「小倉城 竹あかり」の灯篭をお香に? 創業103年・老舗仏壇屋の挑戦【北九州市小倉北区】

今年で5回目を迎えた「小倉城 竹あかり」。皆さんは見に行きましたか?

小倉城に飾られた約16,000個の竹灯篭が作り出す幻想的な雰囲気が魅力の「小倉城 竹あかり」。実は、このイベントは北九州市のある問題の解消に一役買っているのです。

それが「竹害」です。高級食材「合馬たけのこ」の生産地でもある北九州市は、全国有数の竹林面積を誇ります。しかし同時に、タケノコ生産者の高齢化や慢性的な人手不足によって、”放置竹林”が拡大しているという現状があります。「小倉城 竹あかり」はその“害”を市の”財”に変えようとする想いから始まりました。

そして、そうした想いを継ぐ、新たな取り組みも行われています。今回、北九州ノコト編集部は「小倉城 竹あかり」で飾られた灯籠を使った「お香」が今年発売されたと聞きつけ、早速そのユニークな取り組みをしているお仏壇屋さんに話を伺いました。

仕掛け人は大正時代から続く老舗店舗

訪れたのは、北九州市民にお馴染みの魚町銀天街の中にあり、創業は大正8年という「野上神仏具店」。103年の歴史がある老舗です。今回は、このユニークな取り組みの仕掛け人でもある、代表取締役社長の野上哲平さんにお話を伺ってきました。

柔和な雰囲気が印象的な野上さん。早速、例の「お香」を見せてもらいました。

まず印象的なのはお香の名前。「小倉竹の香」と書いて、「こくらたけのこ」と読みます。竹を使っていることにちなみ、「たけのこ」という呼び方を採用したそうです。

そしてやはり目を引くのは、竹をそのまま使用したというお香の筒です。自然の風合いを残しながら加工をしているため、1つ1つ筒は異なった形をしており、味わいがあります。

筒の形が1つ1つ異なる為、それぞれに合わせることができるよう蓋は紙で制作。蓋を止める紐は小倉織を作る際に余った糸で作られています。糸を通すストッパーの部分も、お香を作る際に余った廃材の竹から作られているのだそう。

お香の色は着色料を使用しておらず、竹本来の風合いを大切にしているのだとか。苦みが混じったような自然の香りがしました。「笹と笹が触れ合う際の香り」をイメージして調香したのだそうです。

「この竹灯籠、どうするの?」 全ては出口戦略から始まった

2019(令和元)年に始まった「小倉城 竹あかり」ですが、野上さんは当初、このイベントの存在すら知らなかったのだそう。野上さんが「小倉城 竹あかり」を知ったのは、令和元年の開催終了後でした。竹あかりに関わっている知り合いからイベントについて聞き、北九州の問題を市民自身の力で解決しようとしているその姿勢に面白さを感じたのだそうです。

その一方で、竹灯籠の処分について問題を感じたという野上さん。当時の「小倉城 竹あかり」では、使用後の竹灯籠はイベント参加者に配布をしていたのだそう。しかし、竹灯籠は大きさもあるため、毎年持って帰ってもらうのにも限界があります。

「何とかしてこの竹灯籠を有効活用できないか。そして今までにあったありきたりなことではなく、街の人たちが街の人たち自身でできること、仏具屋としてできることをやりたいーー」。そんな想いから、竹あかりの「出口戦略」の開発に携わるようになったのだそう。

実際に「小倉城 竹あかり」に関わり始めたのは、翌年の第2回から。竹灯篭を再加工して作るお香を思い付いたのもこの頃だったのだそう。皆に良いと言ってもらえるようなお香を作りたいと、3年間をかけて研究開発をおこなったそうです。

試行錯誤の連続 日本初への挑戦と苦悩

試行錯誤していた3年間ですが、その開発は一筋縄ではいかなかったと語る野上さん。当初は、竹灯籠を使ったお香を簡単に作れると考えていたそうです。

しかし、お香を作っている業者に持ち掛けたところ、ことごとく不可能だと言われてしまいます。原因は竹の繊維でした。お香は練り物ですが、竹の繊維が邪魔をしてお香の形成を阻害していたというのです。唯一、知り合いの工場から声を掛けられ挑戦するも、結局はお香にできず、一度開発を中断しました。

