元F1ドライバーが“今季の最も印象的な瞬間”にシンガポールGPを選出。優勝争いを演じたサインツらを高く評価

 元ルノー所属のF1ドライバーで、現在プレゼンター、コメンテーター、レースアナリストを務めるジョリオン・パーマーは、2023年シーズンの『最も印象的な瞬間』にF1第16戦シンガポールGPの終盤を選出した。

 2023年シーズンのなかで、シンガポールGPはレッドブルが唯一優勝しなかったレースだ。レッドブルは優勝争いに加わることすらできず、マックス・フェルスタッペンは5位、セルジオ・ペレスは8位でレースを終えている。

 シンガポールGPのレースの序盤はどちらかというとスローペースだった。しかし最後の数周について、パーマーは「史上最高だったかもしれない。4台のマシンがトリッキーな市街地サーキットで必死のバトルを繰り広げた」と述べた。カルロス・サインツ(フェラーリ)がリードしていたが、マクラーレン時代の元チームメイトであるランド・ノリスが猛追しており、同時にノリス自身はジョージ・ラッセル(メルセデス)がフレッシュなタイヤを装着して追い上げてくるのを必死にかわしていた。ラッセルは最終ラップにクラッシュしてしまい、サインツがノリスを抑えきり優勝を手にした。

「サインツはコクピットで天才的な冴えを見せ、ノリスは最後まで背後から圧力をかけ続けた」とパーマーはF1公式サイト『Formula1.com』に書いた。

「メルセデスは、表彰台という堅実な目標ではなく、優勝を目指し積極的な戦略に打って出たことを称賛されるべきだ。ラッセルは、勝利に結びつくあらゆる動きをコースの隅々まで探り、結果として最終ラップにクラッシュしてしまったが、ドラマの盛り上がりに一役買ったのは間違いない」

2023年F1第16戦シンガポールGP カルロス・サインツ(フェラーリ)

 シンガポールGPは終盤まではスローペースだったことから、パーマーは、年間を通じてのベストレースには、今シーズン初開催のラスベガスGPを選出している。

「ラスベガスGPにはすべてがあった。スタートでドラマがあり、最終コーナーでドラマがあり、激しいオーバーテイクやインシデントがいたるところで起きた。マックスが優勝するかどうか、最後の数周になるまで分からなかったほどだ」

 またパーマーは、『ベストドライバー』と『ベストチーム』に、圧倒的だったフェルスタッペンとレッドブルを選出している。

「フェルスタッペンにとってなんというシーズンだっただろう。まさに完璧の一言に尽きる。彼はすべてのライバルを凌駕し、もはや誰も彼と争おうなどと思わなくなってしまった」

「今季のレッドブルは容赦のない強さだった。日曜日に必ず結果を出すという信頼性の点では、唯一無二のチームだった。戦略を誤ることはまずなく、ピットストップでも依然として最高のパフォーマンスを誇っている」

2023年F1第15戦イタリアGP 10連勝を達成したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 パーマーはシンガポールGPでのサインツを『ベスト個人パフォーマンス』に選んでいる。また『年間で最も気分の良い瞬間』に、フェルスタッペンと並んでマクラーレンのランド・ノリスが表彰台に立ち、オスカー・ピアストリが4位に入賞した第11戦イギリスGPを選んだ。

「ランドが母国のコースの1コーナーでリードを奪い、観客は大歓声をあげた。ピアストリは、ついにみなが望んでいたような才能を披露した。マクラーレンにとっては劇的な転換点だ」

 パーマーはその言葉通り、『ルーキー・オブ・ザ・イヤー』にピアストリを選出している。ニック・デ・フリースが早期にアルファタウリのシートを失ってしまい、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)が最下位でシーズンを終えたとなっては、順当な結果と言える。ただ、パーマーはピアストリについて「長年にわたり登場してきたF1ルーキーのなかでも最も優秀」だと述べている。

2023年F1第17戦日本GP オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が3位表彰台を獲得

『最優秀敗者』にはエステバン・オコンが選ばれた。第7戦モナコGPでのバトルが評価されたものだが、チームメイトであるピエール・ガスリーが第14戦オランダGPで見せたパフォーマンスの評価を上回った。『最も成長したドライバー』には角田裕毅(アルファタウリ)が選出。また『今シーズン最大のサプライズ』はフェルナンド・アロンソとアストンマーティンだった。これはシーズン当初の表彰台に何度も立った快進撃を評価してのものだ。

「フェルナンド・アロンソがこのようにF1にカムバックし、10年ぶりにこれほどの安定性を見せて上位に食い込むとは、誰が予想しただろうか。アストンマーティンがバーレーンGPにかくも戦闘力の高いマシンを投入できたのは、ひとつの成果として素晴らしいことだ」

「また、アロンソのドライビングスタイルが高トラクションのマシンの特性に合っていた。彼は42歳でもまだF1の最前線でやれることを証明してみせた。まるでおとぎ話のような復活劇だが、ひとつだけ欠けているのは、なかなか手が届かない33回目の優勝だ。シーズンの後半にチームが失速したのは気がかりだが、今一度力強い冬を過ごせば、2024年シーズンにフェルナンドが優勝することも可能だろう」

2023年F1第21戦サンパウロGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)&セルジオ・ペレス(レッドブル)

© 株式会社三栄