『送料無料』は優良誤認? 「配送はタダでない」消費者庁が “表記見直しの自主対応”を要請した背景

送料無料の表示の裏にある”コスト”にも目を向けようと提言する消費者庁(写真AC/ GrandyPhotos)

消費者庁が12月下旬、「送料無料」の見直しをEC事業者らに要請した。あくまで「自主的」とし、強制力はないが、当たり前のように浸透する「送料無料」表示に一石を投じるもので、消費者の反応など、成り行きが注目される。

なぜ「送料無料」表示の見直しが必要なのか

降ってわいたような議論に感じられるかもしれないが、実はこのテーマで消費者庁は、2023年6月から有識者らと意見交換を重ねてきた。12月20日には、それらの意見を踏まえ、送料無料に対する消費者庁としての考え方を示している。

その内容は次の通りだ。まず、物流の「2024年問題」に直面しており、政府による対策が取られているという前提の上で、「関係者等の意見を踏まえると、送料の表示に関し、『送料として商品価格以外の追加負担を求めない』旨を表示する場合には、その表示者は表示についての説明責任がある。消費者庁として、関係事業者等に送料表示の見直しを促すとともに、事業者の自主的な取り組み状況を注視していく」。

不要不急の配送依頼が増えると運送業への負荷が増し、やがて…(マハロ / PIXTA)

要するに、「送料無料」の表記は、消費者に「輸送費はタダ」の印象を与え、必要以上に配送を依頼してしまう可能性もある。それでは、人手不足に苦しむ運送業界をより苦しめることになるので、EC事業者らはキチンと配送料を表示すべき、例えば、「送料当社負担」「300円(送料込み)」などだ。

国交省は再配達削減へ3つのお願いも

こうした議論の前には国土交通省が運送会社に負担を強いる再配達削減のために、時間帯指定の活用、各事業者提供のメール・アプリ等の活用、コンビニ受け取りや宅配ロッカーなどの多様な受け取り方法の活用を要望するなど、「物流の2024年問題」を見据え、消費者への配慮を求めていた経緯もある。

そもそも、「送料無料」表示は、消費者の負担はゼロだとしても、事業者が負担していたり、実は会員特典等で消費者が別の形で負担をしていたりするので、誤解を与える表示でもある。だからこそ、消費者利益を守る立場にある消費者庁も、こうした提言を行っている。

意見交換会では、改めて再配達を減らすための消費者への啓もうの必要性やポイント付与等による工夫の提案、法規制では効果は限定的などの声も上がり、安易な送料無料表示に対する、最善策が多面的に模索された。

一般ユーザーは送料無料歓迎だが、ネット上では賛同意見も

一方、一般ユーザーからは、送料無料表示について、「すごくいいと思う」との賛同意見のほか、「『当社負担』か『送料込み』かやるにしても統一してほしい」という声、「混乱したことはない」とのクールなコメント、「それよりも本体を安くしておいて送料2500円とかあるやつの方が問題」とネット販売業者のあざとさを指摘する意見など、SNS上を中心に多様な意見が飛び交っている。

ネオマーケティングが22年3月に実施した調査結果

もっとも、消費者にとってECショッピングにおいて、送料の安さは大きな魅力に違いない。実際、コロナ禍でネット通販がより活発だった22年3月に生活者起点のリサーチ&マーケティング支援を行なうネオマーケティングが実施したECに関するアンケート調査(全国の20歳~69歳の男女1000人を対象)では、「ECショップを選ぶ際、重要だと思う要素」の項目で、「やや重要」も含めると「重要」と考える消費者が88.8%にのぼった。

こうした志向は、EC先進国の欧米でも同様で、一定額以上で送料無料や特定地域は送料無料など、日本同様のスタイルによる「送料無料」対応が主流となっている。

ネットショッピングが深く浸透し、いつの間にか当たり前になった”送料無料”。消費者にはありがたい限りだが、浸透し過ぎた弊害が物流業界を圧迫し、このままでは消費者にも跳ね返ってくるかもしれない…。いま、まさにその分岐点にある。そうだとすれば、この「送料無料」表記問題、決して他人事といえないだろう。

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