【大川原化工機冤罪事件】「警視庁公安部は絶対に許さない!」 大川原正明社長インタビュー|粟野仁雄 軍事転用可能な機械を不正・無許可で輸出したとして、警視庁公安部に逮捕・起訴され、その後、起訴を取り消された「大川原化工機」の社長らが国と都を訴えた裁判で、2023年12月27日、東京地裁が警視庁の逮捕、東京地検の起訴を違法と認め、都と国に計約1億6千万円の賠償を命じた判決を下した。弊誌2023年9月号に掲載された、大川原正明社長の独占インタビューを特別公開!

異例の起訴取り消し

「捏造でした」

6月30日、東京地裁七百十二号法廷で証人尋問された警視庁公安部の現職警部補が、自己の属する組織の巨悪を暴露した。

2020年3月、「生物兵器に転用できる機械を中国と韓国に違法に輸出した」として、外国為替及び外国貿易法違反容疑で、大川原化工機株式会社(大川原正明社長・横浜市都筑区)の社長ら幹部三人が警視庁公安部に逮捕・起訴された。

大川原社長、相嶋静夫元顧問、島田順司元取締役の三人は一貫して容疑を認めなかったため、11カ月も長期勾留。なかでも相嶋氏は勾留中に胃がんの進行が判明したが、勾留停止が認められず、入院した時はすでに手遅れで、72歳の生涯を閉じた。

夫を案じた妻が「嘘でもいいから容疑を認めてほしい。死んだら終わり」と懇願したが、夫は信念を曲げなかった。

驚きの展開を見せたのは、初公判が行われる直前の2021年7月30日。東京地検が異例の起訴取り消しを決定。「起訴有罪率99%」を誇る検察庁としては苦渋の措置だった。それに伴い、東京地裁が刑事補償計1130万円を支払う決定をしたが、大川原社長らは民事裁判で国(検察庁)と東京都(警視庁)に約5億7千万円の損害賠償を請求。

その民事裁判の法廷で、公安部の警部補が「捏造でした」と告白し、前代未聞の展開になっている。

相嶋氏の長男の怒りはおさまらない。

「日本は『逮捕=有罪』と見られる社会。刑事被告人のレッテルのまま死んだ父はどんなに無念だったか。拘置所での診断で入院が必要と判明しながら適切な処置をせず、父を死なせたのは殺人ですよ」

不正輸出めぐるえん罪事件 捜査は違法 国と都に賠償命じる判決 | NHK

安全に扱えれば違法

そして、違法捜査について「警視庁の担当者や起訴した検事らに刑事責任を求めたい」。だが、実際に起訴した担当の女検事は「謝罪しません」と言い放っている。

社長の話を聞く前に、事件の経過を振り返っておこう。

2018年10月3日朝、横浜市の自宅を出勤しようとした大川原社長に「外為法違反容疑で捜索令状が出ています」と警視庁の捜査官らが声をかけてきた。「何の件ですか?」と訊いても「捜査の秘密」と答えず、そのまま数人が家に上がり込んで捜索し、携帯電話や書類などを押収。会社でも、手当たり次第に書類やパソコンなどを押収した。

「わが社は売ったら終わりではない。修繕などもあるのに、設計図まで持ち去られてしまい、販売先の修繕の注文にも応じられなかった」(大川原社長)

その後、「生物兵器の製造に転用できる噴霧乾燥機を、ドイツ企業傘下の中国の子会社に無許可で輸出した」という外為法違反容疑だとわかる。

この噴霧乾燥機とは、ステンレス容器内に噴射した液体に高熱をかけて瞬時に粉末にする装置で、コーヒーやスープの粉末、医薬品など用途は広い。大川原化工機は国内シェア7割を誇るトップメーカーで、中国、イタリア、インドなどに数多く輸出している。

米国で2001年に起きた同時多発テロ、近年の米中対立などから経産省は、2017年に外為法を改正し、輸出規制を強化した。噴霧乾燥機は炭疽菌などを撒く生物兵器に転用されやすいとして、①水分の蒸発量②粒子直径③定置状態での内部の滅菌④殺菌の可能性を基に規制を設けた。

今回、②が焦点となる。「定置状態で」とは「分解せずに」ということ。分解せずに滅菌・殺菌できなければ作業者に危険が及び、兵器転用ができない。そのため、それが可能な噴霧乾燥機は該当となり、許可申請が必要となる。

