とにかく波乱と話題の多かった今季のTOP3トピックスを選出【スーパーGT担当スタッフが2023年を総括】

 オートスポーツwebでは、2023年シーズンも世界各地のさまざまなモータースポーツ情報をお届けしてまいりました。今回は編集後記2023年スーパーGT編として、担当スタッフが選んだ個人的トピックTOP3をご紹介いたします。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

●ヤマウラ(GT取材1年目。現場は『見るまえに跳べ』の連続でした)の2023年GTトピックTOP3・立川祐路のGT500引退・熾烈を極めた450kmレース・復活を目指す25号車HOPPY Schatz GR Supra GT

 2023年シーズンは、私のスーパーGT取材元年となりました。スーパーGTは他のカテゴリーとは違い、足を運ぶとわかる特別な戦慄があります。とある先輩ライターさんには、「取材は9割が準備で決まるよ」と教えていただきましたが、マクロにもミクロにも道理を得る教訓だと感じております。それもそのはず、GTの現場は緻密に積み重なった無数の計画が錯綜する、逃せない一瞬の連続でできていました。

 そのハードルを目の当たりにしていたシーズン半ば、ピシャリと飛び込んできたニュースが立川祐路選手のGT500引退です。初めて観戦した2013年第6戦富士、目の前で最初にチェッカーフラッグを受けたのは立川選手が乗るZENT CERUMO SC430でした。その10年後、今年の第7戦オートポリスで立川選手が披露した電光一閃煌めく2台抜きは、まさしく逃せない一瞬を掴んだ所業であると感銘を受けたのを覚えています。

 ふたつ目に選んだ450kmレース、こちらは作戦が輝く至難のフォーマットでした。レース後半に上位を走るマシン達は、総じてその戦い方を善因に持つ、スマートさが光るレースだったと思います。第2戦富士のGT300クラスでは最終スティントで表のトップであるリアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rと裏のトップのmuta Racing GR86 GTが邂逅する展開となり、クライマックスのバトルに胸が熱くなりました。来年の450kmレースも、さらなるドラマが生まれる予感がします。

 最後に選んだトピックスは、復活を目指す25号車HOPPY Schatz GR Supra GTです。マシントラブルで火災に見舞われた第4戦富士の帰り道、キャリアカーの背に載せられて深夜の下道を帰る姿を目にした時には、一塊の金属と化してしまった25号車の救いを求める声が聞こえるようでした。今この時も再普請中の『ホピ子』が再びサーキットを走るその時を、切に願っております。

2023スーパーGT第2戦富士 GT300トップチェッカーを受けるリアライズ日産メカニックチャレンジGT-R(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/名取鉄平)
2023スーパーGT第4戦富士以降レースを欠場しているHOPPY Schatz GR Supra GT

●ゴトー(GT現場経験3年目が終わりました。シーズン終了後は体調を崩しがちですよね)の2023年GTトピックTOP3・東京オートサロン2023でのシビック・タイプR-GTサプライズ発表・『カルソニック』が『マレリ』にブランド変更・立川祐路のGT500クラスドライバー引退

 2023年もスーパーGTにはさまざまな出来事がありました。クラッシュやアクシデントなど“ネガティブ”なニュースが多かったということもあり、今回は“ポジティブめ”なトピックを選んでみました。

 まずは新年1発目の東京オートサロン2023でホンダがサプライズ発表した、2024年からのシビック・タイプRでのGT500クラス参戦です。まさかの4ドア車両がベースということで衝撃を受けました。その後ホンダは7月にシビック・タイプR-GTを正式に発表し、第8戦もてぎではデモランを実施。マシンの素性も良さげで、隠れた“ホンダ党”としては2024年のレースが楽しみです。

 続いては2022年チャンピオンであるTEAM IMPULを長年サポートしている『カルソニック』の『マレリ』にブランド変更です。自分は2004年からJGTC全日本GT選手権を見始め、そのときからブルーのカルソニック・インパルは、レッドのニスモとともにニッサンGTを象徴する存在でした。ブランドが変わると聞いて『カラーリングが変わるのかな』と少し不安にもなりましたが、ブルーのカラーリングはそのままで、TEAM IMPULの情熱は変わらないので、これからもマレリ・ブルーで熱い戦いをしてほしいです。

 そして、2023年のスーパーGTを語るうえで立川祐路選手のGT500引退は欠かすことのできないトピックです。大雨の2005年最終戦でのチャンピオン獲得、2009年第2戦鈴鹿での逆転劇、2012年開幕戦での山本尚貴選手とのバトル、2016年鈴鹿1000kmでのキレッキレの走りなど、挙げたらキリがないほどの名レースを見せてくれました。2024年は監督としてセルモを率いていくということで、その采配に期待しつつ、個人的に立川選手のXの投稿が好きなので、モータースポーツを広めるためにそちらでも大活躍してほしいなと思っております。

2023スーパーGT第8戦もてぎ デモランを行ったホンダ・シビック・タイプR-GT
パレードランを終え多くのドライバーや関係者、ファンの待つホームストレートに戻ってきた立川祐路

