[社説]きょう代執行 県は上告 普天間の長期固定化だ

 一体この埋め立ての目的は何なのか。事業遂行に国はかつてない強権を持ち出したが、混乱は深まるばかりである。

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が玉城デニー知事に代わって沖縄防衛局の設計変更申請を承認する「代執行」の通知文書が27日午前、県庁に届けられた。

 きょう正午までに国土交通省が承認書を作成し、沖縄防衛局に交付することにより承認する。これにより国は来年1月にも大浦湾側の埋め立てに着手する。

 一方、県は27日、代執行を認めた高裁判決を不服として最高裁に上告した。

 しかし、その間も工事は続く。これまでの経緯を見れば、門前払いの可能性もある。

 地方自治法による代執行は全国どこにも例がない。国は「普天間飛行場の一日も早い危険性の除去」を理由に、自治を侵害する強行手段に出た。

 だが新基地建設は完成まで12年以上かかる。移設が前提となればその間、普天間の危険性が固定化されることは明らかだ。

 新基地建設を巡り、国の強硬姿勢が目立つようになったのは2013年からだ。当時の安倍晋三首相がオバマ米大統領との面談で、「辺野古への移設という約束を必ず守る」と話したという。

 以降、政府は度重なる訴訟の提起や沖縄振興費の締め付けなどで、移設に反対する県に強硬姿勢を取り続けてきた。

 民意などお構いなしに対米公約を優先してきた結果が代執行だ。

■    ■

 辺野古への移設方針が示されてからすでに20年以上が経過した。新基地建設にはこの間さまざまな問題が浮上している。

 一つは環境問題だ。辺野古の海域はジュゴンなどの絶滅危惧種262種の生物が生息する。広範囲な埋め立てで周辺海域への影響は避けられない。宝の海が失われる危険性がある。

 二つ目は莫大な費用。事業費は当初3500億円とされていたが、その後、2.7倍に当たる9300億円に膨らむことが示された。県はこのままいけばさらに費用がかさみ総工費は2兆円超になると試算している。

 そもそも普天間飛行場の機能を辺野古へ移転する計画であり、沖縄の基地負担の軽減にはつながらない。

 ミサイル技術の向上により、近年は軍事的な合理性も失われつつある。

 基地の集中は攻撃の標的となり、安全保障上の効果にも疑念が湧く。

■    ■

 今回の代執行でかなう「公益」とは一体誰のためのものなのか。

 国内で経験のない軟弱地盤の上に造られる新基地は、今後も複数回の設計変更が見込まれている。建設を巡る混乱は、今後も続く可能性がある。

 移設を前提とした新基地建設が、沖縄の公益を害するのは明らかだ。

 国は代執行をやめ、普天間の危険性除去に向けた代替策を協議すべきだ。

© 株式会社沖縄タイムス社