止まらない杉田議員のアイヌ民族への“人権侵犯”「もはや自民党の責任」と専門家指摘

安倍晋三元首相に抜擢された杉田氏

〈アイヌ民族衣装の着用を蔑んだり、揶揄する投稿に大きな怒りを覚えると同時に、同胞の失望と悲しみを思うとき胸が張り裂ける思いです。こうした発言は、アイヌの尊厳を著しく傷つけられるものであり、強く批判の意を表します〉

北海道アイヌ協会の大川勝理事は12月20日、協会のホームページで繰り返しアイヌ民族への差別的発言を行ってきた自民党の杉田水脈衆議院議員(56)に対して、上記のような怒りと悲しみを表明した。

杉田氏は落選中の2016年、自身が参加した国連の女性差別撤廃委員会について記したブログ記事で、〈チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場〉〈存在だけで日本国の恥さらし〉などと、在日コリアンやアイヌ民族を侮辱するような記述を行っていた。この件をめぐっては今年9月、札幌法務局が“人権侵犯”と認定したことは記憶に新しい。

しかし杉田議員は、反省するどころか自身のX(旧ツイッター)で、〈人権侵犯の対象となったブログはアイヌ民族について書いたものでない。女子差別撤廃委員会に参加していた左派の活動家について書いたもの〉とまで言及。

その後も、政府のアイヌ文化関連事業の関係者に対し、〈公金チューチュー〉と侮辱的な発言をしたり、〈(アイヌの)踊りを海外で踊るだけでお金が出る〉などと揶揄するネット言論人のYouTube番組を、自身のXで投稿。

さらに、自身のYouTube動画でも、〈逆差別、エセ、そしてそれに伴う利権差別を利用して日本を貶める人たちがいます〉〈差別がなくなっては困る人たちと戦ってきました〉などと投稿を続けている。

「〈アイヌ民族のコスプレ〉なる表現は、アイヌ民族を辱めるものであって、たんなる誹謗中傷よりも、かなり雑な“差別・偏見”だと思います」

そう指摘するのは、差別問題について取材を続けているノンフィクションライターの安田浩一さんだ。

「〈アイヌを名乗ればさまざまな優遇政策がある〉〈アイヌ民族なんてそもそも存在しない〉などという認識を持った人たちが一部にいますが、“アイヌ民族”が歴史的に存在していることは日本政府が認めているわけです。

さらに遡れば、先住民としてアイヌ民族が差別・搾取されてきた歴史があり、それを踏まえて成立したアイヌ施策推進法などを根拠に、さまざまな支援策が実施されるのは当然のこと。にもかかわらず、アイヌ民族の存在まで否定するのは差別や偏見以外の何ものでもありません」

■差別を正当化するために“特権”を生み出した

杉田氏は、アイヌ協会が助成事業を不正に使用しているとして、〈公金チューチュー〉などと発言しているが、内閣府は「過去に一部、不適切な事業執行があった」とは認めたうえで、「再発防止策を講じた。現在、不正はない」と見解を示している。

「そもそも、不正の問題と民族の問題は分けて語られるべきです」(安田さん、以下同)

歴史的に虐げられてきたアイヌ民族への福祉政策として、生活困窮者への学費や生活に関する支援制度は存在する。しかし、それらはアイヌ民族というだけで支給されるものではなく、あくまでも困窮者への支援だ。

「アイヌであるだけで、さも何か優越的な権利が自動的に発生するなんてことは存在しません。ありもしないデマを流布させることによって、アイヌに対する差別を正当化させているにすぎません。

いかにして、差別を差別でないと言い張ることができるのか。そのために、“アイヌの特権”あるいは“在日コリアンの特権”というものが生まれてきた、僕はそのように思っています」

大きな問題は、こうしたデマを振りまいて社会を先導しているひとりが、国会議員の杉田水脈氏であるという点だ。なぜ、議員でありながら、差別を助長する発言を続けるのか。

「一定の“お客さん”がつくからでしょう。つまり、それが票に結びつくと思っている議員もいるのです。むしろ自民党が、杉田さんのような議員を利用してきたことが問題です」

加えて日本では、こうした差別発言に関してなんら罰則がないことも問題だという。

「2016年にヘイトスピーチ解消法が成立しました。同法ではヘイトスピーチをなくすための努力義務が設けられていますが、罰則規定はありません。罰則がないから何を言ってもいいと考えている人は議員の中にも少なからずいると感じます」

マイノリティの権利を“逆差別”“特権”などと言って迫害する社会が助長されれば、やがてそれは自身の身にも降りかかってくるのだ。

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