マヂラブ野田も危惧…令和に「一発屋芸人」がピタリと生まれなくなった“厳しいワケ”

12月24日に行われた「M-1グランプリ2023」を見事制し、結成5年目という歴代2位の若さで令和ロマンが19代目王者に輝いた。「M-1」を始めとする賞レースやバラエティ番組での活躍を機に、毎年いくつかの芸人がブレイクを果たしている。

しかしその裏でブレイクの筆頭だった“ジャンル”が絶滅の危機に瀕している。それは、「一発屋芸人」だ。

キャッチーなフレーズの一発ギャグやネタに火がつき、メディアや営業にひっぱりだこになる「一発屋芸人」。テツandトモ、小島よしお、エド・はるみ、スギちゃんらのように「新語・流行語大賞」の年間大賞を受賞するなど、社会現象になった芸人も少なくない。

その名の通りブームが過ぎるとオファーがいきなり減ってしまうが常の「一発屋」だが、ここ数年は「一発屋」そのものがいないのだ。

ひょっこりはんやブルゾンちえみといった数々のブレイク芸人を輩出した『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の元日恒例「おもしろ荘へいらっしゃい!」。今年は「ちょんってすなよ」のフレーズでおなじみのちゃんぴおんずが優勝し、ネット上では盛り上がりを見せたものの、ブルゾンなどのように毎日のようにメディアに出演する“大ブレイク”にはいたっていない。

芸人の中でもその実感はあるようだ。12月17日に放送された「M-1ラジオ」(ABCラジオ)の中で、パーソナリティを務めるマヂカルラブリーの野田クリスタルは「今、一発屋芸人がいない」「俺、多分そのせいで今お笑いの何の時代かわかんない」とコメント。ゲストであり“一発屋”でもあるジョイマンの高木晋哉は「生まれない。もう生まれないのよ」と、相方の池谷和志も「吉本に見当たらないもん」と語っていた。

今年の「M-1グランプリ」のエントリー数は歴代最多の8540組となり、お笑い界がますます盛り上がっているなか、なぜ「一発屋芸人」は消えたのか。お笑い評論家のラリー遠田氏は、「一発屋が出てきても、その一発がそんなに大きくならない感じがしている」とした上で、初めに“テレビの影響力低下”を指摘する。

「一発屋芸人と呼ばれる人がもっとも多く出てきた2000年代後半は、『エンタの神様』(日本テレビ系)や『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)が流行っていて、最盛期には視聴率20%以上を記録していました。YouTubeやSNSも今ほど一般化していない時代だったので、子供や若者を含む幅広い層の人々がそれらの番組を見ていました。そのため、印象的なフレーズやキャラクターを持つ芸人が瞬間的に人気者になるという現象がありました。ほかに選択肢が少なかったからこそ、みんなが同じものを見ていたのです。

ただ、今ではYouTube、TikTok、Instagramなどが広まっていて、若者がそれほど積極的にテレビを見ていません。テレビは数ある選択肢の一つに過ぎないのです。昔は大学生の一人暮らしでテレビを持ってない人は珍しがられていましたが、今ではテレビを持っている人の方が珍しいですよね」(以下、カッコ内はすべてラリー氏)

近年では、一発屋芸人誕生に大きく貢献した『エンタ』や『レッドカーペット』のようなネタ番組も減ってきている。

「最近のお笑い番組はトークが主体になっていて、『エンタ』や『レッドカーペット』のようなネタ番組がほとんどありません。

ネタをそのまま見せられる番組は少ないので、ロケ番組やドッキリ番組などに向いているようなキャラクターを持っている芸人が、テレビには使われやすいです」

次に、多くの若者が熱中するSNSでは、テレビとは別の生存戦略が求められるとラリー氏は言う。

「テレビには基本的に限られた数の芸能人しか出られませんが、SNS上ではみんなが横並びになって比べられることになります。YouTubeやTikTokで一般人が踊っている動画も、プロの芸人がギャグをやる動画も並列になっている。その中では、芸人だからといって特別に注目されるということはない。たとえ一時的にバズったとしても、それだけで一発屋芸人と呼ばれるほどの一般的な知名度を獲得するようにはなりません」

SNS上での“賞味期限”のすさまじい早さも大きいという。

「TikTokなどのSNSには瞬間的にバズる仕組みが組み込まれているので、一つの動画が流行ったとしても、廃れるのも早い。

また、今の義務教育ではダンスが必修科目になったこともあって、SNSでも求められるレベルが高くなっています。昔の一発屋芸人は“ヘタウマ”でも面白がられるようなところがありましたが、今では芸人が歌ネタや音楽ネタをやる場合にも、その音楽やダンスのクオリティがそれなりに高くないと流行らない感じがします」

新しい「一発屋芸人」はほとんど誕生しなくなったものの、とにかく明るい安村やジョイマンなどのように、往年の一発屋が再ブレイクする流れは続いているがーー。

「今の30~40代が『こんな人いた!』と懐かしがって面白がる“リバイバル”的な需要が大きいと思います。

最近、芸能人がカラオケを歌う番組が増えています。それは、今のテレビのターゲットになっている30~40代の人が若い頃にはカラオケがブームだったので、当時の流行歌が流れると懐かしいと思ってもらえるからです。それと同じで、ダンディ坂野さんなどがCMに起用されるのも”お笑いの懐メロ”なんですよね」

「一発屋芸人」にとっては“冬の芸人”といえる令和。数々の高いハードルを乗り越えて、大ブームを巻き起こす芸人は再び現れるのか。

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