滅菌・殺菌には熱風をかけるが、機器全体に熱が行き渡ることが必要だった。あべこべに聞こえるが、「安全に扱えれば違法」なのだ。

大川原化工機の噴霧乾燥機は定置で、滅菌・殺菌はできない。危険な菌など扱わないから滅菌、殺菌は必要もない。だからこそ、12月から何度も都内に呼ばれて任意取り調べを受けた三人は「うちの噴霧乾燥器では完全殺菌などできない」と説明したが聞き入れられず、一年半後の2020年3月11日に逮捕された。

「彼らは『セイシンのようになりますよ』などと言ってきた。ある程度は逮捕も予想はしていました」(大川原社長)

東京都渋谷区の精密機械メーカーセイシン企業は、2003年6月、1994年3月に北朝鮮、イランなどにジェットミルをはじめとしたこれらの機器合計30台以上を不正輸出したことが判明し、外為法違反で有罪が確定している。

法廷での”爆弾発言”

初公判は2021年8月3日(火)に予定されていたが、4日前の7月30日(金)に、同社の顧問弁護士の高田剛氏(和田倉門法律事務所)へ東京地検から公訴取り消しの電話が入った。理由は「滅菌・殺菌に該当するかどうか疑義が生じ、立証が困難になった」。

しかし、高田弁護士は「別の理由がある」と直感した。

「経産省と警視庁の交信記録を請求、経産省は強く抵抗したが、裁判長が開示を命令した。7月30日は開示文書の提出期限。最初は噴霧乾燥機が規制対象と思わなかった経産省が、警視庁に説得されて協力姿勢になったという、まずい経緯がばれるから取り消させたのでは」

そして、6月30日の法廷での濱崎賢太警部補の“爆弾告白”へとつながる。訊いているのは大川原化工機側の高田弁護士。

――本件は経産省がしっかりと解釈運用を決めていなかったという問題が根本にあるものの、公安部がそれに乗じて事件をでっちあげたと言われても否めないのでは?
濱崎警部補 まあ、捏造ですね。

――捜索により客観的な証拠は全て押収し、一年以上の任意取調で役職員から幅広く供述を得ている以上、口裏合わせは考えられないのだから、逮捕勾留の必要もなかったのでは?
濱崎警部補 そう思う。

――逮捕されるべきでない人が逮捕され、11カ月間も身柄拘束されることは決してあってはならないことだと思います。捜査を担当した立場として、誰がどうしていれば、この事態を防ぐことができた?
濱崎警部補 幹部が捏造しても、その上に指導監督者が何人もいたわけだから、その責任を自覚していれば防げただろうし、警視総監が承認した事件だが、警視庁の通報窓口に捜査員からあった通報を真摯に受け止めていたら、ここまでひどくはならなかったと思う。

さらに警視庁で実験にかかわった時友仁警部補は、「捜査幹部がマイナス証拠を全て取り上げない姿勢があった」 「捜査を尽くすために追加の実験を上司に進言したが、『余計なことをするな。事件が潰れたらどうするんだ』と責された」とも明かした。

警部補も腹を括っていた

インタビュー中の大川原正明社長(7月10日 粟野仁雄撮影)

昨年末の取材で、「経済安保の名目で国家がこんなことをしていては、日本の技術は世界に取り残されますよ」と、自己の苦難以上に日本の将来を危惧していた大川原正明社長が、改めてインタビューに応じてくれた。

――濱崎警部補が法廷で「捏造でした」と告白しましたね。
大川原 驚きましたよ。高田(剛)弁護士の質問に合わせて曖昧な言い方をするかもしれないとは思いましたが、「捏造でした」とはっきり言うとは……。

警視庁でこの捜査に当たった人は30人くらいはいたでしょう。彼らの間でも「おかしい。立件できないのでは」と声が出ていたはずです。捏造を告白してくれた濱崎警部補と時友警部補二人だけではない。そうでなければ、彼らは捏造とは言えなかったはずです。追い詰めた高田弁護士の力もありますが、警部補たちもある程度腹を括って証言席に出てきたのではないでしょうか。