●ヒラノ(初めて取材でGTに行ってから21年。体力下り坂)の2023年GTトピックTOP3・カーボンニュートラルフューエルへの挑戦始まる・ミシュランのGT500挑戦終了・坪井翔の2回目チャンピオン&宮田莉朋ダブルタイトル

 そんなこんなで、2023年もスーパーGTはいろんなことがありました。開幕前のメーカーテストから大きなクラッシュがあったりしましたが、「これどうなるの?」となったのは3月の岡山公式テスト。今季から導入予定だったカーボンニュートラルフューエル『GTA R100』はGT500での使用は問題がなかったものの、GT300ではまったく問題がなかったところ、問題山積みだったところがクッキリと分かれていて、取材も難航しました。結果的に導入は延期され、その後も鈴鹿で行われたCNFテストや最終戦後にもてぎで行われたテストも取材しましたが、50%配合の『GTA R50』である程度の導入の目途がついた印象があります。新しいものへの挑戦はひと筋縄ではいかないことを感じました。

 そして、2009年からGT500クラスに参戦を続けてきたミシュランの挑戦も今シーズンでいったんラストに。個人的には、やはり2011~12年のMOLAの連覇が印象に残っています。フランスという距離を感じさせない体制、その実力とも、まさに世界トップメーカーの力をみせてくれたと思います。もちろん、ミシュランと戦い続けてきた日本メーカーの実力も上げてくれた存在ではないでしょうか。

 最後に、au TOM’S GR Supraのチャンピオン獲得についても触れておきたいと思います。坪井翔選手は、2021年に続いてのタイトル獲得。ここ3年で2回目のチャンピオンなので、まあ強いですよね。面白いのは、2019年のGT500デビュー以来、すべてチームメイトが違う点。それでも2回のタイトルだからすごい。最終戦もてぎのレース後、坪井選手の帰り際に出くわしたのですが「これは5回くらいチャンピオン獲れるんじゃない?」と声をかけたら、まんざらでもなさそうでした(笑)。そして、これまで5人しかいない同じ年のGT500とスーパーフォーミュラのダブルタイトルを獲得した宮田選手。しかも最年少での栄冠でした。2024年から、世界にその実力を示していただきたいと思います。

2023スーパーGT岡山公式テスト カーボンニュートラルフューエルが初導入となったGT500クラス
2023スーパーGT第8戦もてぎ 今季3勝目を挙げてシリーズチャンピオンを獲得した宮田莉朋/伊藤大輔監督/坪井翔(au TOM’S GR Supra)

●ハルロウ(GT取材デビューから、かれこれ15年目。若者に負けないように来年もガンバリマス)の2023年GTトピックTOP3・450kmレースの賛否と松田次生、山本尚貴の回復・立川祐路GT500引退とWedsSport ADVAN GR Supra7年ぶりの優勝・ミシュランGT500撤退と神レインタイヤ

 今年のスーパーGTは例年以上に大きな出来事が多いシーズンでしたね。その大きなアクシデントのなかで、松田次生選手、山本尚貴選手がひとまず回復傾向にあることが個人的に今年一番、何よりも良かったことだと思っています。おふたりともまだ完治には至っていませんが、2024年の活躍を心より願っています。

 そして取材者視点ですと、今年のGT取材は本当に、気力&体力との戦いが求められたシーズンでした……(涙目)。特に第3戦鈴鹿が予選後にポールが入れ替わり、決勝では大クラッシュの赤旗終了から決勝リザルトの変更と、二夜連続でプレスルームで日付が変わっていたことを思い出します。450kmレースは戦略の幅が広がって観ている側としてはとてもいいフォーマットだと思いますが、当時はまだ規則の面で穴がありました。450kmレースはチームや現場からはいろいろ負担が多いことも聞いていますが、規則面と合わせて改善できているのはいい傾向なのではないでしょうか。

 ふたつ目の立川選手引退、同じ学年のワタクシとしても感慨深いものがありました。そもそもこの仕事に就いて最初の取材がスーパーフォーミュラで当時KONDO Racingから参戦していた立川選手のシート合わせ取材で……。そしてチームバンドウの坂東正敬監督も同い年で、鈴鹿の決勝後、深夜までサーキットに残って抗議申請料の10万円の封筒を握りしめてドライバーに電話していた姿が印象的でした。

 最後はやはり、今後のGT500を考えても大きなターニングポイントとなりそうなミシュランのGT500撤退です。マルチメイクが大きな魅力のスーパーGTだけに今後の復帰、そして新たなタイヤメーカーが参加できることを願っています。それにしても、今年ほどレース前の天候を気にしていたシーズンも過去になく、そして雨が降ってきた時の、勝負の大勢が決まってしまったようなあの独特の感覚……なかなか味わえない貴重な体験をさせて頂きました。

ニッサン陣営とタッグを組んで2011年、2012年、2014年、2015年とドライバーズタイトルを獲得したミシュランタイヤ
抗議が通り、抗議申請料として戻ってきた10万円の封筒を握り締めながら、電話でドライバーに優勝が決まったことを伝える坂東正敬監督。

■2023年スーパーGTまとめページはこちら

© 株式会社三栄