EVサービス他社と開拓、異例の試乗会開催も【セゾン自動車火災保険】

SOMPOグループのセゾン自動車火災保険が、EV関連のサービス拡充に力を入れている。「ちょっとした日常のお困りごとに応える」サービス提供を開始した。

11月19日には契約者サービスの一環として、輸入車を中心にEV複数モデルの試乗イベント「Nori-Kura-Be」(乗り比べ)を開催。同社初となる試乗会は、保険業界全体を見ても珍しい取り組みだ。同社のEV関連事業の展開を取材した。

自社サイトEV情報強化、保険は電欠レッカー無制限に

セゾン自動車火災保険(以下、セゾン)は、SOMPOグループの通販型(ダイレクト)損保事業を担う企業。代理店を介さずオンラインで保険の契約を行う。「おとなの自動車保険」が中核商品として知られる。

2022年6月に保険と暮らしに関連するオウンドサイト「SA・PO・PO」(さぽぽ)を開設し、スマートフォンアプリも提供開始した。23年秋には「SA・PO・PO」内に情報サイト「HOW TO EV~教えて!はじめてEV~」を追加。充電器設置のマニュアル記事など個人ユーザーがEV購入で役立つ情報を掲載したり、充電器の検索機能を設けたりと機能を充実させている。

「SA・PO・PO」PC版トップページ

「教えて!はじめてEV」の開設と同時に、「おとなの自動車保険」ではEVのロードアシスタンスサービスを拡充した。電欠時の車両レッカーについて1年1回の制限をなくし、回数無制限で提供開始。同業務を手掛けるグループ会社のプライムアシスタンスは、今回の試乗会で契約者に対し、充電作業の実演を披露した。

「教えて!はじめてEV」トップページ

SOMPOグループの損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)はEV専用保険を販売しており、EVとの関わりは長い。ただ、日本を走るEVの数はまだ限定的。セゾンの自動車保険の契約件数約140万件をみてもEVの契約件数は約7000件にとどまる。保険商品と並行してサービス開発に力を入れる。特に個人ユーザーがEVに乗る上で知りたい情報は多いとみて関連サービスを作っていく。

EV関連サービス積極的に他社と作る

また、セゾンは他社との協業も拡大中だ。試乗会は、自動車メーカーやディーラーと協力して開催した。サイトを通じた情報発信やその他の協業により、保険の契約者と、協業相手の双方にメリットをもたらせると見込む。

SOMPOホールディングスとDeNAで手掛けるカーシェアサービス「Anyca」(エニカ)で、各社が販売するEVの普及の足掛かりにできる。充電器の設置でも各社の仕様や見積もり比較などがサイト上で可能だ。

業種・業界の枠を超えた協業で保険契約者に役立つサービス開発を目指す。セゾン社内では、EV関連のビジネスを手掛ける事業推進部のサービス開発チームと保険商品開発チームが横断的に取り組む。

取り組みの詳細を、試乗会の会場で、セゾン自動車火災保険 事業推進部 サービス開発 部長 平尾昌也氏と、試乗会の企画・運営を主導した事業推進部 サービス開発 主任 藤田真友氏に聞いた。

左から平尾氏、藤田氏

「できるところから」EVの困りごと解決

――セゾンと、プライムアシスタンスによるEV関連事業の現状とサービス拡充の考え方からうかがえますか?

藤田氏:

まず、当社として、今後増えるEV保険の需要を捕捉するために「できることからやっていく」方針があります。保険商品そのものの開発には期間が必要ですので、今回の試乗会であったりサービス開発だったりから始めていくということです。当社では事業推進部のサービス開発チームと保険商品開発チームが横断的に、グループではプライムアシスタンスと、SOMPOグループの各社が協力して進めています。

平尾氏:

われわれの本業、自動車保険に近いところでユーザーをお手伝いできることを探しています。日本や世界のIT大手が保険に参入する中、今までの事故発生後、「アフタークラッシュ」の保険から「ビフォアクラッシュ」サービスへの転換、加えてもっと日常のところでお困りごとを解決するチャレンジをしようとしています。

――「チャレンジ」の内容をもう少し詳しく教えていただけますか?

平尾氏:

例えば、EVに関する困りごとや心配、「電欠になったら」「自宅に充電設備を付けるには」などの解決です。この10月から電欠時のレッカーサービスを無制限にしたり、充電器の検索を始めたりと、できるところから始めています。

充電器検索の画面、給油所や駐車場も分かる

平尾氏:

損保ジャパンは「リーフ」発売当時からEV専用保険を発売して10年ほどの歴史があります。しかし、EVの普及は始まったばかりのところで、アフタークラッシュの需要はまだ少ないというのが実際の話です。であれば、無理に保険商品をつくるのでなく、自動車のメーカー・ディーラー、設備メーカーさんと協力して、新しい保険に必要なものやニーズを、今回の試乗会もそうですが、現場で探っていこうとしています。

ダイレクト損保と好相性のオンライン連携を強化

――では、一つ一つの取り組みについてうかがえますか。他社と取り組むサービス開発でどんなことをされてきましたか?

