今年の言葉

 日本一短い手紙のコンクール「一筆啓上賞」の今年の大賞から。車の運転を卒業する母へ。〈俺も卒煙します。消臭剤も新品に。いつでも配車、御用命下さい〉。俺が代わりに運転するよ、と。声に出すのは照れくさく、文字でこそ伝えられる思いだろう▲米大リーグのドジャースに入団した山本由伸投手の会見から…ではなく、今年の母の日の言葉を。〈お母さんはお母さんでしっかり人生を楽しんでください〉。お母さんのおかげで野球をやってこられたよ、これからは自分の人生を大切にね。感謝もじわりとにじむ▲黒沢明監督の「生きる」をリメークした英国の映画で脚本を手がけた、長崎市出身のカズオ・イシグロさんが会見で。〈ひたすら働くことが豊かな人生に結びつくのか、多くの人が自問している〉▲「生きる」は、退屈に生きてきた男が、病身になって人生の意味を考えるドラマで、「豊かな人生」をいま一度、問い直そうとイシグロさんは呼びかけたのだろう▲先月死去した脚本家、山田太一さんが残した言葉。〈自分の中の欠点みたいなものは、財産なんです〉〈60%ぐらい幸せだったら、相当に幸せだと思うことにすればいい〉。欠けた所のない、完璧な人生なんて求める必要はないよ、と▲言葉の灯(ともしび)が胸に火影(ほかげ)を揺らし、今年も暮れていく。(徹)

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