対策【弁護士が解説】

10月1日からスタートしたステマ広告規制では広告と記事の違いを意識することが大事(ururu / PIXTA)

国民生活センターが毎年年末に発表する「消費者問題に関する10大項目」。その年の消費者問題から社会的注目を集めたものや消費生活相談の特徴的なものなどをピックアップした、いわば年間の“消費者トラブル要注意ランキング”だ。

消費者トラブルや企業関連事案に詳しい辻本奈保弁護士に、同ランキングから気になった事案の補足と併せ、改めて対策を助言してもらった。

消費者問題に関する10大項目

  • 新型コロナウイルス感染症が5類感染症に(旅行予約やチケット転売のトラブルが増加)
  • 18歳・19歳の契約トラブル(「美」と「金」がキーワードに)
  • 改正消費者契約法(改正特定商取引法が施行)
  • ステルスマーケティング(規制始まる)
  • ビッグモーター社の不正問題(中古車販売業界や損害保険業界のコンプライアンスに課題)
  • 旧統一教会をめぐる問題(国が解散命令を請求)
  • 訪問購入のトラブルが増加(8割近くが高齢者)
  • 自転車のヘルメット着用(年齢を問わずすべての人の努力義務に)
  • 子どもの誤飲事故防止のための玩具の新たな規制
  • 消費生活相談デジタル化・体制の再構築

広告と記事が混在していることを再認識する機会に

辻本弁護士が最初に取り上げたのは「ステマ規制始まる」だ。

「この規制は事業者が取り組むことなので、一般ユーザーがなにか変化を感じることはないのかもしれません。ただ、これまで、広告とそうでない記事の違いを意識していなかったユーザーもいると思うので、そういう違いがあることを知るきっかけになれば」(辻本弁護士)。

メーカー側の意図が強く反映された「広告」を、純粋に一押し商品の紹介記事だと信じて購入…。このことは、知らないうちにより良い商品の購入機会を奪われることにつながっている。ステマ規制では、広告である場合、「PR」などの分かりやすい表記を目立つ場所に記載することが義務付けられたので、商品やサービスの紹介記事を読む際には、そうした表記の有無の確認を習慣化するといいだろう。

次にピックアップしたのはビッグモーター不正問題。

「企業案件にも多く携わっているので気になります。そもそも、企業に問題が生じると『コンプライアンスに違反』という文脈で非難されることが多いと思います。そこに問題の一端が潜んでいます。コンプライアンスという言葉は抽象的で、”自分事”と捉えにくい側面があります。

だから、研修を受けてとりえあえず法令を遵守すればいいんでしょ、という風になりがちなんです。もちろんそれだけというわけではないですし、さらにいえば道徳的な側面までもかかわってくるような深い話なんです。『コンプライアンス』という言葉の具体的な内容の周知自体が非常に難しい」(同)。

第二、第三のBMがいつでもおかしくない…(SASA / PIXTA)

ビッグモーターにそもそもコンプライアンスの意識があったのかさえ疑わしいが、辻本弁護士が指摘するように、従業員が法令遵守をひとごとのように捉え、目の前の利益を最優先に考えていたとするなら、抜本的な改革しか再生の道はなさそうだ。この10大項目公表後には、ダイハツでも車両認証試験の慢性的な不正が発覚し、国内全工場の生産停止という事態になった。第二、第三のビッグモーターがいつ出てきても、なんら不思議はない…。

3番目にピックアップしたのは、「改正消費者契約法、改正特商法施行」のトピック。

「今回の改正で消費者契約法では、『契約取消事由』が拡充されています。そのひとつに『勧誘すると告げずに退去困難な場所へ同行して勧誘』というのがあります。実際に類似の事案があったから追加されているわけですが、だます側の嗅覚には恐ろしさを感じます。こうやって改正があるごとに追加はされますが、イタチごっこであることは否めません」(辻本弁護士)。

契約トラブルは少しでも怪しいと感じたら相談を

特商法についても、次のように補足する。

「オンライン化が進んだことに合わせ、契約書面等について、メール送付等の電子交付も認められるように。その条件として『消費者の承諾を得た場合』とあるのですが、特に高齢者などはよく理解せずOKとするでしょう。そうなると、紙に比べ、むしろ、書面の確認がおろそかになる可能性もあります。だから、国センも『利便性が向上する一方、契約にともなうトラブルが増加しないかなど、その動向を注視していく必要がある』としているんでしょう」(辻本弁護士)。

続いて取り上げたのは「訪問購入のトラブルが増加 8割近くが高齢者」のトピック。

「コロナ禍で家にいる人が増えたことが一因でしょうが、販売でなく購入ということで少しわきが甘くなるのかもしれません。在宅時間が増え、不用品を整理するニーズが増したことも背景のようですが、訪問購入でも、一部を除きクーリングオフが適用されます。ただ、そのことを知らないと意味がありません。怪しいと思ったらすぐに家族に相談した方がいいですね」(辻本弁護士)。訪問販売が難しいとなれば、訪問で買い取る。だます側のバイタリティーは恐ろしい限りだ。

最後に取り上げたのは、「18歳・19歳の契約トラブル 「美」と「金」がキーワードに」。

「若者は美意識が高く、知識が浅い。だます側にとっては格好の獲物といえます。成人年齢引き下げもにらんでいて、だます側の狡猾さを強く感じますね」と辻本弁護士。その上で、「うまい話はないと心得て、怪しいと思ったらきっぱり断る。法律で守られている場合もあるので、すぐに誰かに相談してください」と助言した。

今回取り上げなかった事案についても辻本弁護士は、「今年になって急にという事案はほとんどありません。以前から注意喚起はされていたものが、なにかのきっかけで社会問題として大きく取り上げられ、そうした世論に押されるように改正などのアクションも生まれてくる。その意味では、常日頃から、おかしいと感じたことは誰かに相談するなど、対策に動いた方がいいですね」と総括した。

だます側はあの手この手で、消費者からお金をかすめ取ろうと悪知恵を全開にして財布を狙っている。一方のだまされる側は、「自分だけはだまされない」と他人の詐欺被害記事などを俯瞰(ふかん)している。両者の熱量を比較すれば、だます側に分がある感は否めない…。その意味では、消費者側もせめて、「いつ自分がだまされても不思議はない」と警戒を強めることが、少しでも被害を減らすための最低限の心得といえるのかもしれない。

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