浜木綿社長「ドラッカーに救われた」仕事とは、利益とは 経営の心得を一から学んだ 愛読書の魅力語る

浜木綿 代表取締役社長 林永芳さん

創業56年、中華料理チェーンとして親しまれる「浜木綿」。社長の林永芳さんは、父から社長を継いだ当時、P.F.ドラッカーの「マネジメント 基本と原則」を読んで感銘を受けたと言います。浜木綿の経営を支えたバイブルともいえる名著の魅力と、社長の思いに迫ります。

――この一冊を読むことになったきっかけを教えてください。

P.F.ドラッカー著 「マネジメント 基本と原則」

浜木綿の社長を引き継いだことですね。38歳のときに父から社長を引き継ぎました。当時は社長とは何か。疑問がたくさんありました。右も左も分からない中、経営指針を学ぶために入会した「愛知中小企業家同友会」で薦めてもらったのが、この本でした。

一種の哲学書

実際に読んでみると、経営の目指すべき姿が分かりました。会社の運営に関するだいたいの疑問はこの本に書いてあります。一種の哲学書のようなものです。そもそも会社とはどんなものなのか。仕事とは、利益とは何なのか。

「どうして利益を出さなくてはいけないのか」。そう言われると案外分かりません。利益は何%なら良いのかなど、決める基準となるものが書いてあったので、経営について考えやすくなりました。

大切な人との食事を楽しんでもらう時間こそが最終目的

仲良く食事を楽しめることに意味がある

マーケティングをベースにして浜木綿について考えると、料理は大義なものではあるけれど、それ自体が目的ではありません。お客さんが楽しい食事をして心を通い合わせるというのが、最終的な目的だと私は思っています。本を読んで気づかされたことの1つです。

料理自体を売ると間違ってしまうんですよね。おいしければ良いとか、効率を良くするためにテーブルは四角で、とかではない。円卓で皆さんが仲良く食事を楽しめることに意味があるのです。

日本人にドラッカーが人気の理由

「マネジメント」について分かりやすく説明している

――過去に、ドラッカーがブームになりましたね。日本人に人気がありますが、その理由はどんな点にあると考えますか。

普遍的な疑問に対して、シンプルに説いているからだと思います。私は経営を始めて1~2年のときに読みました。特に腹落ちしたのは、マネジメントの役割が3つ書かれている部分です。

■マネジメントの役割
1. 自らの組織に特有の使命を果たす
2. 仕事を通じて働く人たちを生かす
3. 社会の問題について貢献する

マネジメントの役割

この3つだけ押さえておけば良いと書いてありました。しかもドラッカーは「利益は目的ではない。会社の目的としてはいけない」としつつ、会社が継続していくためには「利益は10%ほどないと継続できない」とも。10%の利益が出るまでは頑張ってください、というのは結構厳しいですが、とてもシンプルで分かりやすいと思いませんか。

ドラッカーの「マネジメント」は経営者以外にとってもバイブルになる

「経営者ではない方にも薦めたい本」と語る

マネジメントの役割は経営者にとって知っておくべき話ですが、経営者ではない方にも薦めたい本です。マネジメント自体は会社だけでなく、大きく言えば国家にとっても必要なこと。国民の命と生活を守るという大きな役割があります。

印象に残っているフレーズ

社員にいきいきと働いてもらうための3つの条件

社員にいきいきと仕事をしてもらうためには何が必要か、といった部分でドラッカーは3つを挙げているんですね。

1. 責任
2. フィードバック
3. 継続学習

責任を持ちたくない、という人が多いんですけど、責任を持たないとやりがいもありません。「誰でもできるけれど、あなたにお願いします」と仕事を依頼するのと、「これは重大な責任なので、あなたにお願いしたい」と言うのはまったく違います。責任はきちんと持ちましょうというのが大事ですね。

継続学習が必要

2つめは「フィードバック」。これは社員に伝えています。アルバイトの人に接客の仕方を教えるとき、「今のところ60点」「ここができたらだいたい100点」と、アドバイスすると理解しやすいですよね。

そして特に大事なのが3つめの「継続学習」です。責任を負う、フィードバックする、そしてより良くしようと勉強する。この3つが一体になって、人は少しずついきいきと仕事をしていけるんです。

ドラッカーは第一次世界大戦を乗り越えてきた人

――ドラッカーの本は、今なお多くの人に読まれていますね。1970年代に出版されたものが2000年に再度翻訳され、2020年で重版が57刷になっています。

ドラッカーは第一次世界大戦を乗り越えてきた人です。100年以上前の人たちの本が今でも売れ続けているというのは、基本や原則として語られる大きな理由でもありますよね。

私だけではなく、ドラッカーの言葉に救われた人がたくさんいると思います。

(取材協力:浜木綿 代表取締役社長 林永芳さん)

■「マネジメント 基本と原則」P.F.ドラッカー著
「経営の神様」ともいわれるピーター・ドラッカーのマネジメント論をまとめた一冊。今でも多くの実業家たちに読み継がれるドラッカー経営学の入門書。

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