藤田氏:

7月より提携事業者様のサービスをSA・PO・POから利用できるようにしています。Anycaを使ったEV体験や、ヒョンデ、ボルボのオンライン専売モデルのEV購入ができます。ダイレクト損保とオンライン完結型のサービスとの相性はいいと考えており、いろいろな企業様にお声がけしているところです。

また、EVに乗る前にお客様が知りたいであろう充電や、充電の認証カードといった情報を分かりやすくまとめたコンテンツも作成しています。当社のサイトを見れば、EVのもろもろの情報が分かるサイトを作っています。

SA・PO・POから各社のサービスを利用できる

平尾氏:

いろいろな事業者様が今後出てくると思いますので、われわれの方で探しながら、サイトに一緒に集まってもらって応援させていただきたいと考えています。

もう一つ、EVに乗りたいと思ったときに、みなさん知りたいことが多いのではないかと。というのも、私が自分でEVを購入したときに、分からないことだらけだった経験も踏まえてのチャレンジです。

「EVの知りたいに寄り添うサービスを作る」

――これから、どんな企業と、どんなサービスを作っていくのでしょう?

藤田氏:

EVへの乗り換えを考えているお客様に対してのサービス開発が今の中心です。乗り換え後の充電器設置や認証カードに関するものも適宜追加していきたいと考えており、充電アプリなどの導入を企業様とお話ししています。

平尾氏:

新しい事業を始めた際に新たに生まれるリスクをカバーするのが保険会社の使命です。新たに現れたリスクを保険会社としてサポートし、事業者様と一緒に進めていく中で新しい保険商品やサブスクリプションの形で新しいサービスを作ることもできると考えています。

――ところで、EVユーザーが懸念している点や、EV普及の課題は何だととらえていますか?

平尾氏:

まず「価格がガソリン車に比べてまだ高い」「航続距離が心配」「充電場所が少ない」の3点にだいたい集約できて、中でも特に充電に関するものが多いですね。ですので、充電器設置や充電予約をする企業様との連携もしていこうと考えていますし、充電関係の情報発信にも力を入れていこうと考えています。

初挑戦、申し込み多数の試乗会、次の展開を構想

――それでは、今回初開催となるEV試乗会Nori-Kura-Beについてうかいがます。まず、開催の狙いを教えてください。

藤田氏:

当社は今後EVに力を入れていきますとお客様に知っていただくことが一番の狙いです。始まったばかりではありますが、少しずつお客様や世間に浸透していけばいいなと考えています。

平尾氏:

「どうして保険会社が試乗会を?」というのは自動車メーカーさんや皆さんに聞かれたのですが、説明したように「EVってどんなものなの?」というお客様は多いと思っています。お客様に喜んでいただけるだろうとの期待がありました。保険会社ですが「保険会社らしくない」体験のご提供を今後も続けたいと考えます。

セゾンのEV関連事業を知ってもらい浸透を図る

――今回の参加者は30組限定ということですが、申し込み数は?

平尾氏:

200組弱でした。申し込みは来るのかと心配していたら、応募開始から2時間くらいで150組ぐらい集まりました。

藤田氏:

10代の応募者もいらして、かなり多数の応募をいただき、喜んでいただける企画だったかなと思っています。試乗会第2弾や、今後の展開を考えていきます。

輸入車中心に9モデルEVずくめ試乗は好評

試乗会は11月19日、東京・台場の「海の森水上競技場」を起点に行われた。会場には輸入車を中心に5社・9モデルのEVが集まり、ディーラーやメーカーの担当者が車両の説明をしたり同乗したりした。第2回では国産車新モデルも加えられるだろうとセゾンの藤田氏はみる。

参加者は3モデルの試乗が可能で、快晴の下、競技場周辺のコースでEVのドライブを楽しんだ。「ちょっと来て1時間半の間に別メーカーの3モデルを試乗できる機会はなかなかかないと思っていまして、こうした体験を今後もご提供していきたいですね」と平尾氏。

参加者に感想をうかがった。9カ月の赤ちゃんを連れた夫婦は「同じ条件で乗り比べができ良かった。XC40は家族で乗るにも十分な広さと航続距離があり、インテリアの質感、ボルボらしい乗り味もいい」と話してくれた。充電インフラが改善したらガソリン車からの乗り換えを検討したいと話した。

50代の夫婦は「初めてEVを運転したが、加速と停止のしやすさに驚いた。体験できてよかった」とコメント。次回は国産軽EVも試してみたいとした。自宅近くに充電場所があるかどうかで乗り換えを検討するという。

また、試乗後、会場ではプライムアシスタンス社による電欠救援の実演が行われた。ポータブル電源使用と、V2Vによる2種類の給電を行った。

ポータブル電源はBell Energy社が手掛ける「ROADIE V2」を使用。救援車に積み込んだ1つ約20キログラムの電源3つと車両をケーブルでつなぎ、給電する流れを実演して見せた。

V2Vは、オリジン社の可搬型充放電器「POCHA V2V(開発中)」を使用。救援車など給電するEVと電欠EVをコネクタでつなぎ、充電する。コネクタに十分な長さがあり、路肩で縦列に駐車して接続できる。

藤田氏、平尾氏は今回の試乗会を通じて自動車ユーザーのEVに対する関心の強さを実感しているという。SA・PO・POの内容を充実させたり、他社との協業を拡大させたりで契約者に向けてより良いサービスを作っていく。

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