ただ、上司の宮園(勇一)警視(捜査当時は警部)は部下の証言を必死で否定していました。彼は叩き上げの警官で、警視まで行った男。「なんとしてでも立件したい」という意志が強かったんでしょうね。

――6月23日は、警視庁公安部の安積伸介警部補は捏造を認めませんでした。
大川原 彼は上から言われたとおりに、都合の悪いことは隠し、ごまかし、都合のいいことだけ集めて証言していましたね。

僕の場合、何十回も聴取されましたが、調書にするのは四回に一回くらいです。「特に問題がなければいい」などの言い方をしたりして、都合の悪いことは記録に残さない。

この事件では殺菌がテーマでしたが、こちらは「殺菌という概念の定義をそういうふうに広げれば抵触する可能性もあります」と話しているのに、「拡大解釈すれば」という部分を抜いてしまっている。殺菌や滅菌の定義は、専門家のなかでは厳密な区別があるんです。

――安積警部補に参考意見を求められた四ノ宮(成)教授(微生物学・防衛医科大学学校長)も同様のことをおっしゃっていました。
大川原 「拡大解釈すれば」と仮定として話しても、「仮定」を抜いてしまう。「三人が共謀した」としないと罪にならないので、主観と客観を混ぜ込んで無理やり犯罪を作ったわけです。

でも、あの日、法廷で観察していると、安積警部補は証言席で震えていましたね。高田弁護士の尋問に応える時も、盛んに瞬きをしたりして落ち着かない様子でした。苦しい答弁だったのでしょう。

事実と合わないと記録なし

――島田さんの弁解録取(逮捕直後に警察が記録する被疑者の弁明)も、「客観事実と合わないから記録に取らなかった」と話していました。
大川原 図らずも暴露してしまったのは、「立件の見立てと合わないことは記録に残さない」ということですね。

――安積警部補は島田さんに、「ほかの二人は容疑を認めている」とを吹き込んでいた。
大川原 島田さんに対してだけです。僕と相嶋さんに対しては別の取調官で、それはなかった。まあ、僕ら二人が協力的にならないと捜査がうまくいかないから、三人をうまく使い分けていったんですね。

多くの社員も長期間、任意聴取されていましたが、私は取調官に「おたくの会社は社内でこの取調について情報共有しないのか? 内容を報告させないのか?」とよく訊かれました。私が他の社員の供述なども知らないので、不思議だったのでしょうね。

でも当時、私は社内で「何を訊かれたか、報告してくれと」は一切言わなかった。

もちろん、聴取中に暴力を振るわれたとか違法と思われることがあれば、弁護士を呼ぶつもりでしたけど。何時から何時くらいまで、どこで聴取されたという報告だけはしてもらいましたが、自分から話したいことがない限りは、取調官に何を訊かれ、どう話したなんてことの報告を求めませんでした。

――社長の方針ですか。
大川原 そうですね。こういう会社は、社員が自分の頭で考えて一つひとつ進めないとだめなのです。特にエンジニアの仕事はそうです。本人が考えて進めないと。いちいち決裁なんか取っていては仕事が進みません。

最初の数年の修業期間を越えれば、もうエンジニアとして社内でも独り立ちし、自分で判断して進めてもらいます。文科系というか、営業関係などもそうですね。我々のように、小さい所帯(社員九十人)で比較的大きな仕事をしている会社というのは、そうでないとだめなのですよ。

「謝罪しません」

7月5日は二人の検事の証人尋問があった。起訴した塚部貴子検事が黒い服、起訴を取り消した駒方和希検事が白い服というのが象徴的だった。

尋問で、塚部検事は「私が見聞きした証拠関係で同じ判断をするかどうかと言われれば、同じ判断をする」と説明。さらに大川原社長らへの謝罪について問われると、「間違いがあったと思っていないので、謝罪という気持ちはありません」と答えた。一方、駒方検事は「追加実験などで菌が死ななかったので、立証が難しいと考えた」と説明した。

――二人の女性検察官の証言のご感想は。
大川原 塚部(貴子)検事は、まあ気の強そうな人物でしたね。澱みなく話していましたが、ものすごく瞬きをするし、話す時には顔が紅潮して真っ赤になるんです。まあ、検察を背負っている気持ちなんでしょう。原告側の私の隣には、いま大川原化工機に勤めている相嶋さんの二男も座っていたんですが、塚部検事はちらちらとこちらを見てはいました。

