年末年始の交通事故を回避する「運転計画」の意外な重要性 「運転が下手でも」安全に目的地へとたどり着く技術とは?

交通渋滞時の「イライラ」も“運転計画”に含まれる(ペイレスイメージズ 2 / PIXTA)

12月は1年でもっとも交通事故が多く発生する月だ。日が短く、暗くなる時間が夕方の帰宅ラッシュと重なること。駆け込みの仕事のため、車の通行量も増え、急ぎ足の歩行者も多くなること。さらには寒冷地での積雪や凍結などさまざまな理由が挙げられているが、年末年始の帰省や旅行で慣れない長距離運転をする人が増えるのも、交通事故が増える要因のひとつだろう。

忙しい年末、年始めに自ら運転する車で交通事故を引き起こすことは当然誰でも避けたいもの。そんな“交通事故リスク”を避けるためには、運転技術を含めた4つのポイントを意識する必要があるという。その中でも重要な「運転計画」を軸に、安全に目的地に着くまでの心得について、「安全心理学」の専門家・島崎敢氏が解説する。

運転に求められる能力4つの階層

「運転がうまい人」と言うとどのような人を想像するだろうか。

運転操作がスムーズで車を巧みに操る人や、車両感覚に優れていて素早く車庫入れができる人。あるいは、交通環境の中のどこにどのような危険が隠れているのか、素早く正確に見つけられる人を想像するかもしれない。

もちろんこれらは「運転のうまさ」に違いないのだが、これらが満たされていれば安全に走れるかと言うと実はそうでもない。

フィンランドの交通心理学者ケスキネンは、運転という行為を4つの階層に分けて考えた。

車を操る巧みさを「操作スキル」の階層、危険を見つける力を「状況認識」の階層とし、下の2階層とした。ケスキネンはこの上に「運転計画」の階層と「安全態度」の階層があると説明している。

この考え方の面白いところは、それぞれの階層に求められる能力は、1つ上の階層が決めているところだ。どういうことか順番に見ていこう。

下から2番目の「状況認識」がうまくいかない場合。つまり、直前まで危険な対象を発見できないと、ギリギリのタイミングで避けなければならないので、高度な「操作スキル」が必要になる。しかし、危険に事前に気がついていれば、ゆっくり回避すれば良いので「操作スキル」は最低限で済む。

3番目の「運転計画」が不適切な場合はどうか。到着時刻に間に合うかギリギリのタイミングで出発し、危険な裏道を飛ばしていかなければならないと、高度な「状況認識力」が必要になる。しかし、時間に余裕を持って出発し、優先道路中心のルート設計ができていれば「状況認識力」は最低限で良い。

最上位の「安全態度」が悪いと、効率を優先したギリギリの「運転計画」を立ててしまうが、安全を最優先する態度があれば、無理な「運転計画」は立てないだろう。

このように考えてみると「運転がうまい」だけでは安全に走れないことがよく分かる。逆に適切な安全態度と、それに基づいた無理のない運転計画さえできれば、運転はうまくなくても、安全に目的地に着くことができるのだ。

なお、ここで言う運転計画には時間やルートなどの表面的な内容だけではなく、疲労や焦りやイライラなど、運転に悪影響を及ぼす自分の状態とどう付き合い、折り合いをつけていくかといったことも含まれている。

そこで、年末年始の帰省や旅行に際して、筆者が思いつく運転計画のポイントを列挙してみるので参考にしてほしい。

年末年始の運転“心得”

・時間について

今この瞬間に、地図アプリで調べて出てくる目的地までの所要時間は、今の交通状況での所要時間である。年末年始は各地で交通集中による渋滞が予想されるため、インターネットなどで公開されている年末年始の渋滞予測情報を参考にして、所要時間の増加分も計算に入れよう。その上で、予想外のことが起きても良いように十分に時間的余裕のある計画を立てよう。特に飛行機に乗るなど、遅れが許されない時に渋滞に巻き込まれると、平常心を保つのは難しい。このような場合には、十分すぎるほどの余裕を持とう。

羽田空港では、年末年始期間中の「公共交通機関」の利用を促している(羽田空港公式サイトより)

忙しくて十分な時間が取れないという人もいると思うが、その場合は到着時刻を気にしてイライラしながら運転するのではなく、目的地での予定のいくつかを諦める心づもりをしておこう。焦っていつも以上に飛ばしたり、合流で1台前に入ったりしても、到着時間はさほどかわらないことを心得ておこう。

・ルートについて

ナビや地図アプリが提案するルートは最短時間のルートだが、最善のルートではないかもしれない。山道や都市高速などは苦手な人もいると思うので、苦手な場所を通らずに済むルートがあるなら、選択肢に加えてみると良いだろう。遠回りすることに抵抗があるなら、迂回(うかい)ルート上にグルメスポットやお土産スポットなど、楽しそうな「寄り道場所」を探してみても良い。

・状況に合わせた計画変更について

冬場は場所によっては降雪や凍結があるし、これに伴う通行止めもあるかもしれない。交通量が増えるので、事故に伴う渋滞や通行止めの可能性も高まる。このような普段と異なる状況に対しては、できるだけ予測情報を持っておくとともに、代替プランを用意して臨機応変に計画変更することも大切だ。

天候については週間予報を利用して降雪や気温などの情報を入手し、計画の前提にすると良いだろう。ただし、予報は変化するので、情報を常に最新のものにアップデートしておこう。

事故による渋滞や通行止めは予測できないが、あらかじめ迂回ルートや、通行止めが解除されるまで時間をつぶせそうな場所などを調べておくと良い。大雪による立ち往生など、万が一の事態に対する物資の備えは重要ではあるが、立ち往生が起きそうな天候の時には、勇気を持って計画を中止することをおすすめする。

積雪が予想される時は車での移動をやめる決断力も大切だ(Anesthesia / PIXTA)

・自分や同乗者の状態について

年末年始にゆっくりできるように、仕事納めギリギリまで忙しく働く人は多いだろう。また休み中は、旅行先の楽しさからついついはしゃぎすぎてしまう人や、帰省先の懐かしい友達とついつい飲みすぎてしまう人もいるかもれない。年齢や体調にもよるが、これらの行為は少なからず自分を疲れさせているはずだ。そうだとすれば元気な時と同じような運転計画を立てるべきではないかもしれない。

疲れや眠気の他にも、心配事や風邪などの体調不良も運転に悪影響を与えることがある。「自分の状態」にきちんと向き合い、冷静に自己分析した上で、自分の状態を踏まえた計画を立てるようにしよう。

同乗者がいる場合には、自分だけではなく同乗者の状態にも配慮した計画が必要だ。特に小さい子どもなど、体力がない人、長距離移動に慣れていない人がいる場合には、急な車酔いやトイレの訴えにも慌てずに対応できるように準備が必要である。なお、自分も含めた人間の体調や感情の変化への対処は、事前の計画だけでなく、定期的なチェックと臨機応変な計画変更が必要なことも意識しておこう。

ひとまず筆者の視点で書いてみたが、抱える事情はそれぞれなので、他にも検討するべきことがあるかもしれない。冒頭にも書いたように、運転計画の良しあしは、運転のうまい下手よりも旅の安全を大きく左右する。

事故が起きればせっかくの休日が台無しになってしまう。それどころか、事故の規模によっては、人生が台無しになったり、人生がそこで終わったりするかもしれないのだ。そんな悲しいことにならないように、良い運転計画を立て、適切に運用して無事に目的地に着くようにしてほしい。

この記事が皆さまの楽しい旅の一助になりますように。どうぞご安全に良いお年をお迎えください。

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