“不正受給”の誤ったイメージの影響も…「生活保護制度」が“本当に必要な人”に利用されてない?

炊き出しや食料配布に並んでいても“生活保護”を受けない人は多いという(myconcept / PIXTA ※写真はイメージ)

会社などが休みとなり仕事も減る年末年始は、生活困窮者の人たちにとってつらい時期とも言える。そんな生活困窮者の人たちが頼る“最後のとりで”である生活保護制度は十分に活用されているのか。食料配布の支援を行う認定NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」(事務所・東京都新宿区)の取り組みを取材した。

「いろいろ事情があるから(生活保護)受けていない」

12月23日、晴れているとはいえ、師走の風が肌寒い東京都庁(東京都新宿区)横の広場。多くの人たちが食料配布に列をつくっていた。並んだ人たちの数は、もやいが2020年4月に食料配布を始めて以来最多となる779人。

並んでいたのは高齢の男性が中心だが、中には女性や30~40歳代ほどの男性の姿も。もやいに寄付された保存食(アルファ米など)や果物などが入ったビニール袋を、それぞれボランティア、スタッフから受け取っていた。

食料配布を受けるために列をつくる多くの人たち(写真提供:もやい)

もやいは2001年5月に設立。船をつなぎ止めるために用いる綱、 “もやい”を由来とする名称には、貧困や孤立にある人たちと社会をつなぎたい、という願いが込められている。

大西連理事長以下12人のスタッフが生活困窮者のための生活相談・支援、入居支援などに精力的に取り組んでおり、食料配布もその活動の一環だ。

生活困窮者に対し、生活保護の申請を同行する支援も行っている。生活相談・広報を担当するスタッフの結城翼さんによると、もやいを訪れる人たちに対し、毎週火曜日に行う生活相談の際、申請と申請への同行の意思を聞き、希望すれば各自治体の福祉事務所に同行する。年間100~150人に対応しているという。

一方、もやいが支援する人たちに限らず、生活保護制度が十分周知され、活用されているとは言いにくい。

都庁横で食料配布を受けていた東京都墨田区在住の40代男性は、「給料が上がらない。(配布を受ければ)少しは足しになる。(生活保護は)受けるつもりはない」。また、住所不定の60代男性は、「体が悪く仕事はしていない。(生活保護は)受けようとは思っているけど、受けていない。いろいろ事情がある」とそれぞれ語った。

受給を受けている人は資格者の2割

日本弁護士連合会(東京都千代田区)が発行するリーフレット「知っていますか? 生活保護のこと」によると、貧困により憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことが難しい収入・資産が一定基準以下の生活保護受給資格者のうち、実際に生活保護費(例・東京都大田区在住単身者の場合月額約13万円)を受けている人の割合(捕捉率)はおよそ2割。

生活保護制度が有効に活用されていない要因の一つとして、一部の不正受給者がイメージを落としていることも挙げられる。受給を受けていながらアルバイトで収入を得ていたり、仕送りを受けたりする人がいるという報道もある。

しかし、そんな不正受給の額の生活保護費負担金総額に占める割合はわずか0.28%(前出の日弁連リーフレットより)にすぎない。

生活保護制度に詳しい小久保弁護士は、「不正受給は問題視されるレベルではない。たとえば、困窮家庭の子ども(高校生)がアルバイトしていたが親に伝えていなかった、など悪意ではない申告漏れが多い」と説明する。

「もっと大々的な広報、周知を」

その上で小久保弁護士は、制度が有効に活用されていない理由として三つを挙げる。

一つは「生活保護を受けられることを知らない。制度の周知が不足している」こと。働いていたり、持ち家があったりすれば受けられない、といった誤解もある。

二つ目は国民の間にある忌避感。「どんなに困っても生活保護だけは受けたくない、という人がとても多い」(小久保弁護士)

三つ目は「水際作戦」。福祉事務所の窓口に行ってもいろいろな理由で追い返されることが多いという。また、親族等に問い合わせる「扶養照会」も申請をためらわせている。

そうした“ハードル”を乗り越えるために、小久保弁護士は「(国民の間に)誤った認識や偏見が染みついている。もっと大々的に広報、周知することが必要だ。諸外国では福祉専門職が担当している。(日本も)ケースワーカーの専門性を高め、窓口の職員を充実させていくべきだろう」と語る。

国民への理解の浸透については、前出のもやいの大西理事長もこう語る。

「生活保護が利用できる人は、利用していくことがその人の生活を支えていくことになる。(もやいで)受給をおすすめしているし、社会的にもすすめていくことが必要。一方で、制度自体にまだまだ偏見があり、利用したくないと思っている人も多い。必要な人は利用していい、ということが周知されてほしい」

© 弁護士JP株式会社