彼女が、郵便不正事件で村木厚子さん(厚労省元局長)を起訴した時の大阪地検特捜部の検事だったことも知っていました。高田弁護士からも、彼女についてはあれこれ情報は得ていました(高田弁護士と塚部検事とは司法修習時代の同期)。

それもあってか、「謝罪しません」の言葉も、ああやっぱりねという印象でした。もちろん、こちらに向かって彼女が頭を下げるようなことは一切ありませんでした。

――起訴を取り消した駒方検事は?
大川原 淡々と話していましたね。「自分たちの実験では、菌を殺せなかったから立件できない」ということを訴えていました。彼女は盛んに乳酸菌と言っていましたが、実は乳酸菌という菌はないのです。正しくは、いろんな乳酸を生み出す乳酸産成菌です。

それにしても、なぜK12株のような安全な大腸菌を使って実験しなかったのか。簡単に入手できるのに、不思議です。乳酸菌、乳酸菌と盛んに言うあたりからして、まあ、あまり分かっている人ではないなという印象でしたね。

大川原社長と横浜市の本社(撮影 粟野仁雄)

経産省の面目丸つぶれ

この日、経産省の担当者も出廷。機器が規制対象に該当するか否かを警視庁側に伝えた内容を問われ、「非該当の可能性を数多く述べた」理由として、「警察が熱心だったので、クールダウンしてもらう趣旨だった」とも証言した。

――証人尋問された経済産業省の担当者の印象は。
大川原 女性の元職員は声が小さかったが、聞いていてもどうしようもない感じでした。男性職員(笠間大輔氏)は、自分の担当の時は「引き継いだことをしただけ」とし、あとは「担当を外れたので何も知りません」を繰り返して逃げていただけ。現場の技術をなにもわからない人たちが証言している印象でした。彼らは温度の正しい測り方も知らないのでは。

正確に厳密に温度を測るというのは極めて大変なことで、私も学生時代(大川原氏は京都大学工学部化学工学科卒)、徹底的に叩き込まれました。熱電対の値も流体と周囲の壁面の間の温度しかわからない。流体が流れている配管の温度などを測定するにしても、一体どこをどういうふうに測ったのか。

滅菌にしても、真空状態にも耐えて蒸気滅菌ができるとかできないとか、いろいろある。温度だけで違法かどうかを判断すること自体がそもそもおかしい。AG(オーストラリアグループ。生物兵器や化学兵器に関する取り決めをする枠組み)などでも、調べるのは「機器の仕様で」となっているのに。まったく現場の技術を知らないのです。

経産省は、わが社の機器が怪しいなと思えば「ちょっと聞かせてください」と相談するべきです。その時に違法と思えば警告もできる。なのに何もせず、いきなり警視庁に言われただけ。監督官庁としての役割が果たされておらず、面目も丸潰れ。そういった経緯が裁判で暴露されることも恐れているのでしょう。

「捜査記録などを読んできたか?」と高田弁護士に訊かれて、笠間氏が「覚えていません」 「見ていません」などと裁判官の前で平気で繰り返している。偽証しているのでしょうけど、呆れますね。

輸出規制を上乗せする日本

――以前の取材で社長は、「現場の技術を知らない人たちによる経済安保が大手をふるってしまえば、日本の産業は萎縮してしまって世界から立ち遅れる」と強く懸念されていました。
大川原 対中国などにしても、仲良くまではしないとしても、防衛で一番大事なのは、相手に対して戦う意欲を持たせないことでしょう。それには、「下手に手を出したら逆にやられてしまうよ」と向こうが思うような技術力がこちらにあることです。

資源に乏しい日本は、技術立国で生きていくしかない。技術も金が必要ですから、ある程度の財政力も必要。技術力による海外との競争が目に見える形で現れるのは、やはり貿易、輸出でしょう。

もちろん、どこの国も産業スパイのようなものがありますが、最先端の技術を学会に発表することなどが制限されてしまっては、どうしようもなくなります。

当社は中国の合併会社に対して、特許申請してあっても十年間は販売を認めない形を取ってきた。たしかに中国はものすごく他国の技術を真似するが、日本だって欧米の技術を真似してきたんです。

