「北島三郎が見たい」6年連続総合司会が語る“変わらない紅白”の重要性

99年、『まつり』を熱唱する北島三郎。圧巻のパフォーマンスで大トリを務め会場はひとつに

「かつての紅白歌合戦は、どの世代の人でも知っている歌がうたわれていました。

コタツを囲んでミカンを食べながら、三世代がそろって同じ歌を口ずさむ──。1年の最後の日は、その年を変わりなく過ごせたことを感謝しあう日。そんな大みそかに行われる紅白には、どんな世代が観ても楽しめる安定感がありました」

そう語るのは「NHK紅白歌合戦」で第46回(’95年)から第51回(’00年)まで総合司会をつとめた宮本隆治・元NHKアナウンサー。定年まではラジオ中継などを支える紅白チームのアナウンサー監督として紅白歌合戦を支えた。

そんな宮本さんが、今の紅白歌合戦をこう思っているという。

「紅白歌合戦は、家族揃って見て頂き、そこで、絆を確認し合ってもらう番組でもありました。出場する歌手で若い人たちが出てきたときに、おじいちゃんが『これ、どういうグループなんだ?』と孫に聞いて、そこで会話が生まれてくる。歌を通して、新しい情報をおじいちゃん、おばあちゃんが孫から聞く、あるいは逆に、孫たちが祖父母から情報を教えてもらう、そんな世代を超えた絆が生まれていました」

ところが、近年の紅白は、視聴者の歌の好みが個別化しているため、どの世代が観ても紅白歌合戦ではじめて観る歌手がいるという状態になっているという。

「たしかに、今の紅白歌合戦は、その年の音楽の動きが全部わかるような番組になっていますが、僕としては、日本語が少ないグループ名が多くて覚えるのが大変。おじいちゃん、おばあちゃんたちも孫に聞いても『……?』という状況でしょう。家族全員で『紅白』を観ることはなかなか難しいかもしれませんね」

そして、こう続ける。

「僕個人としては、やっぱり大トリは北島三郎さん。紙吹雪が舞うなかで、口や鼻に紙吹雪が入ってきても歌をうたい続ける。そんな北島さんを最後に聞いて“今年もよく頑張った、来年がんばろう”という気分になりますね」

現在フリーアナウンサーとして活躍する宮本さんに、今年の「第74回NHK紅白歌合戦」の見どころを語ってもらった。

「今年で6回目の出場となる純烈は、第69回(’18年)に初出場を果たす前から『どうしたら紅白に出られますか?』と相談を受けていました。初出場が決まったときには、神奈川の温泉センターのステージで歌っていた純烈のメンバーに紅白まんじゅうを持っていって一緒にお祝いしたこともありました。“夢は紅白! 親孝行!”をキャッチフレーズにしている純烈は、メンバーこそ変わりましたが、初心を忘れずに『実ほど頭を垂れる』で頑張っています。どれだけ成長したステージを見せてくれるのか、楽しみですね。

あとは伊藤蘭さん。キャンディーズ時代のランちゃんの輝きをいまでも失っていない彼女が、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、今から楽しみですね」

また“紅白”の伝説のアナウンサーとして、こんな楽しみ方も教えてくれた。

「じつは僕は、紅白をじっくり観たことがないんです。総合司会をしていたときは、歌手の方々を送り出したら、次の準備をしなければいけないから、ゆっくりステージを楽しんでいる余裕はありません。

また総合司会を務めて以降は、テレビで紅白を観ると、現場の緊張が手に取るようにわかってドキドキして体に悪いから、毎年ラジオで聞いています。

第1回(’51年)から脈々と続いている紅白歌合戦の成功のために、スタッフは動き回っています。ラジオの実況もそう。歌手の方が登場してから歌い始めるまでのわずかな時間に、衣裳の形、色などの実況描写をします。しかも、アナウンサーですから、確かな日本語を話すわけです。もちろん、歌手の皆さんの1年の集大成、歌ももちろん聞いて欲しいが、ぜひ、ラジオで伝えるアナウンサーの奮闘にも注目してください」

(取材・文:山内太)

【PROFILE】

宮本隆治(みやもと・りゅうじ)

1950年、福岡県北九州市生まれ。慶大文学部卒業後の1973年にNHK入局。「NHK歌謡コンサート」「NHKのど自慢」などの看板番組を担当。「紅白歌合戦」では、1995年から6年間連続総合司会を務める。2007年、エグゼクティブアナウンサー職で退職し、フリーに。2009年11月には「天皇陛下御在位二十年記念式典、並びに国民祭典」の司会、2019年4月には「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」の司会を務めた。

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