諦めかけていたある日、知り合いの工場から「お香にする方法を見つけた」と連絡が来ました。その方法とは、竹灯籠を細かく砕き、原料に混ぜ入れるというものでした。早速、知り合いを伝って得た竹の粉末を混ぜて試作品を作り、ようやく第1弾の試作品が完成。竹を粉砕することでお香が作れると証明しました。

竹の繊維の問題をクリアした野上さんは、いよいよ本格的な開発に取り組むことに。まずは、竹灯籠を粉砕できる工場探しから始まりました。街の力でお香を作りたいとの思いから、北九州の中で工場を探したところ、日本でもトップクラスの粉砕技術を持つ工場を若松で発見。その工場も野上さんの取組に賛同し、試作品開発に取り組むことに。そうして第2弾の試作品が完成し、廃材からお香をつくるということに初めて成功しました。

その後、安定生産と調香に取り組んだ野上さん。特に、調香については、お香である以上妥協はできないことから、100種類以上のサンプルを制作したそうです。ポイントは、「清涼感」「苦み」「水っぽさ」、そして「お香っぽさ」。竹のイメージとお香の香りをうまく調合させるのに苦労したのだそう。

最終検討まで残った香りのサンプルを嗅がせてもらいましたが、香りの差はごくわずかで、編集部員は見分けがつきませんでした。それほど考え抜かれて香りが作られています。

中身だけではなく外観も こだわりを追及

「小倉竹の香」の特徴的な外観である、竹を使ったお香ケースにもこだわりが詰まっています。

当初、ケースについては現在のような竹の筒に入れて販売するのではなく、一般的な紙製の箱に入れて販売する予定だったのだそう。しかし、それでは面白みがないと思った野上さん。思案に暮れていたところ、竹をケースとして使う事を思いつきました。

しかし、ここでも多くの問題があったといいます。特に、竹の「乾燥しにくい」という特徴には手を焼いたそうです。竹には、内側に水分を貯めるという性質があり、さらに外側は油分でおおわれています。湿気が外に逃げづらい仕組みで、竹の内部の湿気は90%ほどになるそう。練り物であるお香に湿気は大敵。悪戦苦闘した末に、竹を煮ることで油を飛ばし、乾燥させることに成功したのだとか。

また、割れやすい竹を長持ちさせる工夫も怠りません。竹筒に特殊なニスを塗ることで、1年ほど割れずに持たせることが出来るようになりました。

様々な技術や先人の知恵、そして野上さんの熱意が合わさって、「小倉竹の香」が生まれたのです。

竹の街・北九州 竹あかりで繋がる小さなたけのこたち

何度も壁にぶつかりながら開発に取り組んだ「小倉竹の香」。売れ行きも好調とのことで、現在は小倉の新しいお土産として認めてもらえるよう、様々な場所で奮闘しています。

同時に、野上さんは現在「竹の街プロジェクト」という活動にも力を入れています。これは「小倉城 竹あかり」を中心として、街の様々な場所と「竹」を通じて繋がる土壌をつくるという企画です。

銀天街で100年以上商売をやってきた「野上神仏具店」として、北九州を盛り上げたいという思いが動機になっているそう。地域と繋がり続け、これからも地域に根付いて商売をしていくからこそ、「北九州を盛り上げたい」との思いもひとしお。

そして、北九州を盛り上げるためには、大きな企業や団体が行う事業も大切だけれど、小さな組織や存在が当事者意識を持ち、相互に繋がることが大切で、そのためにも「小倉城 竹あかり」という母体が重要なのだと野上さんは語ります。

「小倉竹の香」も繋がりを生んでいます。例えば、こちらの万華鏡。

竹のケースをつくるときに余った端材を利用し作られています。「小倉城 竹あかり」でワークショップを開き、製作したそうです。

野上さんの今後の目標は「竹あかりブランド」を確立していくこと。毎年行われる「小倉城 竹あかり」を中心として、様々な場所と繋がり、1つの大きいブランドとして確立したい。そして、そのブランドで小さな場所や組織を活性化させ、北九州をもっと魅力ある街にしたい。その心意気に、編集部員も圧倒されました。

ユニークなお香を作る人に話を聞きに行ったら、北九州のことをもっと好きになりました。

※2023年12月30日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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