「ハムカ&シティ・ラハム Vol.2」 イスラム指導者ブヤ・ハムカの大河ドラマ第2部、夫婦愛が心にしみる 【インドネシア映画倶楽部】第64回

Hamka & Siti Raham Vol.2

佳境に入った、ブヤ・ハムカ大河ドラマの第2部です。苦難の時代を支えた妻シティ・ラハムの献身的な愛情が描かれ、淡々としていますが、夫婦愛を通した信頼関係の暖かさがしんみりと心に染み入る物語です。

文と写真・横山裕一

小説家でありイスラム指導者だった、通称ブヤ・ハムカ(「ブヤ」は父、あるいは尊敬する人を表す敬称)で知られる、アブドゥル・マリック・カリム・アムルラー(1908〜1981)の伝記映画の第2部。

今年5月に公開された第1部では、オランダ植民地政府や日本軍政に阻まれながらもイスラム教徒の団結や国家独立を訴える執筆活動を続けた青年期など、インドネシア独立宣言までが描かれた。今回の第2部では、オランダ独立戦争でのゲリラ活動の様子や、独立後に首都ジャカルタに移ってからのブヤ・ハムカの活動が描かれる。

1949年ハムカは宗教省の国家公務員となり、イスラム指導者教育を行った。1950年代にはハムカはマシュミ党で政治活動も始めるが、スカルノ大統領が進める「指導される民主主義」政策に反発することもあった。1964年、マシュミ党が強制的に解散に追い込まれたのに伴い、反政府姿勢だとしてハムカは逮捕、2年間投獄される。第2部では投獄されたハムカの苦難の時代が中心に展開する。

作品ではもう一つの大きな主軸として、ハムカの苦難の時期を支えた妻、シティ・ラハムの献身的な愛情が描かれている。ハムカの妻の内助の功は第1部から引き続きではあるが、第2部では特にハムカ夫婦の愛情、信頼関係がクローズアップされている。妻シティは常に穏やかな表情でハムカに励ましの言葉を送り続け、夫の逮捕後は郷土料理であるパダン料理を手に子供を連れて面会に通い続けた。それだけでなく、獄中での厳しい尋問に耐えきれず弱気になったハムカに自殺を思い止まらせたのも、かつて妻がハムカに投げかけた言葉を思い出したからだった。ハムカにとって妻の存在がいかに大きかったかが窺える。

1975年、ハムカはイスラム指導者評議会(MUI)の初代総裁に選ばれ、作品では就任演説が紹介される。

炎というものは下の部分が大衆だとすれば、燃え盛る先端は人々の希望である。炎の下を絶ってしまえば、希望は消えてしまう

ブヤ・ハムカ

イスラム教の教えを忠実に守りながら、常に大衆の幸せを考え続けてきたハムカらしい言葉である。妻に支え続けられたハムカの信念ともいえそうだ。

作品終盤、妻との死別の際、ハムカは妻にコーランを詠みあげる。ハムカ自身が書いた小説「ファン・デル・ウィック号の沈没」内で、主人公が想いを寄せる女性の死に際にコーランを口ずさむのと重なり、非常に興味深いシーンでもある。マニアックではあるが、イスラム教に忠実に生きたハムカを象徴しているともいえそうだ。

「ブヤ・ハムカ」3部作の第3部では、ハムカの少年期に戻り、第1部で未消化だった父親とのイスラム教解釈をめぐる確執の経緯などが明らかにされるようだ。第2部である本作品は単体でも理解できる内容だが、興味のある方はネットフリックスのインドネシア版で第1部「ブヤ・ハムカ」(Buya Hamka Vol.1)が配信されているので、ご覧いただいてから劇場に行くのもいいかもしれない。

余談だがネットフリックスでは、前述したハムカの小説「ファン・デル・ウィック号の沈没」が映画化された作品(Tengglamnya Kapal Van Der Wijck /2013年作品)も配信されている。西スマトラ州ミナンカバウ民族の伝統風習と現代の愛の齟齬、過去にこだわったばかりに引き起こされる悲劇と、インドネシア版「タイタニック」というには語弊があるが非常に見応えのある作品でおすすめだ。

佳境に入ったハムカの大河ドラマの第2部は淡々とはしているが、夫婦愛を通した信頼関係の暖かさがしんみりと心に染み入る物語で、劇場で是非とも味わっていただきたい。MRTで地下から地上高架に出てすぐ左側に見える白く美しいモスク、アル・アザール大寺院はハムカが建てたもので、今回再三登場するのも見どころかもしれない。

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