真似も大事で、そこから学ぶのですが、そこにとどまっていては意味がない。追い越すべく頑張らなくてはなりません。学会関係の仕事もしますが、いまの大学院生たちが自分の頭で検証していないことが気になります。

世界の学術論文で最も引用が多いのはアメリカですが、二番目が中国。日本はいまや、四、五番手に甘んじている。

かつて日本は、COCOM(対共産圏輸出統制委員会)で米国に追従してきた。しかし、欧州は日本ほど米国に追随しなかった。欧州自体が複雑な情勢になり、COCOMは消滅し、その代わりになっているのが米国主導のキャッチオール規制、こういう所へ売ってはいけないと決めています。一方、国連安保理では該当する機器をリストアップしている。全世界が対象で、ロシアも中国も入っている。

こうしたなか、なぜ日本だけが国際規制にさらに上乗せするような規制をするのでしょうか。実際、大川原化工機のニュースで企業が萎縮してしまっている、という話はよく聞きます。粉体機器のジェットミルなども、すべて輸出申請して許可を取らなくてはならないので東南アジアでは売れなくなってしまった。ホワイト国(経産省が定める外国為替管理法の輸出貿易管理令で、規定する該当機器の規制に優遇措置を与えている国)向けは審査が簡単なのですが。

報道に衝撃を受けた

――さきほど、「偽証」という話が出ました。安積警部補など、まさに偽証でしょう。偽証罪が形骸化している日本で最も偽証をするのが、警官ですね。
大川原 証言が事実と違っていたことが判明しても、「勘違いでした」とか「記憶違いでした」とか言えば偽証罪にはならない。また、取調は密室ですから証明することが難しいですね。米国で偽証罪が機能しているのは、取調段階から弁護士が同席しているからです。このあたりも、日本が変えていかなくてはならないのでは。

――三月には防衛医科大学の四ノ宮先生が、安積警部補の捏造を暴露した意見陳述書を裁判所に提出しました。科学者としての正義感ですね。
大川原 そのとおりです。私が法廷で感謝を述べましたとおり、四ノ宮先生には本当に感謝しています。

四ノ宮さんの発言を「熱風を吹き込めば装置内が百・以上になる」 「乾熱で大腸菌などを殺菌できるのであれば輸出規制に該当する」などと言ったかのように安積警部補が捏造して捜査報告書や供述調書を作った経緯を、しっかりと記した素晴らしい陳述書を出してくださいました。

国立大学校のトップとしては勇気のいることでしょう。嬉しかったですね。それに比べて、警視庁の側に立っていた千葉大学や岐阜大学の若い学者らは悲しいですね。

――公安警察は事件を創り、大きく報道させることで手柄にします。今回の事件に関する報道について言いたいことは。
大川原 正直言うと、逮捕・勾留されたことよりも報道が衝撃でした。影響が大きく、父(嘉平氏)が大川原製作所から独立し、1980年に創業した会社の信用は地に落ちました。逮捕報道で銀行取引もストップ、約30億円の売り上げは4割も落ちました。社員も連日、東京に通わされて取り調べを受け、仕事どころじゃありません。

社員は富士宮市の施設で反証実験を重ねましたが、熱風ヒーターでは警察主張のように全部位の温度が百度以上になることなどなかった。

最大の犠牲者は、やはり相嶋さんでした。勾留された島田さんも私も大変でしたが、その間の会社の留守部隊も対応に追われている。逮捕報道で、島田さんのご子息は結婚式も挙げられなかったのです。

新聞やテレビなどは、警視庁の発表どおりに報じるだけでした。噴霧乾燥機を扱っている会社はうちだけではありません。他にもあります。少しはそういう所を取材して、本当に違法なのかを調べたりしたのでしょうか。

あわの・まさお

1956年兵庫県生まれ。ジャーナリスト。大阪大学文学部卒。ミノルタカメラ、共同通信社を経て、フリー。阪神・淡路大震災以来、中越・中越沖地震、三宅島噴火、東海村臨界事故など、災害取材の豊富な経験がある。著書に『「この人、痴漢」と言われたら』(中央公論新社)『警察の犯罪』(ワック)『ナホトカ号重油事故』(社会評論社、共著)『サハリンに残されて』(三一書房)ほか、神戸市在住。

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